税効果会計の改正点を解説!2018年度 会計基準改正のポイント

税効果会計の改正点を解説!2018年度 会計基準改正のポイント

2018年2月16日、企業会計基準委員会より会計基準の改正点が公表されました。
主に税効果会計に関わる改正が行われています。今回は、これらの改正点について、代表的なものをご紹介していきます。

2018年の会計基準改正点

会計基準の改正点は以下にて公表されています。
企業会計基準第28号 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表

今回の改正点は、2018年4月1日以降開始する事業会計年度から原則適用することが求められており、2018年3月31日以降最初に終了する事業会計年度から早期適用することも認められています。
2018年の改正点のポイントは、「税効果会計」です。経理実務の担当者の方であれば、避けて通ることはできない税効果会計。
今回の改正では、子会社株式に関わる将来加算一時差異の考え方や、繰り延べ税金資産の回収可能性に関する考え方について、指針が示されています。次の項目で詳しく見ていきましょう。

税効果会計に関する改正

それでは、具体的な改正点についてみていきましょう。

子会社株式、及び関連会社株式に関わる将来加算一時差異

これまでの会計基準では、子会社、及び関連会社の株式資産についての将来加算一時差異は、原則として繰延税金負債の科目に計上することが求められてきました。
今回の改正において、子会社および関連会社の株式資産についての将来加算一時差異の取扱いについて、変更が加えられました。具体的には、当該株式を将来的に売却する予定の有無によって、取扱いを分けることが求められています。

具体的には、親会社がその投資の売却等を当該会社自身で意思決定することができ、且つ、将来的に売却する意思がない場合を除いて、繰延税金負債を計上することとなりました。
よって、当該株式の売却予定がない場合には、繰延税金負債を計上する処理を行わないということです。

したがって今後は、将来的に売却する意思があるのかどうかの自己判定が必要になるため、社内ルール・運用体制の整備が必要になります。

繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産の回収可能性の判定の基準についても変更が加わりました。
税効果会計においては、子会社および関連会社が損失を計上するとき、連結決算上は、将来業績回復することを前提に、税負担分の将来減算一時差異について繰延税金資産を計上します。将来業績が回復し、課税所得が生じることを前提とした経理処理ですが、期待通り将来業績が回復して納税できるのかどうかは「誰にも分からない」というのが実際のところです。そのため、恣意性が入った決算の温床となることもあり、この回収可能性が議論になります。

今回の改正では、回収可能性適用指針第18項が、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」となり、「原則として、」という文言が追加されました。

この改正が意図するところは、子会社および関連会社株式の評価損に対して、将来にわたって税務上の損金に算入される可能性が低い場合、計上した繰延税金資産の回収可能性はないと判断する余地があることを明確にしたものです。

繰延税金資産、及び繰延税金負債の表示科目

これまでの会計基準では、繰延税金資産および繰延税金負債は、それぞれ資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については「流動資産または投資その他の資産」として、繰延税金負債については「流動負債または固定負債」として計上する必要がありました。
しかし、今回の改正により、「繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示する」ことが明記され、選択の余地が狭まったわけです。
したがって、今後は繰延税金資産も繰延税金負債も、貸借対照表上の固定資産・固定負債の部に計上されるので、相殺する必要がある場合などは、手間が減ることが期待されます。
経理担当の立場からすると、悩む必要がなくなったという意味で、良いニュースかもしれませんね。

注記事項への追加

税効果会計は、上述の通り、恣意性が入る余地が大きいなどの背景から、財務諸表において注記事項として詳しい説明が求められてきました。
今回の改正に際して、注記事項の開示方法について、より詳細な指針が示されていますので、ご紹介します。

連結財務諸表を作成する場合の個別財務諸表における注記

まずは連結財務諸表を作成するグループ企業の場合に限って注意すべき点です。
投資先企業に対する出資見合いの税効果会計、引当金に関して、注記事項の中で、評価性引当額の数値情報のみを追記することが求められることになりました。
ただし、会社計算規則の改正案においては、「繰延税金資産」「繰延税金負債」の表示についての改正のみが提案されており、注記事項の追加は提案されていませんので、この点にも留意ください。

繰越欠損金

税務上の繰越欠損金に関する情報の記載には注意が必要です。発生原因の注記として税務上の繰越欠損金を記載する場合、税務上の繰越欠損金の金額に重要性が認められると自らが判断したときには、繰越期限別、すなわち繰越相殺が認められる年限別に、数値を記載することが明記されました。
また、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能」と判断した主な理由についても明記することが求められることになりました。

評価性引当額

繰延税金資産には各種発生原因が存在します。特に税務上の繰越欠損金がその発生原因である場合、繰越欠損金の金額に重要性が認められると自らが判断したときには、従前の会計原則では発生原因別の注記に示されていた評価性引当額の合計額について、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することが明記されました。

まとめ

ここまで、2018年の会計基準改正のポイントについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
税効果会計に関わる改正点が主ですので、当然、期末決算処理の際には留意いただく必要があるのですが、前もって新しい社内ルール、運用体制を整備しておけば、期末に慌てずに済むかもしれませんね。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。