【税理士執筆】定率法と定額法の違いって何?減価償却の基本を解説
減価償却とは
減価償却でおさえるべき2つのポイント
資産価値に影響するもの
資産には時間的経過や新製品発売によって、または使用により劣化することで資産価値が減少していく傾向にあります。そこで、取得価格が10万円以上で一年以上使用する見込みのある資産については、実態に合わせて減価償却処理することが必要です。
計上期間
減価償却は、資産価値の減少に沿って資産の費用計上を行っていきます。その資産価値の減少期間は、資産の使用する期間と言い換えることが可能です。よって、減価償却は資産の使用する期間を耐用年数と定め、当該年数にわたり減価償却処理を行います。なお、法人税法には耐用年数に関する減価償却期間(法定耐用年数)が定められており、実務上、当該法定耐用年数を参考に減価償却処理を行うケースが多いでしょう。
経理プラス:減価償却と法人税の関係とは?実施の仕方や法定耐用年数、注意点を解説!
減価償却の必要性やメリット
企業会計の大事な概念として、費用収益対応の原則があります。これは、収益が上がったタイミングで、収益に関連する費用も計上されるべきというものです。
減価償却資産は、将来にわたり収益を産むことを期待して取得されます。収益が上がる将来にかけて費用を計上する(減価償却処理をする)ことが、取引実態を正確に示すことになります。
減価償却の計算方法―定額法と定率法とは―
定額法の計算方法
定額法は文字通り、毎年定額の金額を減価償却処理する方法です。
金額は「取得原価×定額法の償却率」の計算式によって求められます。
例:500,000円の資産を4年間で定額法償却した場合の1年分の減価償却費
→500,000×0.25=125,000
なお、定額法の償却率や後述する定率法の償却率は下記、国税庁のホームページから確認できます。
参考:減価償却資産の償却率表(国税庁HP)
定率法の計算方法
定率法は、残存価格を一定割合で減価償却処理する方法です。
金額は原則として、「期首残存価額×定率法の償却率」の計算式によって求められます。
例:500,000円の資産を4年間で定率法償却した場合の初年度減価償却費
→500,000×0.625=312,500
ただし、上記の金額が償却保証額に満たなくなった年分以後は[改定取得価額×改定償却率]の計算式を用いて計算することになります。
なお、償却初年度が最も金額が大きくなり、その後は年度が経過するごとに償却金額が減少していきます。実態として、資産を購入した初年度が最も使用頻度が高いことや、収益に直結するケースが多いことから、定率法は実態に即した減価償却方法と言われているのです。
社用車の減価償却方法
社用車を購入した場合、どのような取り扱いになるのでしょうか。社用車を購入するということは一定期間を事業で用い、将来的に収益を産むことを期待していることが多いでしょう。そのため、減価償却資産として耐用年数に則って減価償却を行うことが求められます。
耐用年数は、例によって法定耐用年数を参考にしています。以下で、代表的なものをご紹介しておきますので確認してください。
- 普通乗用車:6年
- 軽自動車:4年
他にもトラックやダンプカーなど、細かく法定耐用年数が定められています。ただし、一般的に社用車として車を購入する場合は、上記2点を抑えておけば問題ないでしょう。なお、中古車を社用車として購入する際は耐用年数の計算方法に別段の定めがあるため、注意してください。
また、社用車を購入した場合、車本体以外の付随費用についても原則として取得価格に算入できます。該当する経費は、たとえば下記のような内容です。
<取得価格に算入できる経費>
カーナビ等の付属品、納車費用、自動車税などの税金、検査登録費用、自賠責保険料 など
経理プラス:ソフトウェアの減価償却は目的で変わる?耐用年数や仕訳を知ろう
定額法か定率法はどのように決まるのか
選択できる減価償却の方法は資産の区分に応じて、次のように決められています。
(2016年4月1日以後に取得した資産)
- 建物:定額法
- 建物附属設備及び構築物:定額法
- 機械及び装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具器具備品:定額法または定率法
- 鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物):定額法または生産高比例法
- 鉱業用減価償却資産(上記以外):定額法、定率法または生産高比例法
- 無形固定資産及び生物:定額法
- 鉱業権:定額法または生産高比例法
- リース資産:リース期間定額法
なお、法人の場合、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具並びに器具及び備品については、定率法が法定償却方法として予め決められており、何もしなければ決められた方法を適用しなければなりません。それ以外の方法を採用する場合には、「減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署に提出します。
「減価償却資産の償却方法の届出書」の提出期限は、新たに法人を設立したときは設立第1期の申告書の提出期限まで、設立後既に償却方法を選定している減価償却資産以外の減価償却資産を取得した場合は 、その資産を取得した期の申告書の提出期限まで、となります。
また、決められた減価償却方法では正しく減価償却計算ができないようなときなどは、特別な償却方法の承認申請を行い、承認されると、その他の特別な償却方法により、減価償却を行うことができます。ただし、特別な償却方法が認められるのは例外的な場面ですので、通常は決められた減価償却方法を用いることとなるでしょう。
参照:国税庁[手続名]減価償却資産の償却方法の届出
「償却率」「改定償却率」「保証率」の仕組みとは
先述の通り、定率法の減価償却費は原則「期首残存価額×定率法の償却率」で計算を行い、当該金額が「償却保証額」に満たなくなった年度分以降は毎年同額の減価償却費が計上されます。ここからは、用語の定義と具体例を見ていきましょう。
まずは、用語の定義をご紹介していきます。
- 償却率:法律で定められている減価償却の償却率
- 改定償却率:償却率を用いて計算した減価償却費の額が「償却保証額」を下回った場合、以降年度の減価償却費の計算に用いる償却率
- 保証率:償却保証額を算定するための比率
定義を見ただけでは、なかなか理解しづらいかもしれません。続いて、具体例を考えていきましょう。
【例】2020年1月1日に600万の普通乗用車を購入。
定率法で減価償却。耐用年数は6年。決算月は12月。
償却率は0.333、保証率は0.09911、改定償却率は0.334
・2020年12月の処理
償却保証額:取得価額6,000,000×保証率0.09911=594,660(今後も固定)
減価償却費:取得価額6,000,000×償却率0.333=1,998,000
減価償却費が償却保証額を上回っているため、当該期の減価償却費は1,998,000
残存価額:6,000,000-1,998,000=4,002,000
・2021年12月の処理
償却保証額: 594,660
減価償却費:機首残存価額4,002,000×償却率0.333=1,332,666
減価償却費が償却保証額を上回っているため、当該期の減価償却費は1,332,666
残存価額:4,002,000-1,332,666=2,669,334
・2022年12月の処理
償却保証額: 594,660
減価償却費:機首残存価額2,669,334×償却率0.333=888,888
減価償却費が償却保証額を上回っているため、当該期の減価償却費は888,888
残存価額:2,669,334-888,888=1,780,446
・2023年12月の処理
償却保証額: 594,660
減価償却費:機首残存価額1,780,446×償却率0.333=592,888
減価償却費が償却保証額を下回るため、当該期より改定償却率を用いて減価償却費の計算を行う
改定償却価額:機首残存価額の1,780,446
改定減価償却費:1,780,446×改定償却率0.334=594,668
残存価額:1,780,446-594,668=1,185,778
2023年12月期の減価償却計算において、減価償却費が償却保証額を下回りました。このことから、その後の期は改定償却価額と改定償却率を用いて減価償却計算を行う形になります。なお、2024年以降も改定取得価額と改定償却率を用いて減価償却費の計算を行うため、金額は2023年と同額です。
減価償却の変更方法
減価償却方法は一度適用した方法を継続することとなりますが、手続きをして変更することができます。
減価償却の方法を変更したいときは、原則として、変更しようとする事業年度開始日の前日までに「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を税務署に提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」には、資産、設備の種類ごとに現によっている償却方法、現によっている償却方法を採用した年月日、採用しようとする新たな償却方法を記載した上で、変更しようとする理由も記載します。
なお、一度償却方法を変更してから3年を経過していないときや、変更しようとする償却方法では所得金額の計算が適正に行われると認められないときなどは原則として、承認を受けることができません。
減価償却の自己金融効果とは
さて、減価償却には自己金融効果があると言われています。ここからは具体的な事例を交え、キャッシュフロー計算書や借入金返済との関係性にも触れながら、減価償却の自己金融効果がどのようなものなのか解説していきます。
まず、自己金融効果を事例で解説すると次のようになります。
- 売上高 500万円
- 減価償却費 500万円
- 当期純利益 0円
少し極端な事例ですが、売上高と減価償却費がそれぞれ500万円だったとします。
売上高の500万円については売上代金が入金されます。一方で、減価償却費は資金の支払いを伴わない経費なので、500万円の経費が計上されますが、支払いはありません。
つまり、500万円の入金があって、支払が0円なので、500万円の資金が留保される、ということとなります。このように減価償却費を計上することによって資金が留保される効果のことを自己金融効果と言います。
キャッシュフロー計算書と減価償却の関係
先ほどの事例について間接法でのキャッシュフローを見ると次のようになります。
- 当期純利益 0円
- 減価償却費 500万円
- 営業活動によるキャッシュフロー 500万円
減価償却費は資金の支払を伴わない経費です。そのため間接法でのキャッシュフロー計算書においては、営業活動によるキャッシュフローの区分で減価償却費を調整します。
その結果、営業活動によるキャッシュフローは500万円となります。
借入金返済と減価償却の関係
減価償却費に自己金融効果があるといっても、実際には、減価償却資産の取得時にそれだけの支払いを伴っていることとなります。そのため、減価償却資産の取得時には資金がマイナスとなりますが、その場合は、借入金を活用することが考えられます。
借入金を活用する場合は、その後の借入金の返済のことを考えなければなりません。このときに、減価償却資産を取得する際にした借入金の返済額が減価償却の自己金融効果の範囲であれば、利益が計上されている限り、無理なく返済することが可能という考えをすることができます。
先ほどの事例で見ると、減価償却の自己金融効果によって毎期500万円が留保されることになり、それを借入金の返済原資とすることができるので、毎期の借入金の返済額が500万円以下であれば無理なく返済することができる、ということとなります。
減価償却の自己金融効果が毎期500万円なのに、借入金の返済額が1,000万円となっていれば、その返済するための資金を用意するために、より多くの利益を計上しなければならないこととなります。
減価償却費の節税効果とは
ここまで説明してきたように、減価償却費は資金の支出を伴わない経費で、それを計上することによって税金が減るため節税効果があります。このように減価償却費と税金とは密接に関係があります。そして、どれくらいの設備投資を、毎年いくらの減価償却費を計上することができるかは事前に計算することができます。つまり、中長期の税金のことを考えて、適切なタイミングで設備投資を行えばそれが節税につながることにもなるのです。
一方、定率法の場合、減価償却費は年々減少していくことに注意しておく必要があります。減価償却費が減少するということは、減価償却費計上前の利益が同額であれば、税金だけが増えるということとなります。何も対策をしていなければ、減価償却費計上前の利益は増えていないのに、税金だけが年々増えていくというような状況にもなるため、税金の準備をしておかなければなりません。
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まとめ
どのように減価償却を行うかにより、税金が変わるだけでなく、会計上の利益も変わってくるため、業績管理の仕方も変わってきます。つまり、どのように減価償却を行うかを考えるのは非常に大切なことです。
また、建物附属設備及び構築物は、2016年4月1日以後取得したものから定率法が使えなくなるなど、減価償却に関する税務上の規定は頻繁に改正されていますので、減価償却の考え方をまず理解した上で、改正もキャッチアップしていくことが必要でしょう。
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