個別注記表は必須の資料! 中小企業が気を付けるべき項目を解説

個別注記表は必須の資料! 中小企業が気を付けるべき項目を解説

個別注記表の作成は会社の義務

個別注記表は、会社法で作成・保存が義務付けられる計算書類の1つです。会社法では株式会社等は以下の資料を作成し、作成時から10年間保存することが必要となります。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表
  • 事業報告
  • 附属明細書
    (会社法第435条第2項・会社計算規則第59条第1項ほか)

個別注記表は何のために作成するか

会計の原則に「明瞭性の原則」というものがあります。これは会計の情報を財務諸表によって明瞭に表示し、利害関係者の判断を誤らせないことを目的とする原則です。このことから、会計の中で特に重要な事項を「個別注記表」に記載し、補足的に表示することが求められています。
ただし補足といっても、利害関係者の判断を誤らせないことが目的です。企業がそれぞれ、説明したいことを判断して記載するものではありません。どのようなときに注記を行うか、どのような書き方で行うかには決まりがあります。

個別注記表の記載内容

個別注記表の表示区分は、19項目に分けられています。

一 継続企業の前提に関する注記
二 重要な会計方針に係る事項に関する注記
三 会計方針の変更に関する注記
四 表示方法の変更に関する注記
五 会計上の見積りの変更に関する注記
六 誤謬の訂正に関する注記
七 貸借対照表等に関する注記
八 損益計算書に関する注記
九 株主資本等変動計算書(連結注記表にあっては、連結株主資本等変動計算書)に関する注記
十 税効果会計に関する注記
十一 リースにより使用する固定資産に関する注記
十二 金融商品に関する注記
十三 賃貸等不動産に関する注記
十四 持分法損益等に関する注記
十五 関連当事者との取引に関する注記
十六 一株当たり情報に関する注記
十七 重要な後発事象に関する注記
十八 連結配当規制適用会社に関する注記
十八の二 収益認識に関する注記
十九 その他の注記

(引用)会社計算規則第98条第1項

これら19項目は、以下いずれかで必要項目が変わります。

  • 会計監査人設置会社
  • 会計監査人設置会社以外の会社

会計監査人設置会社は、基本的に19項目すべてが必要です。それ以外の会社はさらに公開会社か非公開会社に分かれ、必要な項目が変わります(会社計算規則第98条第2項より)。具体的には下記のとおりです。

注記の表示区分(上記19項目)会計監査人の設置会社会計監査人の設置会社以外の株式会社
公開会社非公開会社
項目1不要
項目2
項目3
項目4
項目5不要
項目6
項目7不要
項目8不要
項目9
項目10不要
項目11不要
項目12不要
項目13不要
項目14◯(※)不要
項目15不要
項目16不要
項目17不要
項目18不要
項目19

(※)事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出する会社でなければ不要。

個別注記表の記載例

個別注記表で記載が必要となる項目のうち、中小企業を含むすべての企業で必ず表示することになるのが「二 重要な会計方針に係る事項に関する注記」です。

重要な会計方針に係る事項に関する注記の記載例

重要な会計方針に係る事項に関する注記に記載する事項は、次のとおりです。

  • 資産(有価証券・たな卸資産)の評価基準及び評価方法
  • 固定資産の減価償却の方法
  • 引当金の計上基準
  • 収益及び費用の計上基準
  • その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項

<記載例:有価証券の評価基準及び評価方法>

・総平均法による原価法を採用しています。

保有目的によって評価方法の異なる有価証券が複数あるときは、冒頭に「◯◯目的有価証券は」を付けて区別します。

<記載例:たな卸資産の評価基準及び評価方法>

・最終仕入原価法による原価法を採用しています。

棚卸資産によって異なる評価方法を使用する場合は、冒頭に「◯◯(たな卸資産の種別名)は」を付けて区別します。

<記載例:固定資産の減価償却の方法>

・有形固定資産
建物及び建物附属設備は定額法、それ以外は定率法を採用しています。

・無形固定資産
定額法を採用しています。

償却方法の異なるものがあれば、冒頭に「◯◯は」を付けて区別します。

<記載例:引当金の計上基準>

・貸倒引当金は債権の貸倒れによる損失に備えるため、売掛金の期末残高に対して法人税法の規定に基づく法定繰入率によって計上しています。

売掛金のほか、受取手形や貸付金なども貸倒引当金の対象です。引当金には、賞与引当金や退職給付引当金などもあります。

<収益及び費用の計上基準>

・割賦販売による売上高には、回収期限到来基準によって計上しています。

計上基準が1つでない収益や費用については、どの基準を採用して計上しているかを示す必要があります。

<記載例:その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項>

・消費税の会計処理は、税抜方式(または税込方式)によっています。

中小企業の個別注記表

「中小企業の会計に関する基本要領」に従って会計を行っている中小企業については、個別注記表の冒頭に「この計算書類は、「中小企業の会計に関する基本要領」によって作成しています。」と記載することができます。
会計ソフトを使用して決算書類を作成している場合は、チェックを付ける項目があるはずですので探してみましょう。この「中小企業の会計に関する基本要領」とは、「中小企業の会計に関する指針」の内容よりもさらに中小企業の実態に即した会計処理を示したものです。

この要領に準拠した計算書類の作成を行う中小企業には、日本政策金融公庫からの融資の際の優遇措置や補助金事業への加点などの支援が行われる場合があります。具体的な支援は、以下で確認しましょう。

(参考)中小企業庁「中小会計要領の活用に対する支援策」

もちろん、こうした支援を受けるには、個別注記表に記載することが重要なのではなく、実際に「中小会計要領の活用に対する支援策」で会計を行っていることが大切です。上記の中小企業庁のリンクに、日本税理士連合会が作成した「チェックリスト」が掲載されているので活用しましょう。

まとめ

個別注記表の概要や記載事項、記載例について解説しました。記載する文面は自身で考える必要はなく、会計ソフトで必要な注記事項の項目を選んでチェックを入れる作業が重要です。
なお、必ずしも1つの個別注記表に一括して記載する必要はなく、各計算書類の注記事項として記載することも認められています。使用している会計ソフトの仕様に合わせて検討しましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 石田 夏

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理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。