法定福利費の計算方法とは?福利厚生費との違いをマスターしよう
近年、社会保険についてさまざまな動きがありました。「社会保険に入っていない業者は現場に入れない」「加入対象の社員が拡充された」など、経営に直結するような話が増えています。今回は社会保険と経理の関係を学ぶということで「法定福利費」という勘定科目について確認していきます。
また、法定福利費の概要や見積書、福利法定費との違いなどについてはこちらの記事で詳しく紹介をしていますので併せてご覧ください。
経理プラス:法定福利費とは?福利厚生費との違いや見積書の作成方法を解説
法定福利費とは
法定福利費とは、文字通り「法律で定められた福利厚生費」という意味です。別の言葉でいうと「社会保険料の企業負担分」です。
社会保険は、基本的にすべての法人に加入義務があります。そのうえで、法人が役員や従業員に支払う人件費(役員報酬や賃金給与)の金額に応じて所定の保険料を支払います。その負担は法人負担分と個人負担分に分けられ、個人負担分は各人に支払う人件費から天引きされます。
社会保険の種類
社会保険は「狭義の社会保険」と「広義の社会保険」に分けられます。どちらの意味で社会保険という言葉を使っているのか、注意が必要です。
-
- 狭義の社会保険
健康保険と厚生年金、さらに40歳以上の人に対してかかる介護保険があります。
-
- 広義の社会保険
狭義の社会保険に加え、労働保険が含まれます。なお、労働保険はさらに「労災保険」と「雇用保険」に分かれます。
一般的には、社会保険と一口にいう場合には「狭義の社会保険」を指していることが多いようです。
経理プラス:法定福利費とは?福利厚生費との違いや見積書の作成方法を解説
対象となる賃金の範囲
社会保険の対象となる賃金とは狭義、広義問わず、「基本給だけでなく各種手当も含めたもの」です。手当については、企業によって「住宅手当」「扶養手当」「技能手当」などさまざまな名称のものがありますが、そのすべてが対象です。
また、税金計算上は非課税とされる通勤手当についても、社会保険では対象となっています。税務と社会保険で取り扱いが異なりますので、注意が必要です。
保険料の計算方法
健康保険、厚生年金および介護保険
健康保険、厚生年金および介護保険は標準報酬月額を基に算定されます。標準報酬月額とは「その年の4月から6月に支払われた人件費の平均」で決まります。4~6月の平均値を取り、その金額がその年9月から翌年8月まで採用されます。
標準報酬月額と都道府県ごとに定められている保険料表に応じて、社会保険料の金額が確定されます。ちなみに2021年4月以降における東京都の社会保険料の場合には、以下のような両立が適用されます。
-
- 健康保険
(介護保険の非該当者):9.84%
(介護保険の該当者):11.64%
- 厚生年金:18.300%
上記の料率は、法人負担分と個人負担分を合わせた合計額です。実際の負担は法人と個人で折半します。(実際には法人に「子ども・子育て拠出金」負担があるので、法人負担の方が少しだけ大きくなります)
例:東京都で標準報酬月額が50万円、介護保険の該当者
58,200円 ÷ 2 = 29,100円(法人負担額)
厚生年金 :500,000円 × 18.300%= 91,500円(全額)
91,500円 ÷ 2 = 45,750円(法人負担額)
子ども・子育て拠出金 :500,000円 × 0.36% = 1,800円(法人負担額)
試算すると上記のようになります。狭義の社会保険対象者を新規で雇用したとき、どれくらい社会保険料の会社負担分が増えそうか?ということを簡易的に計算する場合には、上記のような計算式で賃金総額に法人負担率を乗じることで大まかな金額を把握することが可能です。建設業等において労務費を見積もりに反映させるときに、このような考え方が用いられています。
労働保険
労災保険と雇用保険それぞれで、事業の種類に応じて料率が定められています。
(参考)厚生労働省 労災保険・雇用保険の特徴
実際に保険料額を計算するときには、賃金について前年度の支払い実績と当年度の支払い見込みを用いて保険料が計算されます。
保険料計算時の注意点
保険料率は都道府県ごと、業種ごとに異なるため、自社に該当する保険料を正確に把握することが大切です。
また、時期によって保険料を再度計算する必要があります。それにより、変動する従業員、変動しない従業員が混在しますので、個々に計算して対応する必要があります。さらに誕生日の到来により年齢が変わるタイミングにも注意しましょう。
法定福利費の経理処理について
社会保険の支払いをしたときには、以下のように仕訳をします。(簡易的に法人負担分と個人負担分を同額としています。)
個人負担分を預り金として処理している場合
-
- 賃金支払時
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
賃金(費用) | 500 | 普通預金(資産) | 400 | |
預り金(負債) | 100 |
-
- 保険料支出時
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
法定福利費(費用) | 100 | 普通預金(資産) | 200 | |
預り金(負債) | 100 |
個人負担分を預り金として処理していない場合(簡便な方法)
-
- 賃金支払時
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
賃金(費用) | 500 | 普通預金(資産) | 400 | |
法定福利費(費用) | 100 |
-
- 保険料負担時
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
法定福利費(費用) | 200 | 普通預金(資産) | 200 |
経理処理の流れは少し異なりますが、結果的に「企業の負担している法定福利費は100である」という結果は変わりません。自社がどちらの方法で経理処理をしているか確認をしてください。
経理プラス:事業計画書作成に必要な法定福利費の計算方法
法定福利費と一般的な福利厚生費との違い
企業が負担する福利厚生のための支出には、法定福利費以外に一般的な福利厚生費もあります。たとえば「スポーツジムや保養所の利用権」「健康診断の受診」などです。
経理上、法定福利費と福利厚生費はしっかりと区分して処理をします。法定福利費は「社員を雇用した以上、絶対に発生する必要不可欠な労務費」であるのに対し、一般的な福利厚生は「その企業が社員に対して用意しているもの」です。両者は性格が異なる費用ですので、しっかりと区分しなければなりません。
また、実務的には「消費税の取り扱い」でも両者の区分は大変重要です。法定福利費は消費税が課税されていません。一方、福利厚生費の場合、消費税が課税されているものが多く含まれています。
経理プラス:租税公課と法定福利費 税務処理の違いを解説
法定福利費と租税公課
租税公課と法定福利費は、どちらも国などに納めているという意味では違いはありません。しかし、前者はその多くが税金であるのに対し、後者は社会保険料です。やはり、内容が異なる費用ですのでしっかりと区分しなければなりません。
特に注意が必要なのは「社会保険料の延滞金」です。租税公課の場合、税金の過怠税や延滞税は、法人税の計算上損金に参入することができません。その一方、法定福利費の場合、社会保険料の延滞金は損金に参入することができます。仮に社会保険料の滞納等で延滞が出た場合、そのことによる追徴の延滞金を誤って損金不算入として処理しないように注意しましょう。
建設業における法定福利の扱い
特に建設業界では、法定福利費を考慮して見積書を作成する取り組みが始まっています。
見積書の内訳に明示する法定福利費は、基本的に健康保険、介護保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金、雇用保険のうち企業が負担する部分となります。
しかし、明示する項目は企業が個別に区分しても差し付かえないとされており、従業員個人が負担する項目も含む場合もあります。
経理プラス:法定福利費の記載が必要?建設業の見積書の作成手順と最新情報
社会保険に関する対応の有無が、事業に大きな影響を与えるようになってきました。経理処理も含め、社会保険について正確な対応をすることが求められています。
まとめ
法定福利費とは、社会保険料のうち企業の負担額を計上するための科目です。社会保険については、近年加入範囲が拡大されたり、業務受注の条件に組み込まれたりするなど事業への影響が拡大しています。法定福利費には狭義と広義の意味合いがあり、社員などに支払う人件費の金額に応じて保険料が計算されます。経理処理には預り金を使用する方法と簡便な方法があり、一般の福利厚生費や租税公課など、混同しがちな費用があるので注意が必要です。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。