貯蔵品と棚卸資産の違いとは?保有するメリット・デメリット、評価方法

貯蔵品と棚卸資産の違いとは?保有するメリット・デメリット、評価方法

貯蔵品と棚卸資産は、企業の財務管理において重要な役割を果たします。しかし、その性質や会計処理には明確な違いがあります。この記事では、両者の定義や具体例を通じて、それぞれの特徴を詳しく解説します。また、税務上の注意点や実務に役立つ仕訳処理の方法にも触れています。これらを参考に企業が適切な会計処理を行い、正確な財務状況を把握するために役立てください。

貯蔵品と棚卸資産の違いは?

貯蔵品と棚卸資産の違いは、商品や原材料以外の物品か否かで決まります。貯蔵品は消耗品や金銭的価値のある切手や収入印紙が該当します。一方、棚卸資産は売上高に直結する販売目的の商品や製造に必要な原材料が該当します。つまり、事業目的に直結しない少額の物品が貯蔵品であり、一般的に在庫と言われているものが棚卸資産です。

貯蔵品の概要とメリット・デメリット

貯蔵品の定義や具体例、会計処理の方法が理解できると税金を抑える効果が期待できます。また、貯蔵品を保有することのメリットとデメリットも把握しておくことで適切な管理が可能です。

貯蔵品とは?

貯蔵品とは、事業に関わる商品・原材料以外の未使用の消耗品を指し、資産として計上されます。例として、切手や文房具、段ボールなどが挙げられます。切手のように定期的に消費される物品を一定量ストックしているケースもあり、決算時に手元に残っている分を貯蔵品として計上することが必要です。

これらの物品は、備蓄されることもありますが、購入直後に使用されることが一般的です。したがってこれらの物品は、購入時に費用として計上し、期末時点の未使用分を費用から資産に振り替えます

それでは、具体的にどのような物品が貯蔵品として扱われるのか、見ていきましょう。

<金銭価値のあるもの>

  • 郵便切手
  • 収入印紙

<その他消耗品>

  • 文房具
  • コピー用紙・インク・トナー
  • 段ボール・封筒
  • ガムテープ

以上のような物品の未使用分について、貯蔵品として扱うことが多くあります。

これらの少量多品種な物品をすべて貯蔵品として資産管理するとなると、大変煩雑な確認作業と細かい経理処理・仕訳が大量に生じます。事務手続きの煩雑さを考慮すると非現実的であることは明白です。

実際には、定期的に消費することが見込まれる物品について、一定量をストックしている状況を仮定した簡易的な処理が、会計的にも、税務的にも認められています

貯蔵品を保有するメリット・デメリット

貯蔵品の保有にはメリット・デメリットのいずれも存在します。それぞれについてご説明します。

貯蔵品を保有するメリット

貯蔵品を保有するメリットは、業務やメンテナンスが滞ることを防げる効果があります。消耗品や備品が常に確保されていると、必要になったときにすぐに使用できるため困ることがありません。

また、価格変動のリスクを軽減できる効果もあります。一定期間、備蓄しておいてもあまり劣化しないものであれば、価格が高騰する前に購入しておけば長期的にみてコスト削減につながります。

貯蔵品を保有するデメリット

貯蔵品を保有する場合、保管スペースの確保にコストがかかるデメリットが発生します。劣化して廃棄処分しなければいけないものが発生するおそれもあり、どのような消耗品でも備蓄すれば良いというものではありません。

また、意図的に節税効果を期待した行為は脱税と判断される危険性もあります。たとえば、段ボールなどの梱包資材や、ボールペンなどの事務用消耗品は購入したときに経費計上が認められるのが一般的ですが、節税目的で期末付近に大量に購入した場合は資産計上が必要になることも考えられ、隠蔽・仮装行為による費用計上は脱税と判断される可能性があります。

棚卸資産の概要とメリット・デメリット

棚卸資産は、企業の販売活動に直結する重要な資産であり、適切な管理が必要です。棚卸資産の概要や分類を解説するとともに、保有することによるメリットとデメリットについて詳しく説明します。

棚卸資産とは、販売目的で保有する商品や製品、原材料などのことです。在庫を持つことで販売機会を逃さず、安定した製造や販売が可能になる一方、保管コストや劣化リスク、資金繰りの悪化といった課題も伴います。

棚卸資産とは?

棚卸資産とは、企業が販売目的で保有している、または将来販売することを目的として保有している資産のことです。棚卸資産は、大きく以下に分類されます。

  • 商品:販売のために仕入れた商品
  • 製品:自社で製造した製品
  • 仕掛品:製造途中の製品
  • 原材料:製品を作るために仕入れた原材料

これらの棚卸資産は財務状況にも影響を及ぼすため、適切な管理が必要です。

棚卸資産を保有するメリット・デメリット

次に棚卸資産を保有するメリットとデメリットについて、分けてご説明します。

棚卸資産を保有するメリット

棚卸資産を保有するメリットは、販売機会を逃さずに済む点が挙げられます。在庫があれば顧客の需要にすぐに応じられ、売上を確保しやすくなります。また、製造や販売を安定的に行えるのもメリットです。さらに、原材料価格の高騰に備えて、価格の高騰前に在庫を確保しておけば価格変動のリスクを避けることも可能です。

棚卸資産を保有するデメリット

一方で、棚卸資産を保有するデメリットも存在します。保管コストがかかる上、在庫が劣化するリスクも伴います。また、過剰在庫は資金繰りを悪化させる要因となります。

棚卸資産の主な評価方法

棚卸資産の主な評価方法である原価法低価法について詳しく解説します。原価法の6つの手法と低価法の特徴を理解することで、自社に最適な評価方法を選択する際の参考になるでしょう。
それぞれの特徴と具体的な手法を見ていきます。

原価法

原価法は、棚卸資産を仕入れた時点の原価をそのまま棚卸資産の単価として評価します。
しかし、原価には変動があるため、原価法にも複数の評価方法が存在します。具体的には、大きく6つの方法に分類され、企業の特性や業界の慣行に応じて選択されることが一般的です。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その1:原価法

個別法

個別法は、棚卸資産の評価において、一つひとつの資産を特定し、その製造原価や購入価格で評価する方法です。この方法により、正確な評価が可能となり、特に高額商品に適しています。

しかし、各商品の原価を個別に管理する必要があるため、手間と時間がかかるというデメリットもあります。また、商品数が多い場合には業務負担が大きくなるため、個別法は不向きとされています。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その3:個別法

先入先出法

先入先出法は、先に仕入れた商品から順に払い出されたと仮定して原価を計算する方法です。この方法は、実際の在庫管理の流れと一致しやすく、食品など消費期限のある商品の管理に適していることが挙げられます。また、全ての棚卸資産が実際の仕入価格に基づいて評価されるため、現実の在庫管理の実態に近い評価が可能であり、取得原価に基づく正確な評価ができるというメリットがあります。一方で、価格変動に即座に対応できず、期末に近い仕入価格の影響を受けやすいというデメリットも存在します。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その4:先入先出法

総平均法

総平均法は、平均原価法に分類されます。この方法では、前期繰越分を含めた1事業年度の仕入価格の総額をその個数で割って平均原価を求めることになります。メリットは価格変動の影響を受けにくく、計算が比較的簡便である点です。一方で、特定の時点での平均原価を正確に把握できないというデメリットもあります。総平均法は、他の評価方法と比較して、市場価格の変動の影響を受けにくい点で優れていますが、導入する際は企業の特性や他の評価方法を考慮する必要があります。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その5:総平均法

移動平均法

移動平均法は、平均原価法の一種です。商品を仕入れるたびに平均単価を算出し、その単価を売上原価として使用します。また、期末の棚卸資産の評価額としても利用されます。期中でも棚卸資産の単価を正確に把握できることで、販売業績のタイムリーな把握や高い精度での経営状態の把握が可能になることがメリットです。一方、商品を仕入れるたびに平均単価を算出する必要があるため、取り扱う商品が多い場合は実務での負担が大きくなります。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その6:移動平均法

売価還元法

売価還元法は、会計基準と税法の両方で認められています。この方法の特徴は、商品の売価を使用して棚卸資産を評価することと、類似した商品をグループ化して評価できる点が特徴です。

主に取扱品種が多い小売業や卸売業で使用され、個別の品目ごとに細かい仕入価格を管理する必要がありません。売価還元法のメリットは、販売品目が多い事業に適していることですが、同一グループの判断が難しいというデメリットもあります。実務では、どの商品をグループ化するかが重要な課題となります。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その7:売価還元法

最終仕入原価法

最終仕入原価法は、事業年度の最後の仕入価格を用いて全ての期末棚卸資産を評価する手法です。この方法は、税法上の法定評価方法として認められており、その簡便性から実務で広く使用されています。

決算日に最も近い仕入価格を1単位あたりの取得原価とするため、評価方法が非常に簡単で分かりやすいことが挙げられます。また、最新の市場価格に近い評価が可能となる点がメリットです。

一方で、会計基準上は条件付きでの容認にとどまっており、期末の価格変動の影響を受けやすいというデメリットもあります。最終仕入原価法は、その簡便性と税法上の位置づけから、特に中小企業において有用な評価方法となっていますが、期間損益計算への影響を考慮しつつ適用する必要があります。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その8:最終仕入原価法

低価法

低価法は、期末の時価と帳簿価額を比較し、低い方を評価額とする手法です。この方法では、商品の陳腐化や品質低下による市場価値の下落を会計上反映させることができます。

低価法を適用すると、期末に在庫の市場価値が帳簿価額を下回った場合、その差額を評価損として費用計上できるため、節税効果が期待できます。

特に、新商品の入れ替わりが激しい業種や季節商品を扱う業種において効果的です。ただし、税法上は洗替法のみが認められており、翌期首に評価損を戻し入れる必要があります。低価法の採用には税務署への届出が必要ですが、経営状況が芳しくない事業年度の税負担を軽減できる可能性があります。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その2:低価法

貯蔵品における税務上の留意点

貯蔵品の税務処理について、貯蔵品に関する基本的な税務上の留意点と、特に注意が必要な項目を詳しく解説します。適切な処理方法を理解し、実践することで、正確な確定申告を行い、不要な税務リスクを回避することができます。

貯蔵品の税務処理は、法人税基本通達に基づく処理方法や、収入印紙、贈答用商品券などの特殊なケースを例に会計処理について詳しく説明します。

基本的な留意点

貯蔵品の税務処理には慎重な対応が求められます。原則として、貯蔵品は資産計上すべきですが、一定の条件を満たす消耗品については費用計上が認められています

税務上、費用計上は課税所得を減少させる効果があるため、不適切な処理は脱税行為とみなされる可能性があります。一方で、適切に費用計上を行うことで節税効果を得られる場合もあります。

法人税基本通達2-2-15によると、「経常的に消費するもの」かつ「毎年おおむね一定量を取得するもの」に限り、購入時の損金処理が認められています。ただし、この処理は継続的に行う必要があります。

期中に購入した消耗品を費用計上しても、期末に未使用分がある場合は、貯蔵品として資産計上する必要があります。

特に留意すべき点

貯蔵品の中でも、特に税務上の注意が必要なものがあります。その代表例として、収入印紙や贈答用の商品券が挙げられます。

収入印紙については、消費税法上「不課税仕入」として扱われます。そのため、費用計上する際には消費税を認識せず、「租税公課」として計上するのが一般的な処理方法です。

同様に、贈答用の商品券も消費税の取り扱いに注意が必要です。これらは課税仕入とすることは適切ではありません。購入時に消費税を認識せず、費用計上する際は「交際費(不課税)」として処理するのが一般的です。

ケーススタディ:仕訳処理の事例

貯蔵品と棚卸資産は、その性質や用途に応じて異なる会計処理が必要です。適切な仕訳を行うことは、企業の財務状況を正確に反映し、税務上のリスクを軽減する役割があります。

貯蔵品と棚卸資産の仕訳処理について、具体的な事例を通じて解説します。これらの仕訳例を理解することで、適切な会計処理の方法がわかり、実務に活かすことができます。

貯蔵品の仕訳事例

例)会社案内のパンフレット10,000部を、800,000円で作成・印刷しました。

この場合の適切な仕訳処理を見ていきましょう。

回答)

会社案内のパンフレットは、取引先やお客様に配布することを想定したものですので、実際の使用(=配布)は事後に段階的に発生します。

原則として、発生主義に基づく処理が求められますので、以下のいずれかの方法により処理するのが適当と考えられます。

A.購入時に貯蔵品として計上し、使用に応じて費用科目に振り替える
B.購入時に費用科目を計上し、期末日に未使用分を貯蔵品勘定に振り替える

どちらが正しいということではありませんので、業務実態に照らして、合理的だと思われる方法を選択してください。ただし、一度基準を決めたら、簡単には基準変更を行うべきではありませんので、慎重な判断が必要です。

ちなみに、「A.」の方法で処理する場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額
貯蔵品800,000現金・預金800,000

なお、購入時に費用科目を計上し、期末日に未使用分があっても貯蔵品勘定に振り替えない方法も選択可能です。ただし、当該支出に重要性が無い場合にのみ認められる処理である点に注意が必要です。

棚卸資産の仕訳事例

例)

商品100個を1個あたり1,000円(合計100,000円)で仕入れました。その後、80個を1個あたり1,500円(合計120,000円)で販売しました。

この場合の適切な仕訳処理を見ていきましょう。

回答)

棚卸資産の仕入と販売に関する仕訳は、以下のように処理するのが一般的です。

A. 商品仕入時の仕訳
B. 商品販売時の仕訳
C. 期末棚卸時の仕訳

それぞれの仕訳例を見ていきましょう。

A. 商品仕入時の仕訳

借方金額貸方金額
仕入100,000現金・預金100,000

B. 商品販売時の仕訳

借方金額貸方金額
現金・預金120,000売上120,000

C. 期末棚卸時の仕訳

借方金額貸方金額
棚卸資産20,000仕入20,000

この仕訳は、売れ残った商品(20個×1,000円=20,000円)を資産として計上するものです。

なお、棚卸資産の評価方法(先入先出法、平均法など)によって、売上原価の計算方法が異なる場合があります。また、期末に残った商品(この例では20個)は、貸借対照表に資産として計上されます。

棚卸資産の会計処理は、企業の業種や取扱商品の特性によって適切な方法が異なる場合があるため、自社の状況に合わせて適切な処理方法を選択することが重要です。

まとめ

貯蔵品と棚卸資産の適切な管理と会計処理は、企業の財務状況を正確に把握し、適切な決算を行うために必要です。実地棚卸の際には、在庫数の正確な把握が不可欠で、最終仕入原価法や原価法など、自社に合う評価方法を毎期継続して適用することがポイントです。

決算時には未使用の貯蔵品や棚卸資産を適切に計上し、売上原価や経費計上を正確に行うことで、利益を適切に算出できます。固定資産との区別や経費との仕分けにも注意が必要で、判断に迷う場合は税理士に相談するのも良いでしょう。これらのポイントを押さえ、自社の状況に合わせた適切な会計処理を行うことで、正確で信頼性の高い財務諸表を作成することができます。

棚卸資産と貯蔵品に関するよくある質問

棚卸資産と貯蔵品について、よくある質問3つを紹介します。

Q1.棚卸資産と貯蔵品はどう違いますか?

棚卸資産は販売目的で保有する商品や製品、原材料などを指し、直接的に売上に結びつきます。一方、貯蔵品は事業運営に使用する消耗品や備品など、直接売上に関わらないものです。棚卸資産は売上原価として計上されますが、貯蔵品は使用時に経費として計上されます。

Q2.棚卸資産に含まれるもの・含まれないものは?

棚卸資産に含まれるものは以下のとおりです。

  • 商品(販売目的の仕入品)
  • 製品(自社製造の完成品)
  • 仕掛品(製造途中の製品)
  • 原材料(製造に使用する材料)

含まれないものは以下のとおりです。

  • 固定資産(土地、建物、機械設備など)
  • 貯蔵品(事務用品、包装材料など)
  • 金融資産(株式、債券など)

Q3.貯蔵品として計上できるもの・できないものは?

貯蔵品として計上できるものは以下のとおりです。

  • 事務用消耗品(文具、コピー用紙など)
  • 包装材料(段ボール、テープなど)
  • 切手、収入印紙
  • 燃料、油脂類

計上できないものは以下のとおりです。

  • 販売目的の商品
  • 製造用の原材料
  • 固定資産に該当するもの
  • すでに使用済みの消耗品

※貯蔵品は未使用の状態で、かつ事業運営に使用する消耗品や備品に限定されます。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。