売上原価は固定費・変動費のどっち?固定費が含まれる主なケース

「売上原価」は会社の経営状態を知るための重要な指標です。しかし、業種によって売上原価に含まれる項目が異なるため、計算式が変わることも多く、経理担当者ごとに認識がバラバラということも多いのではないでしょうか。

今回は企業の経理担当者に向けて、売上原価の概要や固定費との違い、各業種で売上原価に含まれる具体的な勘定科目などを解説します。

なお、売上原価については以下の記事もご参照ください。

経理プラス:売上原価とは何か?計算方法や製造原価との違い、分析方法を解説!

売上原価と固定費の基礎知識

まずは、売上原価と固定費の概要をそれぞれ紹介します。固定費と変動費の違いについて理解しましょう。

売上原価とは?

売上原価とは、売れた商品の仕入れや製造にかかった費用を指しており、商品が売れた際に原価として計上されます。

損益計算書から確認でき、売上原価に含める原価の範囲は、小売業や製造業、建設業など業種により異なります。

固定費と変動費の違い

固定費とは、売上高の増減に関わらず一定の金額が発生する費用を指します。

例として、従業員の給与や賞与、設備の減価償却費、家賃や光熱費などが挙げられ、支払う金額は売上の増減に関係なくほぼ固定されていることが特徴です。

一方、変動費とは、売上高や生産量によって増減する費用のことを指します。

例として、原材料費、販売手数料、外注費、支払い運賃などが挙げられます。

固定費と異なり、売上高が増えると変動費も比例して増加することを覚えておきましょう。

売上原価は固定費と変動費のどちらになる?

さて、冒頭の「売上原価」は固定費と変動費のどちらで扱われるでしょうか。

一般的に売上原価は、売上高に比例して増減する指標であるため「変動費」として扱われることが多いです。 ただし製造業など、業種によっては売上原価の中に固定費が含まれる場合もあります。

そのため、売上原価をそのまま変動費として扱うと、会社の実態に即していない数値となることがあるので注意しましょう。

売上原価に含まれる固定費とは?

売上原価に含まれる固定費は業界ごとに異なります。以下で、業界ごとの対応の違いを具体的に紹介します。

まず製造業では、売上原価に固定費が含まれます。人件費や減価償却費、水道光熱費など、製品の製造に関係する項目は売上原価に含まれるためです。

建設業も同様に、水道光熱費や人件費、重機の減価償却費などが売上原価の固定費に含まれます。

飲食業では、調理する工程を「製品を製造する工程」と判断した場合に、調理を担当する従業員の人件費を売上原価に含める場合があります。

売上原価ではなく「販売費及び一般管理費」に含まれる固定費もあります。同一企業内でも業務によって計上する費用項目が異なることがあるので注意しましょう。

一般的には、販売された商品や製品、サービスを生み出すためにかかった固定費は「売上原価」に、商品や製品、サービスの販売にかかる固定費は「販売費及び一般管理費」に含まれます。

売上原価を固定費と変動費に分ける理由と方法

売上原価の分析は、企業の会計担当者のみならず経営者にとっても必要な知識です。ここからは、売上原価を固定費と変動費に分ける理由などについてお伝えします。

売上原価を固定費と変動費に分ける重要な理由は、会社の経営状態を分析し、経営戦略を立てるために役立つ指標を得られるためです。

分析手法としては、損益分岐点分析(CVP分析)が挙げられ、損益分岐点などの指標を求めることができます。

指標を算出する際には、固定費と変動費に分ける作業が必要ですが、この作業を「固変分解」といいます。固変分解によって、目標利益を達成するために必要な売上高の算出も可能になるでしょう。

固定費と変動費に分けることで算出できる主な指標

固変分解によって算出できる指標を4つほどご紹介します。

限界利益

売上高から変動費を引いた金額を指し、この指標が高いほど、経営も安定しやすいことを意味します。 限界利益は、「限界利益=売上高-変動費」の計算式で求められます。

限界利益率

限界利益を売上高で割った値で、売上高が増えるごとに、どれだけ利益が増えるかを示す指標です。 限界利益率が高いほど、売上高の増加による利益の増加率が高くなります。 なお、「限界利益率=限界利益÷売上高」の計算式で求められます。

損益分岐点売上高

売上高と費用が等しく、損益がゼロとなる売上高を指します。 赤字と黒字の境目を示す地点で、損益分岐点を上回れば利益、下回れば損失となります。 損益分岐点売上高は、「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率」の計算式で求められます。

損益分岐点について詳しく解説した以下の記事もご参照ください。

経理プラス:損益分岐点とは?計算方法や活用法を税理士が解説!

安全余裕率

売上高が損益分岐点売上高からどのくらい離れているかを示す指標で、この値が高いほど赤字になりにくいことを意味します。 安全余裕率は、「安全余裕率=(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高×100(%)」の計算式で求められます。

固定費と変動費に分ける方法

固定費と変動費に分けるためには「勘定科目法」「回帰分析法」を使用します。

勘定科目法(個別費用法)

勘定科目法とは、勘定科目ごとに変動費と固定費を分ける方法です。

例えば製造業の場合、直接労務費や福利厚生費、荷造費、租税公課などが固定費に、直接材料費や外注費などが変動費に含まれます。

卸売業の場合、販売員給与手当や車両燃料費、交通費、通信費などが固定費に、売上原価や手数料などが変動費に含まれます。

また、建設業では地代家賃や保険料、広告宣伝費などが固定費に、材料費や労務費などが変動費に分類されるなど、業界ごとに勘定科目の分け方が異なるため、これらは「中小企業の原価指標」を確認するのがポイントです。

判断がつきにくい項目は、固定費と変動費いずれかの比率の高いほうに分類します。

それぞれの計算方法は以下のとおりです。

変動費=製品売上原価中の変動費+商品売上原価+販売費及び一般管理費の変動費 固定費=製品売上原価中の固定費+販売費及び一般管理費の固定費

回帰分析法

売上高と総費用を用いて、固定費と変動費を求める手法です。エクセルなどを用いて、図表の縦軸に総費用を、横軸に売上高をとり、1か月ごとに点を打ちます。

できた散布図に沿って「ax+b」の近所曲線を引き、傾きや切片から変動費と固定費を求めることが可能です。

簡易的な固変分解

経営者が利益予測や経費削減の方針を立てるために分析を行う際は、簡易的な計算で固変分解をすることもおすすめです。例えば、主要な仕入れ・材料・外注費だけを変動費にするといった簡単な方法でも十分な検討ができるでしょう。

売上原価と固定費の関係性を正しく理解しましょう

今回は「売上原価」についての基本的な意味や、固定費と変動費の違い、業種ごとの勘定科目の違いなどについて詳しく解説しました。

売上原価の意味や計算方法を理解することで、適切に経営状況を把握、分析することが可能になります。会計ソフトなどで適切な原価管理を行い、経営戦略の立案や経営状況の見直しにつなげましょう。

売上原価と固定費についてのQ&A

最後に、売上原価や固定費についてよくあるQ&Aをご紹介します。

Q1.売上原価と固定費の違いは何ですか?

売上原価とは、商品の仕入れや製品の製造にかかった直接的な費用で、売上高に応じて変動する可能性がある指標です。対して、固定費は一定の支出で、売上高の増減に影響を受けない指標となります。

Q2.売上原価と変動費の違いは何ですか?

売上原価は売れた商品の原価に焦点を当て、粗利益の計算などに用いられます。一方、変動費は生産量や販売量に応じて変動する費用に着目しており、コスト管理など経営戦略に使用されます。

Q3.売上原価には固定費も含まれますか?

売上原価には固定費が含まれることもあります。例えば、決算書の一種である「製造原価報告書」を作成する製造業・建設業の企業では、売上原価を固定費に含めるケースもあります。

Q4.固定費と変動費の違いを具体的な例で教えてください。

固定費には、従業員の給与や賞与、設備の減価償却費、家賃や光熱費等が含まれます。

対して変動費には、原材料費や販売手数料、外注費、支払い運賃、派遣社員の給与などが含まれます。

Q5.固定費と変動費に分けるメリットは何ですか?

固定費と変動費に分けるメリットには、損益分岐点分析など会社の経営状態の分析に活用でき、経営戦略を立てるために役立つ指標を得られる点が挙げられます。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 宮川 真一

税理士 宮川 真一さま

税理士法人みらいサクセスパートナーズ 代表 岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上。 現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っている。 また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事。 【保有資格】 税理士、CFP®

税理士法人みらいサクセスパートナーズ