なぜ連結?連結財務諸表の見るべきポイントと連結決算のメリット

なぜ連結?連結財務諸表の見るべきポイントと連結決算のメリット

なぜ、財務諸表を単体ではなく、連結ベースで作成するのか、考えたことはありますか。

現在、グループ経営を行う企業にとって、連結財務諸表を作成することは極めて自然な選択ですが、一昔前までは連結グループという概念ではなく、企業単体で財務諸表を作成するのが一般的でした。

今回は、単体ではなく連結による財務諸表を作成するようになった経緯・理由をご紹介するとともに、連結財務諸表作成時のチェックポイントについてご紹介していきます。

連結財務諸表とは何か

連結財務諸表とは、グループ内の企業群を便宜的に単一の企業と見なした上で作成される財務諸表のことです。
具体的には、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結剰余金計算書およびキャッシュフロー計算書の4つの書類を指します。

一般的な作成手順としては、まず各企業単体の財務諸表を作成した上で、グループ内各社の財務諸表をドッキングさせます。そして、必要な調整を加え、最終的にグループ内の企業群を便宜的に単一の企業と見なした形の財務諸表を作成します。

なぜ単体ではなく連結なのか

連結重視の流れは、日本に限らず、世界共通のトレンドです。日本においては2000年代前半から、本格的に連結決算中心主義に移行してきました。

単体決算ではなく、連結ベースの決算内容が重視されますが、それはなぜでしょうか。

連結決算中心主義の背景は、一言で言えば、企業経営状態の実態を正確に把握しやすいことが挙げられます。
連結グループとは、一般的に親会社・子会社の主従関係からなる集団です。親会社は子会社の株式の過半を保有しており、株主権利を行使する形で支配的な地位を有しています。つまり、子会社は親会社の意思に基づいて企業経営を行っているということです。

極端な例を挙げれば、親会社が上場していて市場の注目に晒されている場合、事業計画達成を目的として子会社に損失を片寄せしたり、親会社の収益計上のための不要な取引を行ったりといった、黒に近いグレーな動きをするかもしれません。親会社の財務諸表の見栄えを保つことが目的化する傾向にあるのです。

こうした可能性を踏まえた場合、「財務諸表を単体で見ても実態が見えない」「連結グループ全体で見た方が一目瞭然である」という理由から、連結決算中心主義が世界的なトレンドになっているのです。

連結財務諸表を見るときの注目ポイント

それでは、経理担当者、あるいは経理部の管理職の方が、連結財務諸表を作成される際に注意されるべきポイントについて、ご紹介していきます。
基本的な内容も多く含まれますので、チェックリスト的な使い方をしていただければと思います。

1. 債権債務の相殺

債権債務の相殺仕訳に関する勘定科目としては、主に次のものがあります。

  • 営業取引に係る売掛金、受取手形と支払手形
  • 金銭貸借取引に係る貸付金と借入金
  • 固定資産取引に係る未収入金と未払金

<ポイント>

  • 連結財務諸表の科目の前期比較における増減が大きい場合には、増減内容が単純合算金額の増減の影響か、債権債務相殺金額の増減の影響か確認しましょう。
  • 債権債務の相殺において会社間での認識額が異なることから差額が発生する場合があります。当該差額については、(i)処理誤りを原因としないため、合計基準に従い適切に処理を行えばよいのか、(ii)処理誤りを原因とするため、修正が必要であるのか、を確認しなければなりません。

2. のれん・負ののれん

連結上ののれん(負ののれん)とは、子会社に対する投資と子会社の資本のうち、親会社持分額の結果生じた差額が借方(貸方)に生じたものをいいます。のれんは、企業の超過収益力を表すものであるといわれ、投資企業の貸借対照表に計上されていない企業のブランド価値やノウハウなどによって将来の収益獲得能力を表すものです。一方、負ののれんは、企業を安価で購入することにより発生するものです。

<ポイント>

  • のれん、負ののれんが新たに発生する場合、その発生理由を把握しましょう。
  • のれんは減損処理を行うことが認められていますので、その処理が適切かどうか確認する必要があります。

3. 非支配株主持分・非支配株主に帰属する当期純利益

非支配株主持分は、連結子会社に親会社以外の所有者(少数株主)が存在する場合の当該少数株主が有する連結子会社の持分をいいます。非支配株主に帰属する当期純利益は、連結子会社の当期純利益のうち、少数株主の持ち分をいいます。非支配株主持分は、純資産の部に独立の項目として記載され、非支配株主に帰属する当期純利益は連結損益計算書の当期純利益(損失)の次に非支配株主に帰属する当期純利益(損失)として記載されます。

<ポイント>

  • 残高および発生額の増減内容を把握しましょう。
  • 子会社が債務超過になっている場合、マイナスの持分を少数株主に負担させていないか確認しましょう。

4. 為替換算調整勘定

為替換算調整勘定とは、在外子会社等の財務諸表の換算手続において、決算時の為替相場で換算される資産や負債項目の円貨額と、取得時・発生時の為替相場で換算される資本項目の円貨額の差額をいいます。
為替換算調整勘定は、在外子会社等に対する投資持分から発生した未実現の為替差損益としての性格を有すると考えられるため、持ち分比率の変動に伴う減少割合に応じて部分的に表現させていくことになります。

<ポイント>

  • 為替換算調整勘定残高の変動が、為替相場の動向と整合していることを確認しましょう。

5. 棚卸資産および固定資産の未実現利益

連結会社間の棚卸資産や固定資産の売買取引によって発生した損益は、その取引対象となった棚卸資産または固定資産が連結外部に売却等により実現するまで、または、減価償却などで資産の簿価がゼロになるまで、当該資産内に未実現損益として残っています。連結会社間の内部取引から生じた未実現利益であるため、消去することが必要となります。
尚、親会社から子会社に対して販売する取引形態をダウンストリーム、子会社から親会社に対して販売する取引形態をアップストリームといいます。

<ポイント>

  • 消去額の前年同期比較表において増減が大きな場合には、経営環境および経営成績と整合していることを確かめましょう。
  • 連結精算表の未実現消去額の内容を確認しましょう。

まとめ

ここまで連結決算中心主義の裏にある背景と、連結財務諸表作成時の主なチェックポイントについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
株主や市場に対する公正な情報公開は、長期的な信用につながる重要なミッションです。信用を集める企業であり続けるための重要な業務であるという認識のもと、連結財務諸表作成の業務に当たっていただければと思います。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。