財務レバレッジの適正値は? 企業の安全性を正しく分析する方法
財務レバレッジは、企業の安全性を示す重要な指標のひとつです。健全な経営に欠かせない収益率の把握には必須の知識と言えるでしょう。ここでは財務レバレッジについて、ROEとの関係性などを踏まえながら詳しく解説していきます。
財務レバレッジとは?
レバレッジは「てこ」を意味する言葉です。会社経営に置き換えると、小さな自己資本で大きなビジネスを行うことを示します。自己資本が小さくとも、借入や社債発行で資金を集めて有効な資金投資を行えば、大きいビジネスを成功させることができるでしょう。このことを「財務レバレッジ」と呼びます。
財務レバレッジの計算式と具体例
財務レバレッジは、総資本を自己資本で除すことで求められます。
例として、自己資本が500万で外部資本が1,000万の会社では、以下の通り財務レバレッジが3倍になります。
ROEとの関係
財務レバレッジが使用される指標としてROEがあります。ROEは「Return on Equity」の略で自己資本純利益を示し、3つの要素に分解することが可能です。
財務レバレッジはROEを構成する要素であり、財務レバレッジが高ければ高いほどROEが上昇することが分かるでしょう。なお、ROEについては下記記事で詳しく解説しているので、合わせてご参照ください。
経理プラス:ROEとROAとは 収益性分析の指標を確認しよう
財務レバレッジは高ければ高いほど良い?
続いて、財務レバレッジが高い状況と低い状況を見ておきましょう。
<財務レバレッジが高い状況> | <財務レバレッジが低い状況> | |
---|---|---|
・借金経営が経常化している会社 | ・無借金経営 | |
・ベンチャー企業 | ・優良企業で借入が僅少な会社 | |
・設備投資が多い会社 | ・設備投資が少ない会社 |
財務レバレッジが高いほど、外部資本を用いて経営を行っていることを意味します。なお、一般的に好ましいとされる財務レバレッジは2倍程度です。宿泊業など先行投資が必要な業種は、高くなりやすい傾向にあるでしょう。財務レバレッジが大きい分、将来のキャッシュリターンを期待しているわけです。一方、財務レバレッジが高いことは借入返済や利息返済額が膨らんでいることを意味し、将来支出するキャッシュフローは適切なモニタリングが求められます。
財務レバレッジと業界平均
中小企業庁が発表している「中小企業実態基本調査」では、業界別の財務レバレッジの数値は下記のとおりとなっています。
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |
---|---|---|---|---|---|
全体 | 2.68 | 2.58 | 2.49 | 2.47 | 2.44 |
建設業 | 2.95 | 2.62 | 2.55 | 2.45 | 2.31 |
製造業 | 2.36 | 2.27 | 2.18 | 2.19 | 2.23 |
情報通信業 | 1.79 | 1.70 | 1.73 | 1.81 | 1.84 |
運輸郵便業 | 3.03 | 3.10 | 2.80 | 2.83 | 2.81 |
卸売業 | 2.84 | 2.66 | 2.53 | 2.63 | 2.43 |
小売業 | 3.36 | 2.96 | 2.63 | 2.77 | 3.22 |
不動産・物品賃貸業 | 2.46 | 2.60 | 3.04 | 2.73 | 2.50 |
学術研究・専門技術サービス業 | 2.22 | 2.00 | 1.79 | 1.67 | 2.01 |
宿泊・飲食サービス業 | 9.27 | 7.20 | 6.10 | 4.80 | 6.57 |
生活関連サービス・娯楽業 | 3.37 | 3.30 | 2.90 | 2.77 | 2.99 |
その他サービス業 | 2.90 | 2.99 | 2.19 | 2.37 | 2.06 |
(参照)中小企業庁「中小企業実態基本調査」調査の概況(集計結果)
先行投資が必要な宿泊・飲食サービス業が、際立って財務レバレッジが高いことが目立つデータです。このことからは、土地やホテルなど高額な先行投資を自己資本のみで賄い切れず、借入を実行することで財務レバレッジが上昇していることが推察されます。
自己資本比率との違い
自己資本比率は総資本のうち、自己資本が占める割合を示す指標。その計算式は下記の通りとなります。
自己資本比率は財務レバレッジの計算式と比較すると、分子分母を反対にした指標になります。よって、財務レバレッジと自己資本比率は逆数の関係にあるのです。つまり財務レバレッジが上昇する場合、自己資本比率は減少するということ。なお、財務レバレッジは適正値が2倍程度と先述しましたが、自己資本比率はその逆数で50%が適正値になります。
DEレシオとの違い
DEレシオとは、有利子負債が自己資本の何倍あるかを示す指標。以下の計算式で表されます。
財務レバレッジと比較して、分子が総資本と有利子負債で異なることが分かるでしょう。いずれも企業の安定性を測る指標ですが、少しニュアンスが違うので注意してください。なお、DEレシオは一般的に1倍以下が望ましいと言われています。
まとめ
財務レバレッジについて詳しく解説しました。財務レバレッジは、企業の安全性を把握するために重要な指標のひとつです。業界平均等と比較して自社の財務ポジションが適正か判断し、将来のファイナンス戦略に生かしましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。