研究開発費と経理処理―会計の歴史との関連も

研究開発費と経理処理――会計の歴史との関連も

研究開発は、企業が市場で生き残るために必要不可欠な支出です。
ただ、その経理処理については会計、税務、そして国際的な企業評価の流れも汲みながら変化を続けてきました。今回は研究開発費の経理処理を確認しながら、企業会計の原理原則について学んでいきます。

大前提の確認:現代の企業会計は何を基本目的としているのか?

研究開発費に関する経理処理について学ぶ前に、まず確認をしなければならないことがあります。それは現代の企業会計が何を目的としているのか?ということです。

企業会計は「適正な期間損益計算」を目的としています。期間というのは通常一年間で、損益計算というのは儲かっているのか?損をしているのか?という計算をすることです。売上>経費であれば利益であり、売上<経費であれば損失です。

ここで問題となるのは「適正な」という箇所です。実はこの適正という言葉の解釈は、時代によって大きく異なってきました。

経済基盤が弱く、企業が脆弱であったころ、会計の主目的は「その企業の換金能力」を分析することでした。お金を貸している人からすると、その企業がいつまで存続するのかわからないため、仮に企業が潰れたとしてどれだけのお金を回収できるかを知る必要があったからです。このような基準に立つと、会計上資産は「お金に換えられるもの」であることが必要です。

経済がある程度発展し、企業の存続が確かになってくると会計の目的は「どれくらい儲ける力があるのか」という分析になりました。その結果、資産は「売上をあげる力を有するもの」という認識になりました。この前提に立つと、例えば土地の含み益や将来売上につながりそうなブランド買収など、様々な取引が資産として認識されるようになりました。

20世紀末頃になると、上記のような定義を強引に解釈して様々なものが資産として計上されるようになりました。その結果、様々なバブルや金融危機が続くことになり、あらためて会計の基本目的が問われました。そこで会計の基本目的を「ある程度収入の裏付けがある利益計算」と設定しました。少し昔の定義に戻ったのです。そうすると、資産は「企業に収入をもたらすもの」と定義されます。少し前の資産定義に比べると、昔の考え方に戻ったことが分かります。

このように、会計の定義は常に揺れ動いています。その結果、何をもって資産とするのかもその時代に応じて考え方が変わってきます。

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研究開発費の処理……会計基準と税務での取り扱い

日本の「研究開発費に係る会計基準」では、研究開発費について次のように定義しています。

  • 研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探求をいう
  • 開発とは、新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう

研究成果を具体化するのが開発、と考えると概ね合っています。研究開発費の中身としては、人件費や材料費、設備に関する償却費など、かなり広範に渡って該当しています。

この「研究開発費に係る会計基準」において、研究開発費は発生時点ですべて費用として処理をしなければなりません。

ただし、注意が必要な点もあります。それは税務での取り扱いです。ここまでは企業会計についてお話をしてきましたが、実務においては税務会計も存在します。税務会計では企業会計と処理基準が異なります。今回はあくまでも企業会計上の研究開発費について取り上げていますので、この点については省略をさせて頂きます。

研究開発費は費用なのか?資産なのか?

上述の通り、日本の「研究開発費に係る会計基準」では、研究開発費は費用処理となります。ちなみに、昔は「試験研究費」という科目名で資産計上を認めていた時期もあります。
なぜ費用として処理されるのかを理解するためには、最初に取り上げた「企業会計の基本目的と、それに伴う資産定義」が問題となります。

現状における資産定義は「企業に収入をもたらすもの」です。では研究開発費は企業に収入をもたらすのでしょうか? 皆様もご存知かと思いますが、企業が取り組む研究開発の多くは失敗に終わります。つまり、大概の場合には企業に収入をもたらさないのです。当たればデカイが、大概の場合は失敗に終わる。これが研究開発の日常です。

したがって、研究開発費は資産定義からして「資産とは認められない」と考えられます。なので「研究開発費に係る会計基準」においては、資産ではなく費用として処理をするように支持されているのです。

ただし、ここにもゆらぎがあります。国際的な会計基準であるIFRSにおいては、研究開発費について開発段階に係る支出の一部は資産として処理することを求められています。グローバル企業を中心として、再び資産について積極的(攻撃的)な定義が盛り上がった結果とも言えます。今後、日本の会計基準が国際的な基準に寄り添うことになるとすると、研究開発費に関する経理処理も再び変更される日が来るのかもしれません。

まとめ

企業会計の基本目的は時代によって変化しており、現代では「ある程度収入の裏付けがある利益計算」を目的としています。その結果、資産とは「企業に収入をもたらすもの」として認識されています。研究開発費は、大概が失敗に終わるため企業に収入をもたらさないことが多いです。したがって資産の定義から外れるため、発生時に費用として処理されます。しかし、国際的な基準では一部について資産計上が要請されているのが現状です。

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● 著者

高橋 昌也

高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。