【2019年度税制改正大綱】中小企業の成長を狙う2つの改正と企業支援

2018年12月14日、平成31年度税制改正大綱が発表されました。これを発表した与党は、少子高齢化が中長期的な経済成長を制約する中、持続的な経済成長の実現のためにはイノベーション促進によって生産性を高めていくことが不可欠であるとしています。

経済規模で優る米中両国の研究開発費支出が今なお日本より高い水準にあることも、財政界の危機感を強める要因のひとつです。

今回の税制改正大綱では、研究開発費支出を促進するためのさまざまな優遇税制の設置・拡充が定められており、2019年4月1日以降開始する事業年度から原則適用されることになります。

本記事では、経済産業省の「平成31年度経済産業関係税制改正について」における解説を参照しながら、企業の経理担当者が知っておきたいポイントを中心にご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。

(参照)自由民主党/公明党「平成31年度税制改正大綱」

(参照)経済産業省「平成31年度(2019年度)経済産業関係税制改正について」

 

いまなぜ「イノベーション」なのか

本題の税制改正大綱の内容をみていく前に、いまなぜ「イノベーション」の必要性が高まっているのか、その背景に触れておきたいと思います。

2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した、京都大学の本庶佑特別教授は、受賞発表後のインタビューで次のように述べました。

「最初は海の物とも山の物ともつかないものから、芽が出てくる。基礎研究を幅広く根気強くサポートして、芽が出てきたら育てるという長期的な戦略できちんと調整してもらいたい。」

大学が独立行政法人化され、学術分野は市場原理に基づく成果主義の軸で評価される傾向に危機感を覚え、長期的観点に立って取組を継続することの重要性を訴えた発言と解釈できます。

今回受賞したがん免疫療法の研究は、数十年単位で取り組んだ結果の産物だそうです。
全くの想像になりますが、その間、研究に対して否定的な見方をする人もいたかもしれませんし、いつ日の目を見るかわからない無駄な研究だという視線に晒されたこともあったかもしれません。実際、実用化という日の目を見ないまま、あるいは研究の基礎となる仮説そのものの不適切性が証明され終焉していく研究も多いのが、基礎研究の特徴です。ただ、そうした実用化されるかどうかわからない基礎研究を軽んじれば、一定の割合で出てくる実用的な成果の芽を摘んでしまうことに繋がりかねないという警鐘を、本庶特別教授が鳴らしているのです。

こうした短期志向研究への偏りは、大学・学術分野に限った話ではなく、民間企業にも似た課題意識があります。経済のグローバル化を背景とする熾烈な企業間競争の中で、短期的な利益を追求する傾向が強まっているからです。

特に日本国内の企業においては、企業が研究開発費を抑制する傾向が顕著です。
OECDの試算によると、2016年における米中両国の民間企業の研究開発投資は約35兆円に達する一方、日本の約13兆円にとどまります。
安い人件費や材料費による価格競争力に強みを有する新興国企業に太刀打ちするためには、技術力に基づく品質で勝負しなければならないはずの日本がいま、こうした状況に陥りつつあるのです。

この状況に危機感を覚える政府は、第5期科学技術基本計画(2016年1月閣議決定)の中で、民間企業の研究開発費をGDP比3%まで高める方針を発表しています。さらに、未来投資戦略2017(2017年6月閣議決定)の中で、2020年度までに官民合わせた研究開発費をGDP比4%まで高めると発表しています。

研究開発促進によるイノベーション実現の土壌を整えることで、生産性を高め国際的な競争力を維持したいという想いは、民間企業(産業界)も大学(学術界)も同様なのです。
この産官学共通の想いが、「生産性革命」、「オープンイノベーション」を謳う背景にはあります。

また、研究開発投資の促進に加えて、ベンチャー企業の誕生・成長を後押しできる環境の整備も喫緊の課題となっています。
高度経済成長期には世界を席巻した日本の企業の多くも、今では成熟期に入り、成長著しい中国を始めとしてアジア諸国の新興企業の勢いに押され気味です。
経済全体の血流を滑らかにするためには、大企業が潤うことも大切ですが、同時に新しい企業が生まれ新しい価値と刺激を世の中に与えることが重要です。
このような背景や危機感から今回の税制改正の中で、一層の研究開発支出、ベンチャー企業の持続的成長環境を整えることを目的として、各種優遇措置が追加されていますので、以下の段落からご紹介していきます。

 

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ポイント1:研究開発税制の拡充

研究開発支出のインセンティブ付与を目的として、各種優遇措置が追加されています。

  • 控除上限の引上げ

    研究開発投資を支援する目的から、法人税額の控除上限が40%から45%に引き上げられます。

  • 総額型の控除率のインセンティブの強化・時限措置の延長

    2018年度末までの時限措置としていた、総額型の控除率10-14%部分について、2年の期限延長が予定されています。つまり2020年度末まで同措置が継続されるということです。

    また、試験研究費を増加させた場合には控除率を引き上げ、逆に減少させた場合には控除率を引き下げることにより、試験研究費の支出のインセンティブを強化します。

  • オープンイノベーション型の支援対象の拡大・一部控除率引上げ

    企業間の研究連携を加速させる目的から、研究開発型ベンチャーと共同研究・委託研究を行う場合のオープンイノベーション型の控除率が引き上げられる予定です。
    また、民間企業等への委託研究についても、優遇を受けられるオープンイノベーション型の対象として追加されます。

  • ベンチャー企業の研究開発の促進、事業会社とベンチャー企業との連携促進

    会社設立後10年目までの期間にある企業を対象として、翌事業年度に繰り越される欠損金があることなどの要件を満たした場合に限り、控除上限が引き上げられる予定です。
    資本的な体力の弱いベンチャー企業の研究開発投資を支援する目的です。

  • 売上高試験研究費割合に応じた控除率・控除上限の上乗せ

    売上高に対する試験研究費の割合が10%を超える企業の控除上限が引き上げられる予定です。
    積極的に研究開発投資を行う企業を優遇する措置です。

 

ポイント2:ストックオプション税制の適用対象者の拡大

今回の税制改正では、ストックオプション税制の適用対象者の拡大も予定されています。
ベンチャー企業の誕生・成長を後押しできる環境の整備が、日本経済発展には不可欠です。

ベンチャー企業の成否を分けるのは、経営者であると言われます。組織が小さい分、また瞬発力が求められる分、経営陣の長期的コミットが求められるのです。

ストックオプションとは「株式の購入権利」のことで、予め決められた価格(=行使価格)で購入することができるため、行使価格より高い時価で売却することにより利益が得られるというものです。
現行の適用対象者は取締役、執行役及び使用人のみでしたが、ベンチャー企業の成長に貢献する業務を行う外部協力者でも、一定の要件を満たせば適用が認められるようになります。

取締役など、企業の行く末に影響を与える個人に対してストックオプションを付与し、将来株価が上昇したときに大きな利益が得られる構造を作ることにより、より長期的な観点から企業の成長を目指すモチベーションを与えることができます。
また、ベンチャー企業の多くは資本力に限りがあり、優秀な役員に対して十分な報酬を支払う財力がないため、報酬支払いの先送りという側面もあります。

ストックオプション税制とは、ストックオプションの行使によって得られる経済的利益に対する課税を緩和する制度です。これにより、経営上のキーパーソンの企業価値の向上に対するモチベーションを一層高めることができます。

今回の改正により、適用対象者が外部協力者の範囲にまで拡大されたため、社外の人材であっても、より長期的・主体的に企業価値向上にコミットしやすい環境が生まれることが期待されます。

 

まとめ

今回は、平成31年度の税制改正について、研究開発投資・イノベーションの促進を目的とした税制改正のポイントをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
多岐に亘る改正が予定されていますが、未来を見据えた研究開発により生産性を高めなければならないという強い危機感が背景にあることがご理解いただけたかと思います。

人口減少、労働力減少など、厳しい環境に置かれている日本経済の一員として、生産性向上に資する事業・価値を生み出す役割の一端を担いたいものです。

 

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● 著者

田中 仁

田中 仁

大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。