会社法で義務付けられた利益準備金とは? 積立額や減少させる方法を解説

会社法で義務付けられた利益準備金とは? 積立額や減少させる方法を解説

利益準備金とは

利益準備金とは、貸借対照表に表示される純資産の部の株主資本のうち、利益剰余金から積み立てられる準備金のことです。株主への配当時にその積立てを行うことを会社法によって義務付けられていることから、資本準備金とともに「法定準備金」と呼ばれています。

利益準備金を積み立てなければならないのは、その他利益剰余金を配当原資とするときです。その他の資本剰余金を配当原資とする際には、資本準備金を積み立てなければなりません。

利益準備金は何のためにある?

利益準備金を積み立てる目的は、会社の財政基盤の強化と債権者保護にあります。会社は営業活動によって得た利益を、会社に出資してくれている株主に配当することが可能です。しかし、もしその配当が経営者や株主の意向のまま無制限に行われると、会社の財政基盤が揺らいで会社の債権者にとって不利益となるでしょう。
そのため会社法では、配当金額の10分の1を、利益準備金か資本準備金として積立てることが義務付けられています。つまり、利益準備金は無制限な配当を抑止するために、一定の利益を会社に留保することを目的としているのです。

剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。

(引用)会社法第445条第4項

利益準備金の積立額の計算方法

会社法における法定準備金の積立額(利益準備金の額+資本準備金)は、配当金額の10分の1です。しかし、既に会社に一定の法定準備金の積立てが行われていれば、積立てを行う必要はありません。
具体的には、法定準備金の額が「資本金の額×4分の1」以上かどうかで判断します。このことは、会社計算規則第22条第2項に詳しく定められています。

株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の利益準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の利益準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする。

(引用)会社計算規則第22条第2項

当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額以上である場合  零

(引用)会社計算規則第22条第2項第1号

第1号の「基準資本金」とは「資本金の額×4分の1」になります。(同条第1項において規定されています。)

したがって配当を行う日を基準に、利益準備金と資本準備金の積立額の合計が、資本金の額×4分の1に達していれば、積立額は0円となります。 もし、配当を行う日に利益準備金と資本準備金の積立額の合計が、資本金の額の4分の1未満であれば、利益準備金の積立額は、同項第2号によって

  • (資本金×4分の1)-(利益準備金+資本準備金)
  • 配当金額×10分の1

のいずれか少ない額に、「利益剰余金配当割合」を乗じて計算した額となります。

当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額未満である場合 イ又はロに掲げる額のうちいずれか少ない額に利益剰余金配当割合を乗じて得た額
イ 当該剰余金の配当をする日における準備金計上限度額
ロ 法第446条第6号に掲げる額に十分の一を乗じて得た額

(引用)会社計算規則第22条第2項第2号

「利益剰余金配当割合」とは、その他利益剰余金を原資とする配当割合のこと。配当原資となる金銭等にはその他利益剰余金とその他資本剰余金がありますが、そのうち、その他利益剰余金を原資とする割合が「利益剰余金配当割合」になります。具体的な算出方法は以下の通りです。

<利益剰余金配当割合>

その他利益剰余金からの配当額/(その他資本剰余金からの配当額+その他利益剰余金からの配当額)

利益準備金の積立額の計算手順

上記の規定から、利益準備金の積立額の計算手順をまとめると次のようになります。

手順1:法定準備金の積立額を算定

法定準備金の額(利益準備金+資本準備金)が資本金額の4分の1に達していない場合、次のいずれか小さい額を法定準備金の積立額とします。

A:(資本金×4分の1)-(利益準備金+資本準備金)
B:配当金額×10分の1

手順2:利益準備金の積立額を算定

手順1の額に、利益剰余金配当割合をかけて、利益剰余金の積立額を算定します。

利益準備金の具体例と仕訳

【例1】配当原資がその他利益剰余金のみ

株主総会において、その他利益剰余金を原資として、配当金1万円を支払うこととした。
(会社の資本:資本金20万円、利益準備金2万、資本準備金2万円)

<計算>

・法定準備金の積立額を算定法定準備金の積立額を算定

A:資本金20万円×4分の1-(利益準備金2万円+資本準備金2万円)=1万円
B:配当金額1万円×10分の1=1,000円
Bの方がAより小さいため、法定準備金の積立額は、Bの1,000円となります。

・利益準備金の積立額を算定

利益剰余金配当割合・・・1(その他利益剰余金からのみの配当であるため)

上記で算定された金額に対して利益剰余金配当割合をかけたものが積立額となるため、利益準備金の積立額は、1,000円(1,000円×1)となります。

<仕訳>

貸方科目金額借方科目金額
繰越利益剰余金11,000利益準備金1,000
未払配当金10,000

【例2】配当原資がその他利益剰余金とその他資本剰余金


株主総会において、その他利益剰余金6,000円、その他資本剰余金4,000円を原資として配当金1万円を支払うこととした。
(会社の資本:資本金20万円、利益準備金2万、資本準備金2万円)

<計算>

・法定準備金の積立額を算定

法定準備金の積立額…1,000円
資本金×4分の1-(利益準備金+資本準備金)(1万円)よりも、配当金額×10分の1(1,000円)の方が小さいため、法定準備金の積立額は1,000円となります。

・利益準備金の積立額を算定

利益剰余金配当割合・・・0.6(1,000円×6,000円/(4,000円+6,000円))
利益準備金の積立額600円(1,000円×0.6)
上記で算定された金額に対して利益剰余金配当割合をかけたものが積立額となるため、利益準備金の積立額は、600円(1,000円×0.6)となります。

<仕訳>

貸方科目金額借方科目金額
繰越利益剰余金6,600利益準備金600
その他資本剰余金4,400資本準備金400
未払配当金10,000

利益準備金を減少させるには

利益準備金は繰越利益剰余金の額がマイナスとなった事業年度に、そのマイナス部分を利益準備金の減少で補充するという処理を行うことが多いでしょう。仕訳は次のようになります。

<仕訳>

株主総会で、利益準備金を1万円減少させ、繰越利益剰余金1万円に充てることとした。

貸方科目金額借方科目金額
利益準備金10,000繰越利益剰余金10,000

利益準備金を減少させるには、会社法によって株主総会の決議や債権者保護手続きという手順を踏む必要があります。

利益準備金が変動したら

利益準備金の積立や取り崩しによって期末の帳簿価額が変動した場合、株主資本変動等計算書や法人税等申告書の別表五(一)にその増減を記載する必要があります。利益準備金は会社の資本に関する内容ですが、登記の変更を行う必要はありません。

まとめ

利益準備金は配当時に積立を行うことで、会社の財政基盤や債権者を保護します。その積立額は、法定準備金の上限と利益準備金の算定額という2段階を経て計上することがポイントです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 石田 夏

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理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。