棚卸資産で気を付けたい税務調査で狙われやすいポイント

棚卸資産で気を付けたい税務調査で突っ込まれやすいポイント

棚卸資産は税務調査で最も目を付けられやすい科目の一つです。
理由は、棚卸資産は多額になる場合が多く税金計算へのインパクトが大きいこと、社内だけで容易に計上額を調整できること、調整額は翌期に戻し入れられるため利益調整に利用されることが多いためです。

経理担当者の方とお話ししていると、棚卸資産を「決算日に倉庫にある在庫」と理解している方がいらっしゃいます。
もし、みなさまもそのように理解されている場合は、要注意ですので、この記事をしっかり読み込んでいただくことをオススメします。

今回は、税務調査で嫌な思いをしないために経理担当者が知っておきたい、「税務調査で狙われやすいポイントと対策」についてお伝えします

棚卸資産とはなにか ―倉庫にある在庫だけが棚卸資産ではない!―

在庫は漏れやすいので注意!

棚卸資産とはいわゆる「在庫」のことです。
商品(他社から仕入れたもの)、製品(自社で作成し完成したもの)、仕掛品(自社で作成途中のもの)、貯蔵品(未使用の消耗品)が棚卸資産であることはよく知られていますが、経理担当者が知っておかなければならない「在庫」は他にもあります。
税務調査で棚卸資産が狙われるのは、「在庫」の計上が漏れてしまうことが非常に多いからです。

作為的に在庫を少なくする経営者も中にはいますし、単なるうっかりで漏れてしまうことも多くあります。

経理担当者なら忘れてはいけない「在庫」の計上テクニック

「在庫」には上で紹介した他にも、「未着品」や「トラック在庫」などテクニックを知らなければ計上を漏らしてしまう「在庫」があります。

  • 「未着品」とは ―注文したけれどまだ届いてないものに注意せよ―

未着品とは、(3月31日で期末となる場合)3月31日に注文して、4月1日に到着した場合などの商品を指します。
会計上は3月31日の日付で仕入高に費用計上しますが、3月31日には店頭にも倉庫にも注文した商品がないためその分が在庫から漏れてしまうことがよくありますので注意が必要です。

  • 「トラック在庫」とは ―発送したけれど、まだ売り上げていない商品に注意せよ―

トラック在庫とは、(3月31日で期末となる場合)4月1日に先方へ引き渡して売り上げるために、3月31日にトラックに積み込んだ商品を指します。
未着品と同じで、3月31日には店頭でも倉庫でもなく、トラックのなかに商品があるため、在庫から漏れてしまうことがよくあります。

税務調査で狙われやすい4つのポイントと対策

指摘ポイント1:棚卸資産計上までの計算過程 ―「在庫はどうやって計算していますか?」―

  • 指摘されやすいポイント

税務調査では、最初に在庫計算の「過程」を聞かれることが多いです。実施棚卸として調べたものは何か、把握した数量は何にメモしたのか、それぞれの単価は何の資料から拾っているか、などを確認するためです。

  • 対策

在庫漏れが出ない棚卸の方法を確立しておくことが必要です。その上で、税務調査官の鋭い質問に対して誤解が生じない回答をしなければなりません。
たとえば、「在庫はどうしていますか?」などの質問が来た時に、「店頭と倉庫の在庫を数えました」と簡単に答えただけでは、「未着品やトラック在庫は確認しましたか?」など鋭い質問が飛んできてしまいます。

指摘ポイント2:決算直前と決算直後の取引 ―「3月31日の仕入れは?4月1日の売上は?」―

  • 指摘されやすいポイント

在庫は周辺資料からも鋭く突っ込みが入ります。売上側から見る場合には、決算直後の4月1日の売上を確認し3月31日時点のどの在庫を納品したのかと、決算後の売り上げと決算日の在庫をひとつずつ細かく確認されます。
仕入側から見る場合には、決算直前に仕入れた商品をいつ売り上げたのか、売り上げていないなら在庫に計上されているのかを確認されます。

  • 対策

漏れのない在庫表を作成するためには、在庫として「あるモノ」を数えるだけではなく、在庫として「なければならないモノ」は何かというのを確認しながら実地棚卸を行うことが有効です。

指摘ポイント3:誘導的な質問に気を付けろ! ―「3月から取り掛かっていた製品はありますか?」―

  • 指摘されやすいポイント

税務調査では「在庫に漏れはありませんか?」など直接的な質問がされることはまずありません。
調査官は言葉巧みに資料からは分からない情報を納税者から聞き出そうとします。

  • 対策

間接的な質問に対しても何のための質問なのかを考え、誤解を生むような回答をしない様に注意しましょう。

たとえば、家を建てている建築会社に調査が入ったとします。「4月の雪解け以降完成した家の写真はありますか?素敵ですね!雪が解ける前から作っていたものもありますか?」と聞かれたりします。これは3月31日時点の仕掛品がないかを聞き出すための質問です。
他にも実際に倉庫を歩きながら「古びたネジですね。何年もおいておくと錆びたりしますか?」など、在庫漏れを見つけるための質問が矢継ぎ早に投げかけられます。経理担当者の方は税務調査で来そうな質問を想定し、漏れのない在庫表を作成してください。

指摘ポイント4:在庫の取得価額と評価方法 ―「引取運賃は在庫に含めていますか?」―

  • 指摘されやすいポイント

棚卸資産は本体価格だけではなく、付随費用も含まれます。また、在庫単価の計算は税務署に届けた評価方法によって算定されているか確認されます。

  • 対策

仕入に係る引取運賃、運送保険料、検査料などの付随費用が棚卸資産として計算されているか確認してください。

指摘ポイント1でお伝えしたような棚卸資産の計算過程について質問された場合には「付随費用についても含めております」と調査官に正しく在庫が計算されている印象を与えておくことが大切です。

最後に

棚卸資産を正しく計算するための「ルール」は複雑ではありません。決算日に残っている在庫を漏れなく計算すればそれで終わりです。
しかし、正確な棚卸資産に計算するためには漏れなく在庫を計算するための「テクニック」を知っておかなければなりません。

今回の記事を読んで「決算日に倉庫にあるもの」だけが在庫ではないことは分かって頂けたと思います。
税務調査で突っ込まれやすいポイントについてもしっかり押さえていただき、実務に活用していただければ幸いです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 服部 峻介

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北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査、内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査等を実施。経営コンサルティング会社役員を経て、Seven Rich会計事務所を開業。スタートアップ企業を中心に、3年で160社以上の新規クライアントに対して会社の設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を行っている。

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