事業計画書作成に必要な法定福利費の計算方法

事業計画書作成に必要な法定福利費の計算方法

事業計画書でも法定福利費を計算しなければならない

事業計画書とは、事業の短期または中長期の計画を数値に落とし込んだもののことをいいます。将来の売上や仕入、人件費、諸経費などを予測して、利益計画を立てていきます。
法定福利費は人件費の一つで、必ず発生する費用ですから、事業計画書でも必ず計算し考慮しておかなければなりません。法定福利費が計上されていない事業計画書は、必ず発生する費用が計上されていない不十分なものです。そのため、金融機関や投資家などその事業計画書を見た人から「精緻に作成されていない事業計画書」と受け取られてしまう可能性がありますので注意しましょう。

将来の法定福利費を正確に計算するのはとても難しいです。将来入社する人や退社する人、その方の人件費を正確に予想しなければならず、事実上不可能です。
しかし、正確な計算はできませんが、法定福利費はおおむね給与・賃金などの人件費に対して一定の料率でかかってくるものですので、人件費に応じた概算の金額を計上することは可能です。そのため、事業計画書においては概算の法定福利費を計算して、計上するのが一般的です。

そもそも社会保険料はどうやって決まる?

社会保険料とは一般的に厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料のことを言います。
健康保険料などは加入している健康保険によって計算方法は異なりますが、厚生年金保険料と協会けんぽに加入している場合の健康保険料、介護保険料については、給料に対して決められた料率を乗じて計算します。
ただし、給料は毎月変動しますが、社会保険料は通常毎月は変動しません。
4月から6月の間に支給した給料を平均(標準報酬月額)し、それに基づいて標準報酬等級が決定されます。標準報酬月額表という表で、標準報酬等級毎の社会保険料が決められていますので、それを当てはめた金額が社会保険料となります。

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事業計画書において法定福利費を計算するときの注意点

法定福利費は通勤手当を含めて計算しなければならない

社会保険料は通勤手当も含めて計算します。そのため、事業計画書の作成にあたって法定福利費を概算計算するときも、そのことを考慮する必要があります。具体的には、給与・賃金などに通勤手当を加算した金額に社会保険料率を乗じることで計算します。

賞与に対しても法定福利費はかかる

社会保険料は賞与に対してもかかります。そのため、賞与を支給する計画であるときは、その分の法定福利費も見込んでおかなければなりません。賞与に対する社会保険料も、通常の社会保険料率と同じですが、一定額を超えて賞与の支給を受ける方については社会保険料率が変わってきますので注意しましょう。

退職金に対して法定福利費はかからない

退職金に対して社会保険料はかかりません。そのため、事業計画書において退職金を支給する計画を立てていたとしても、それに対する法定福利費は計算する必要はありません。

アルバイト・パートなどは法定福利費がかかる人とかからない人がいる

社会保険には加入要件があるため、アルバイト・パートなどで一定の場合には社会保険に加入せず、法定福利費がかかりません。そのため、社会保険に加入しないアルバイト・パートがいる場合は、給与や賃金等の総額に対して法定福利費の割合を乗じて計算しただけでは、概算の法定福利費が過大に計上される可能性があります。社会保険に加入しないアルバイト・パートの割合を考慮するなどの調整をしなければなりません。

介護保険料はかかる人とかからない人がいる

介護保険料は40歳以上の方に対してかかってくるものです。そのため、40歳未満の方と40歳以上の方がいる場合は、介護保険料を含めた社会保険料率と介護保険料を含めない社会保険料率とが出てくることとなります。将来の介護保険料がかかる人とかからない人の割合を正確に予測することは困難です。そのため、現時点の40歳未満の方と40歳以上の方の割合などを利用して法定福利費の調整を行うとよいでしょう。

法定福利費の計算方法

事業計画書で法定福利費の金額を概算計上するときの計算はとても簡単です。
たとえば、平成30年3月分からの大阪府における健康保険・厚生年金保険の料率は次のとおりです。

健康保険料……10.17%(介護保険なし)
厚生年金保険料……18.30%
計……28.47%

28.47%は会社負担分・個人負担分の合計ですので、会社負担分はその1/2である14.235%
となります。
事業計画書において、年間で5千万円の給与等の支払を見込んでいれば、それに14.235%を乗じた7,117,500円が概算の法定福利費の金額となります。
ただし、これはアルバイト・パートに対する給与や介護保険の有無、児童手当拠出金などのことを考慮していない概算のものですので、それらの影響が大きいようであれば調整が必要です。

まとめ

事業計画書を作成する際に法定福利費をどのようにして計上すればよいかについて解説しました。事業計画書では多くのことを予測して作成しなければなりません。法定福利費を計算する際も、上記の点を考慮し、丁寧に作成していれば、金融機関や投資家など事業計画書を利用する方にも明確に説明することができます。そのような事業計画書は金融機関や投資家にも信頼されやすいものとなるでしょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 松本 佳之

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税理士・公認会計士・行政書士 1980年兵庫県に生まれる。2001年公認会計士二次試験合格。2002年関西学院大学商学部卒業、朝日監査法人(現あずさ監査法人)試験合格、公認会計士登録。2007年税理士登録後独立し、北浜総合会計事務所を開設。監査法人勤務時代は企業公開部門に所属し、さまざまな実績を重ねる。

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