棚卸資産の評価方法をマスター! その8:最終仕入原価法

棚卸資産の評価方法をマスター! その8:最終仕入原価法

最終仕入原価法とは

最終仕入原価法とは、原価法による棚卸資産の期末評価方法の1つです。最終仕入原価法では事業年度の最終の仕入価格、つまり決算日に最も近い仕入価格を1単位あたりの取得原価とし、すべての期末棚卸資産を評価する方法になります。

たとえばある商品について、1事業年度での仕入価格が

  • 1回目は@100円
  • 2回目は@130円
  • 最後は @120円

となった場合、この商品の期末評価は、最終仕入価格の120円で行います。他の評価方法と比べ、非常に簡便でわかりやすいことが特徴です。なお、最終仕入原価法は税法において、棚卸資産の法定評価方法として定められています。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その1:原価法

会計上の最終仕入原価法

最終仕入原価法は税法上の法定評価方法とされていますが、棚卸資産の会計基準では棚卸資産の評価方法として定められていません。会計基準がこのような扱いをする理由は、最終仕入原価法を使うと棚卸資産の一部は実際の取得原価で評価されるものの、それ以外の部分は期末の時価に近い価額で評価されることとなる場合が多いことを問題視しているためです。そのため会計基準では、あくまで棚卸資産の評価は取得原価によって行われることを原則としています。

ただし、これは最終仕入原価法を否定するものではありません。最終仕入原価法を「無条件に」取得原価の基準に合致する方法とすることが不適切であるという意味です。会計基準では「期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されているときのように期間損益の計算上弊害がないと考えられる場合」と「期末棚卸資産に重要性が乏しい場合」について、最終仕入原価法も容認されることを示しています。

(参考):棚卸資産の評価に関する会計基準 34-4

これを受けて中小企業の会計指針と中小企業の会計要領では、最終仕入原価法は棚卸資産の評価方法として正式に定められています。ただし、「期間損益の計算上著しい弊害がない場合」という条件付きです。

(参考):中小企業の会計に関する指針

このように、最終仕入原価法は会計上の注意点があるものの、税法上では法定評価方法とされている点、そして非常に簡便な方法であることから、実務で広く使用されています。

最終仕入原価法のメリット・デメリット

メリット

評価方法が簡便的

最終仕入原価法の最大のメリットは、その評価方法が簡便的であること。どのような品でも、その仕入価格は仕入時期や仕入量などによって多少変わります。しかし、微々たる価格差を捉えて1つひとつの単価を正確に計算することは重要性に乏しく、特に頻繁に取引きされる棚卸資産においては現実的な処理ではありません。このような場合に、決算日に最も近い仕入価格を1単位あたりの取得原価とする最終仕入原価法は、非常に使いやすい評価方法となります。

実際の取引価格に近い

最終仕入価格は決算日に最も近い仕入れ値であることから、市場の取引価格にも近い値であると考えられます。つまり最終仕入原価法による評価は、現実の価値に近い評価が行われていることが期待できるのです。

「棚卸資産の評価方法の届出書」は不要

最終仕入原価法は税法上の法定評価方法であるため、評価方法の届け出を税務署に行わない場合は、最終仕入原価法で棚卸資産の期末評価を行うこととなります。したがって、適用したい場合、税務署に棚卸資産の評価方法の届出書を提出しなくとも構いません。

デメリット

期末の価格変動の影響を受ける

最終仕入原価法は、最終の仕入価格をもってすべての棚卸資産を評価する方法です。したがって、期末に仕入価格が変動すると、その評価額に多少の影響を受けます。特に評価額がそれまでの取得原価から大きく変動していたり、最終仕入の数量が在庫に対して少なかったりすると影響は大きくなります。

最終仕入原価法を使った棚卸資産の評価方法

それでは、最終仕入原価法を棚卸資産の評価方法を2つの例で見ていきましょう。1つ目の例は最終仕入原価法のメリット部分を見ていくもの、2つ目はデメリット部分を見ていくものになります。

<例1>X社(3月決算法人)の商品Aの受払状況

日付摘要個数単価価格
4月1日前期繰越20個50円1,000円
7月1日仕入20個45円900円
2月1日仕入5個60円300円
3月1日仕入30個40円1,200円
3月15日売上55個 
3月31日翌期繰越20個40円800円

A商品の期末評価額:800円(20個×@40円)

A商品のように期中に複数回の仕入れが行われる商品であっても、最終仕入れ(3月1日)の単価さえ把握すれば、在庫数を把握するだけで容易に期末商品の評価を行うことができます。

<例2>X社(3月決算法人)の商品Aの受払状況
例1の2月1日と3月1日の仕入数と仕入単価を入れ替えてみます。

日付摘要個数単価価格
4月1日前期繰越20個50円1,000円
7月1日仕入20個45円900円
2月1日仕入30個40円1,200円
3月1日仕入5個60円300円
3月15日売上55個 
3月31日翌期繰越20個60円1,200円

A商品の期末評価額:1,200円(20個×@60円)

一般的には、仕入個数が少ないと1つあたりの単価が上昇することが多いでしょう。この例では高単価な仕入を期末に行ったことにより、期末の在庫数量は変わらないのに棚卸資産の評価額が例1よりも高額になっています。

このように最後の仕入価格で、棚卸資産の評価額、それに関連する損益(売上原価など)が変化します。評価額が安定しないという面ではデメリットですが、活用次第では棚卸資産の期末評価額を下げて売上原価を多く計上することで、節税になるでしょう。

まとめ

最終仕入原価法は、棚卸資産の評価方法のうち特にわかりやすく簡便な方法です。ただし最終仕入原価法は、最終の仕入価格しか棚卸資産の評価額に反映されないため、実際の取得原価によって評価されているのは棚卸資産の中のほんの一部となります。最終仕入原価法は、法定の評価方法であるため、棚卸資産の評価額を変更したい場合は、税務署に変更承認申請を行う必要があります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 石田 夏

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理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。