法定福利費の記載が必要?建設業の見積書の作成手順と最新情報

法定福利費とは

ここで解説する「法定福利費を内訳明示した見積書」での法定福利費とは、社会保険料と子ども・子育て拠出金の事業主負担分のことを指します。まずは、社会保険について簡単におさらいしましょう。社会保険とは以下の5つです。

  • 健康保険
  • 介護保険(40歳から65歳未満)
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 労働保険

このうち、事業主負担があるのは労働保険以外の4つとなります。

法人の場合は基本的に全て強制加入。個人の場合は健康保険、介護保険、厚生年金保険について、従業員が常時5人以上いる場合は強制加入となります。なお、労働保険と雇用保険は法人個人の区別なく、1人でも対象の労働者がいる場合は強制加入です。

 

建設業では社会保険の未加入対策を推進

建設業の仕事は肉体労働が中心の現場です。そのため、医療保険や年金など社会保障がなければ安心して働くことができません。そこで政府は建設業の若年入職者の確保に向けて、建設現場の従業員が安心して働ける環境づくりを目指し、社会保険の徹底加入を推進しています。そして、これを後押しするために始まったのが法定福利費を記載した見積書の活用です。

社会保険の加入は、下請企業にとっては事業主負担分の資金確保の問題があります。そこで平成25年9月、政府や建設業団体で構成される「社会保険未加入対策推進協議会」により、下請け企業からの見積書に事業主負担分の社会保険料を記載し、工事価格と合わせて請求するという取り組みが開始されました。

 

新設「法定福利費を内訳明示した見積書」

法定福利費を記載した見積書の活用を開始したものの、これまでは取引慣行によってトン単価や平米単価による見積が一般的で、法定福利費がどのように取り扱われているかが分かりにくい状況でした。記載についても単に「法定福利費を含む」という程度で、計算の根拠がわかりづらい部分があったようです。
そこで平成29年、国土交通省から「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」として、見積書に記載する法定福利費の算定方法やその内訳の明示といったルールが新設されました。

(参考)国土交通省 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順(簡易版)

 

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法定福利費を内訳表示した見積書の作り方

それでは平成29年に新設された作成手順を踏まえ、「法定福利費を内訳明示した見積書」の最新の作成方法を解説します。

労務費を計算する

法定福利費は現場作業員の労務費をもとに計算するため、まずは労務費の算出があることが必要条件です。労務費は企業ごとの実態に応じた方法で算出することになります。例えば、工事ごとに必要な人工数と平均的な賃金を用いて算出する場合は、以下のように計算されます。

<A工事>

  • 必要な人工数:10人
  • 平均日額賃金:10,000円
  • 労務費:10×10,000円=100,000円

なお、工事全体の平均的な労務比率(過去の実績から算定)を算出し、それを工事価格にかけて概算計上する方法も認められます。

労務費から法定福利費を算定する

見積書に記載する法定福利費は、労務費に社会保険料率をかけて計算します。見積書に記載する(請求できる)法定福利費は、以下のうち事業主負担分のみです。

  • 健康保険料
  • 介護保険料
  • 厚生年金保険料
  • 子ども・子育て拠出金(児童手当の支給のための費用等)
  • 雇用保険料

事業主負担分について、健康保険、介護保険料、厚生年金保険料の3つは保険料の半分、雇用保険料は業種(この場合、「建設の事業」)によって変わる割合、子ども・子育て拠出金については全額が対象になります。

雇用保険料以外の保険料率は、すべて協会けんぽが公開する保険料率で確認可能です。保険料率は都道府県ごとに異なるうえ、年に数回改定されます。そのため、見積書の作成にあたってはこまめに確認することが必要でしょう。
ちなみに、平成30年度4月分からの東京都の健康保険料率(事業主分)は4.95%(介護保険の対象者は+0.785%)、厚生年金保険料率(事業主分)9.15%、子ども・子育て拠出金は0.29%になります。

(参考)協会けんぽ 平成30年度保険料額表

雇用保険料率は、厚生労働省が年度ごとに発表しており、全国一律です。平成30年度の「建設の事業」にかかる雇用保険料率では、事業主負担分は0.8%になります。

(参考)厚生労働省 雇用保険料率について

この保険料率を労務費にかけた金額が、見積書に明記する法定福利費です。また、法定福利費の算定方法には労務費と同様、過去の実績から工事あたりの法定福利費の平均割合を算出し、それを用いて概算計上することも認められます。

法定福利費を見積書に明記する

法定福利費は、工事費とは別に見積書に明記します。例えば労務費が100,000円の場合、先程の東京都の例だと見積書に記載する法定福利費は下記の通りです。

保険料の種類保険料率
(事業主負担分)
労務費(円)法定福利費(円)
健康保険料4.95%100,0004,950
介護保険料0.785%×50%※393
厚生年金保険料9.15%9,150
子ども・子育て拠出金0.29%290
雇用保険料0.80%800

※介護保険の対象者(40歳以上65歳未満)の割合は便宜上50%とする。

もし概算の労務費率や保険料率を利用する場合は、工事価格・労務比率・保険料率を明記する必要があります。

消費税は法定福利費込みで計算

社会保険料の納付は、消費税の非課税取引となります。しかし工事見積書に含まれる法定福利費は、あくまで工事の対価のため課税対象取引です。したがって、工事見積書の消費税は法定福利費込みで計算して問題ありません。

見積書の参考様式

参考までに、国土交通省の例示を掲載しておきます。あくまで参考なので、必ずしもこの通りに作成する必要はありません。
もし現行の様式を改善して見積書を作成したい場合は、下記のポイントに注意して作成しましょう。

  • 法定福利費を工事費用の経費に含めず、別個に表示すること
  • 法定福利費には、事業主負担分のみを記載すること
  • もし事業主負担分以外の法定福利費を含めて記載する場合は、その旨を明記するとともに、事業主負担分以外の法定福利費の金額は、工事費の労務費から控除して調整すること


出典:「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」から

 

法定福利費を内訳明示した見積書の作成・支払義務

法定福利費を内訳明示した見積書の作成に法的な義務はなく、あくまで推進という位置づけです。
では逆に、見積書に記載された金額の支払い義務はどうでしょうか。

国土交通省では「よくある質問」として、見積書に明示された法定福利費を元請負人が一方的に削減したり減額調整を行ったり、実質的に法定福利費相当額を賄うことができない金額で建設工事の請負契約を締結したりして、通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合は、「当該元請下請間の取引依存度等によっては、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあります」と回答しています。

(参考)国土交通省 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順 「3.法定福利費を内訳明示した見積書に関するよくある質問」より

 

まとめ

建設業の社会保険未加入対策を解決してくれるかもしれない、画期的な見積書。しかも新設の見積書では単に計算根拠が明確になっただけで、難しい計算も必要ありません。これから法定福利費を内訳明示した見積書を作成される事業所は、ぜひ参考にしてください。

 

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経費精算システム「楽楽精算」

● 著者

石田 夏

石田 夏

税理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、 税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。