【会計士監修】ROA、ROEで何が分かる?使い方や計算式、分析方法を解説
ROAという言葉を聞いたことはあるでしょうか。
よくROEと混同される方もいますが、どちらも経営上で重視される、収益性分析の指標です。今回は、ROAの具体的な計算・分析方法、また改善方法やROAとの違いについて解説します。聞いたことはあるけど、詳しくは分からない、どのように使ったら良いか分からないという方は、しっかりと確認しておきましょう。
ROA(総資本利益率、総資産利益率)とは
ROA(Return On Assets)とは、総資産利益率のことを指し、会社が持っている資産を利用して、どの程度の利益を上げているかを示す指標です。総資産利益率は次の計算式で算定します。
ROEは自己資本を用いて算出しますが、ROEは分母が総資産なので、「会社の資産を使って、どれだけ効率的にお金を稼いだか?」を意味します。株主だけではなく、利害関係者すべてが利用する指標です。具体的な計算方法については後ほど紹介します。
ROA とROEとの違いとは?
ROEとROAはよく似ていますが、計算式の分母に違いがあります。分母に自己資本を用いたものがROEで、分母に総資産を用いたものがROAです。
ROEは出資に対するリターンですので、異業種間で比較する際にも用いることができます。一方、ROAは総資産に対するリターンですので、異業種間での比較には適していません。
ROAの具体的な計算・分析方法
ROEとROAの計算方法や違いについて紹介をしました。それでは実際にどのように使っていくのでしょうか。具体例を紹介します。
ROAの分析方法
次の2社でROAを見ていきましょう。
A社 当期純利益10億円 総資産200億円
B社 当期純利益15億円 総資産250億円
A社のROAは、5%(計算式:10億円÷200億円)となります。
B社のROAは、6%(計算式:15億円÷250億円)となります。
このA社とB社がどちらも同じ業種だったとすると、ROAの高いB社の方が資産を効率的に活用して利益を稼ぐことができている、と言えます。このようにROAも利益獲得の効率性を判断するための指標で、高いほど良いと考えられています。
ROE(自己資本利益率)とは
ROE(Return On Equity)とは、自己資本利益率を指し、株主(投資家)が拠出した資本(自己資本)を利用して、どの程度の利益を上げているかを示す財務指標です。
この自己資本利益率は次の計算式で算定します。
会社は、株主が出資した資本を元手にして事業を行います。株主からすると、出資した資本を効率的に使って、たくさん利益を稼いでくれた方が良いわけです。ROEを会社間で比較することによって、どちらが効率的に利益を稼ぐことができているかが見えてきます。
ROEの計算方法
ROEの計算方法は大きく3つあります。それぞれの計算方法を確認していきましょう。
ROEを当期純利益から算出する方法
株主資本を、会社から生み出した最終利益である当期純利益で除して計算します。
当期純利益とは、法人税まで支払った後の最終利益です。これを自己資本(≒株主が出資したお金)で割ることによって、株主目線からすると「投資したお金で、どれだけ効率的にお金を稼げたのか」を表す指標になります。
損益計算書には営業利益や経常利益もありますが、ROEで使われるのは必ず当期純利益です。お金を出資している株主は、当然ながらリターンを期待するでしょう。リターンの一つである「配当」の原資は当期の最終利益ですので、分子は当期純利益となります。
自己資本は、おおよそ純資産とイコールで考えても良いでしょう。正確には、下記の通り算出されます。
未来の株主(新株予約権)や保有する子会社の少数株主(非支配株主持分)が記載されていることがありますが、これらは現在の株主とは言えません。そのため、自己資本からは控除します。
ROEを売上総利益率から算出する方法
※売上高純利益率=当期純利益/売上高
※総資産回転率=売上高/総資産
※財務レバレッジ=総資産/自己資本
言葉で説明すると、「利益率を高め」「少ない資産で多く売り上げ」「借金を多くする」になります。また、売上高利益率×総資産回転率は、分母と分子の売上高が打ち消しあって当期純利益÷総資産になりますので、ROAと同じ式です。そのため、ROAからROEを表すこともできます。
ROEをROAから算出する方法
このようにROEを分解することで、より深い分析が可能です。具体的には、売上高純利益率は利益率、総資産回転率は資産の有効活用度、財務レバレッジは負債の有効活用度を示すため、3要素から幅広い分析ができるものです。
ROAとROEの目安
ROAとROEはどの程度の数値であれば適正と言えるのでしょうか。それぞれ目安の値を確認しましょう。
ROAの目安
目安となるROAの水準は業種別によっても異なりますが、一般的には5%が一つの目安であると言われています。業種により目安が異なります。
工場など大きな設備が必要となる業種では総資産も大きくなります。一方、IT産業のように大きな設備投資の必要がなければ総資産はそれほど大きくならないでしょう。これらを比較すると、設備投資を必要とする業種の方がROAは低くなりますが、だからといって、そのような業種の投資はダメで、IT産業に投資すべき、ということにはなりません。
ROAは同業他社と比較して優劣を判断したり、同じ会社の年度別の推移を見るなどして、改善の状況を確認する、といった使い方をするとよいでしょう。
財務分析のポイントについては、下記の記事で紹介しています。
経理プラス:財務分析をする上で押さえておくべき5つのポイントと重要指標
ROEの目安
ROEは売上高利益率と総資産回転率、財務レバレッジの掛け算だと前述しました。一般的に薄利多売の商売(例:100円ショップ等)では利益率は低いですが、その分たくさん売り上げますので回転率は高くなります。一方、利幅の大きな商売では利益率が高いものの、回転率は低くなる傾向があります。
<参考(2018年度決算より)>
・某小売業(100円ショップ)
純利益率1.1%、総資産回転率2.7回、ROE6.5%
・某サービス業(テーマパーク運営)
純利益率17.2%、総資産回転率0.5回、ROE11.2%
経済産業省のデータによると、日米欧の2018年ROE平均値は下記の通りです。
- 米国の上場企業平均:18.4%
- 欧州の上場企業平均:11.9%
- 日本の上場企業平均:9.4%
参考:経済産業省 事務局説明資料 日米欧上場企業のROE・ROAの推移
日本の企業では、ROEの目標値に10%を上げるところが多く見られます。こうしたことから、8~10%であればおおむね優良企業と判断しても良いでしょう。
また、他国と比較時日本のROEが低い理由として、内部留保に貯めてきたことが挙げられるでしょう。内部留保が増えると株主資本が大きくなり、ROEの値は必然的に低くなります。また、日本企業は米欧と比較すると研究開発費やIT投資に投下する予算が低い傾向にあり、その結果として中長期的なROE低下に繋がっている意見もあるようです。
ROA、ROEを改善するにはどうすればいい?
ROAとROEは会社の利益を表す指標ですが、具体的にどのように改善していけばよいのでしょうか。
ROAを改善するには
ROAを改善するためには、分子である当期純利益を増やすか、分母である総資産を減らすことが必要です。利益を増やす方法は会社によって様々な方法が考えられます。総資産を減らすためには、在庫を減らす、滞留債権を処理する、不要な設備を売却する、業務とは関係のない投資は解約する、など不要不急の資産を現金化し、借入金を返済するなどして、資産規模を圧縮することが考えられます。
ROEを改善するには
ROEを改善するためには、分子である当期純利益を増やすか、分母である自己資本を減らすことが必要です。たとえば、余剰資金がたくさん残っているのであれば、減資や自社株買いをすれば自己資本を減らすことができます。また、無借金経営をしているのであれば、運転資金の借入をして、財務レバレッジを高めれば(自己資本比率を低下させれば)、ROE(=ROA×財務レバレッジ)を高めることができます。借入金をすることには抵抗があるかもしれませんが、株主のお金を有効に活用するという観点からは、借入や社債を増やすことも一つの方法です。 ROEの改善方法については下記の記事で詳しく紹介しています。
ROEの改善方法については下記の記事で詳しく紹介しています。
経理プラス:ROE(自己資本利益率)とは?計算式と目安、改善方法を解説
ROEの注意点
先ほど、ROEは高ければ高いほど良いと解説しました。しかし実際には、必ずしもそう言えないケースがあります。ここで、ROEの計算式を元に見ていきましょう。
(再掲)
計算式から分かるように、ROEは当期純利益と自己資本という2つの数値が揃っていれば計算できます。つまり、どちらかの数値に異常値があると、ROEの比率も異常値になる傾向にあるのです。ここで、3つのケースで見てみましょう。
自己資本が大きい場合
自己資本が大きい場合は計算式の分母が大きくなるため、ROEの比率が低くなります。先述の通り、日本企業は過去生み出した利益を投資に回さず内部留保に回す傾向にあるため、ROEの比率が低くなりがちです。創業年数が長い企業は、自己資本が高い傾向にありますので注意しましょう。
他人資本が大きい場合
会社は自己資本(株主資本)のほか、他人資本(借入)でも資金を調達して事業経営を行っています。株主資本が小さい一方、多額の借入を行って利益を多く生み出している会社のROEはどうなるでしょうか。これは、結論から言うと高い比率になります。借入金額を用いて利益を生み出すことは、リスクがある一方で経営効率性としては評価できます。
当期純利益が小さい場合
当期純利益が小さい場合は計算式の分子が小さくなるため、ROEの比率が低くなります。たとえば本業で大きい利益を生み出していたとしても、自然災害などで特別損失を計上して当期純利益が小さくなるケースが考えられるでしょう。その場合はROEが低くとも、一時的かつ自然災害という会社側でコントロールできない事象のため、ROE低下が致し方ないと捉えることができます。
なお、業種や会社規模などから会社を区分けした上でROEを分析することは有用です。業種が同一であれば内部留保や投資に対する考え方が似ている可能性が高く、必然的にROEの比率も分析しやすくなります。
まとめ
重要な経営指標でもあるROA とROE について解説しました。近年は、単純に利益を多く上げるだけではなく、資本や資産の効率性を高める経営を行うことが求められてきています。ROE、ROAが低いと、自社の株価にも影響してくる可能性があります。ROAやROEを活用して、資本や資産の効率性を意識した経営を心掛けていきましょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。