管理会計の代表格「収益性分析」とは?

管理会計の代表格「収益性分析」とは?

管理会計の代表的な分析手法の一つに、「収益性分析」があります。収益性分析とは、企業の総合的な利益創出力を評価する手法の総称です。

管理会計の代表的な分析手法には、安全性分析や効率性分析などが挙げられますが、ある意味、これらの分析よりも重要なのが収益性分析です。その理由は、どれほど安全性が高く、効率性が高い経営を行っても、最終的な成果、すなわち利益を上げられなければ継続的な事業運営は不可能だからです。

今回はこの収益性分析について、代表的な指標を見ていきましょう。

収益性分析とは何か

収益性分析とは、企業の総合的な利益創出力を評価する手法の総称です。

管理会計には多様な手法がありますが、どれほど安全性が高く、効率性が高い経営を行っても、最終的な成果、すなわち利益を上げられなければ継続的な事業運営は不可能であるという点で、収益性分析は重要な分析手法です。次は収益性分析の代表的な指標をご紹介します。

売上高利益率

初めに、売上高利益率(ROS: Return on Sales)から見ていきましょう。

一口に売上高利益率といっても、この表現には、いくつかの比率が含まれています。分子には、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益とさまざまな利益が採用されますが、分母は売上高です。

計算により、売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率、売上高当期純利益率という比率が求められます。これらは、売上高に占める各種利益の比率を表す指標で、収益性分析の基本的な指標です。

以下に挙げる収益性分析指標にも共通ですが、産業ごとに固有の要因があるため、標準的な利益率は産業ごとに異なる点に注意が必要です。

たとえば、同じ非製造業でも、商社を中心とする商業の売上高営業利益率はわずか2%前後に過ぎませんが、不動産業は15%前後と高水準です。

業界の取引慣行、業界内の競争の激しさなどの各種要因に応じて、利益率が高い産業もあれば、低い産業もあります。実際に分析する際は、このような産業特性を十分に考慮しましょう。

総資本利益率

企業の総合的収益性を測定する代表的な指標は、総資本利益率(ROI: Return on Investment)あるいは総資産利益率(ROA: Return on Asset)です。

この指標にはいくつかのタイプがありますが、最もポピュラーなのは「総資本事業利益率」です。

総資本事業利益率(%) = {事業利益 × (営業利益 + 受取利息・配当金 + 持分法による投資損益) ÷ 使用総資本} × 100

分母は、株主から拠出された自己資本(純資産)と債権者から拠出された他人資本の合計である総資本を用います。

企業は、総資本を利用して経営活動を行った後に、債権者には利子を支払い、株主には配当を支払います。したがって、分母の総資本にフィットするような利益概念は、営業活動の成果たる営業利益に財務活動の成果である受取利息、配当金、そして持分による投資損益を加えた事業利益である、ということができます。

ROIは、企業ごとあるいは産業ごとに差異が見られます。そこで、なぜROIに差異が生じているかをより深く分析するために、次のようにROIを分解してみましょう。

事業利益 ÷ 総資本  = (事業利益 ÷ 売上高)  × (売上高 ÷ 総資本)
(ROI)     =   (売上高利益率)   ×   (総資本回転率)

ROIの水準は、売上高利益率と総資本回転率の相乗効果から決定されることがわかります。

自己資本利益率

ROIは、企業全体の収益性の指標であり、株主や債権者が共通して注目する指標です。
それに対して、株主にとってより直接的で重要な指標が「自己資本利益率」あるいは「株主資本利益率」(ROE: Return on Equity)です。

自己資本利益率(%) = 税引後当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

ROEは株主の視点からみた収益性の指標です。株主が出資した資本をもとに、どの程度の利益を上げたのかを測定します。最終的に株主に帰属する利益は、債権者に対する支払利息、税金などを控除した後の利益です。そこで、分子には税引後当期純利益を用います。

なお、自己資本比率を負債比率、固定比率や固定長期適合率と同様、ROEの分母である自己資本として何を利用するのかが論点になります。分析目的に応じて、適当な論理を採用するようにしましょう。

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財務レバレッジ効果

安全性分析の観点からは、自己資本比率は高い方が望ましいと見なされます。しかしながら、ROIやROEの関係を考慮すると、必ずしも自己資本比率が高い方が望ましいとは言い切れないという点をご紹介します。

キーワードは、「財務レバレッジ」(financial leverage)です。

財務レバレッジとは、負債比率(負債÷自己資本)、あるいは負債÷総資本のことです。
レバレッジは「テコ」を意味し、負債の利用がテコとして作用して1株当たり当期純利益(EPS)やROEが変化することを「財務レバレッジ効果」といいます。

それでは、具体的なケーススタディを通じて、財務レバレッジの効果を見ていきましょう。A社、B社、C社という3つの仮想的企業を用いて、その点を検証します。

(単位:円)
総資本営業利益率=20%の場合

A社B社C社
使用総資本1,000,0001,000,0001,000,000
他人資本0500,000800,000
自己資本1,000,000500,000200,000
発行済株式数 (株)10,0005,0002,000
営業利益200,000200,000200,000
支払利息040,00064,000
経常利益200,000160,000136,000
税金 (50%)100,00080,00068,000
税引後利益100,00080,00068,000
ROE (%)101634
EPS101634

【条件】

  • 使用総資本額=100万円、総資本営業利益率=20%が同一の企業、A社、B社、C社を想定する。
  • A社、B社、C社のそれぞれの資本構成は異なっており、自己資本比率はそれぞれ100%、50%、20%である。
  • また発行済株式数は、A社が1万株、B社が5,000株、C社が2,000株である。
  • なお、負債利子率は8%、税率は50%とする。

3社とも総資本営業利益率が20%であることから、営業利益は20万円となります。しかし、他人資本への依存度が異なることから、支払利息がそれぞれ異なります。その影響により、経常利益、税引後利益に差異が生まれ、ROEやEPSが異なってきます。

3社は他人資本への依存度が異なるだけで、その他は同一であることから、ROEおよびEPSの差異は他人資本依存度に起因していることがわかります。

この結果、負債依存度が高いC社のROEが最も高くなりました。そして、負債依存度の低いA社のROEは低水準にとどまっています。

このデータからは、「自己資本比率を下げて財務レバレッジを上げた方がROEおよびEPSが高まる」という結論が引き出せそうです。しかし、結論をここで急いではいけません。

実はこのシミュレーションでは、3社のROIをすべて20%に固定しています。そこで、次にROIを変化させてみましょう。

(単位:円)

A社 (自己資本比率100%)
ROI (%)2015842
営業利益200,000150,00080,00040,00020,000
支払利息00000
経常利益200,000150,00080,00040,00020,000
税金100,00075,00040,00020,00010,000
税引後利益100,00075,00040,00020,00010,000
ROE (%)107.5421
EPS107.5421

B社 (自己資本比率50%)
ROI (%)2015842
営業利益200,000150,00080,00040,00020,000
支払利息40,00040,00040,00040,00040,000
経常利益160,000110,00040,0000▲20,000
税金80,00055,00020,00000
税引後利益80,00055,00020,0000▲20,000
ROE (%)161140▲4
EPS161140▲4

C社 (自己資本比率20%)
ROI (%)2015842
営業利益200,000150,00080,00040,00020,000
支払利息64,00064,00064,00064,00064,000
経常利益136,00086,00016,000▲24,000▲44,000
税金68,00043,0008,00000
税引後利益68,00043,0008,000▲24,000▲44,000
ROE (%)3421.54▲12▲22
EPS3421.54▲12▲22

【追加条件】

  • 使用総資本は変えずに、総資本営業利益率を20%、15%、8%、4%、2%と変化させる。

図表からは次の2点が読み取れます。

  1. 総資本営業利益率が負債利子率(8%)と等しいとき、自己資本比率の違いにかかわらず、3社のEPS(4円)、ROE(4%)はすべて同一水準である。
  2. 自己資本比率が低いほど(すなわち財務レバレッジが高いほど)、総資本営業利益率が変化したときのEPSおよびROEの変化が大きい。

これを言い換えると、負債利子率と総資本営業利益率が等しい点を境として、レバレッジ効果が逆転します。つまり次のような関係が存在します。

「総資本営業利益率<負債利子率」の場合、負債利用は不利である
「総資本営業利益率>負債利子率」の場合、負債利用は有利である

以上から、財務レバレッジ効果を考慮に入れて、自己資本と負債の構成を検討する必要があることが理解できたと思います。

まとめ

収益性分析の代表的指標と財務レバレッジ効果について見てきましたが、いかがだったでしょうか。
どれほど安全性が高く、効率性が高い経営を行っても、最終的な成果、すなわち利益を上げられなければ継続的な事業運営は不可能であるという点で、収益性分析は重要な分析手法ですので、注意深くモニターしたいポイントです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。