棚卸資産の評価方法をマスター! その3:個別法

棚卸資産の評価方法をマスター! その3:個別法

個別法とは

個別法とは原価法による棚卸資産の期末評価方法の1つで、棚卸資産の個別の仕入価格をそのまま取得原価とする評価方法です。これにより、期末の棚卸資産の評価額はもちろん売上と原価も完全に対応することから、もっとも正確な評価方法といえます。
その一方で個別法は、現物の受け払いと会計帳簿が合致していなければなりません。したがって、個別法を選択するには、仕入価格ごとに個別管理することができる棚卸資産であることが前提です。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その1:原価法

取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法
個別法は、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法である。

(引用)企業会計基準委員会資料|「棚卸資産の会計基準」個別法について

個別法に適している棚卸資産とは

個別法による評価に適している棚卸資産とは、たとえば宝石や美術品、不動産販売業の不動産や建設事業による建築物など、個別性が高いものです。逆に、同じ種類の商品を大量に仕入れて販売するような場合には使うことができません。
個別法がどのような棚卸資産の評価方法に適しているかについて、法人税基本通達では次のような資産について個別法を選定できるとしています。

(1) 商品の取得から販売に至るまでの過程を通じて具体的に個品管理が行われている場合又は製品、半製品若しくは仕掛品の取得から販売若しくは消費までの過程を通じて具体的に個品管理が行われ、かつ、個別原価計算が実施されている場合において、その個品管理を行うこと又は個別原価計算を実施することに合理性があると認められるときにおけるその商品又は製品、半製品若しくは仕掛品
(2) その性質上専ら(1)の製品又は半製品の製造等の用に供されるものとして保有されている原材料

これをまとめると、次のようになります。

それぞれの要件共通の要件
商品取得から販売に至るまで個品管理が行われているもの個品管理を行うことや個別原価計算を行うことに合理性があると認められるもの
製品
半製品
仕掛品
取得から販売もしくは消費までの過程で個品管理が行われ、かつ個別原価計算が実施されているもの
原材料もっぱら上記の製品、半製品の製造の用に供されるものとして保管されているもの

つまり、個別法を選定できる商品や製品とは個品管理が可能なものであり、さらに製品では個別原価計算が行われているものが対象になります。

個別法を使った棚卸資産の評価方法

個別法を使った棚卸資産の評価額の計算例を見ていきましょう。

<例:建売住宅販売業を営むX社の販売用不動産に関する取引状況(3月決算法人)>
たとえば、X社の販売用不動産にかかる年間取引が次のように行われたとします。

日付摘要仕入価格残り
4月1日前期繰越 住宅A、住宅B
(住宅A)2,000万円
(住宅B)1,500万円
4月15日売上(住宅A) 住宅B
6月15日仕入(住宅C)2,000万円住宅B、住宅C、住宅D
仕入(住宅D)2,500万円
7月1日売上(住宅C) 住宅B、住宅D
9月15日仕入(住宅E)1,500万円住宅B、住宅D、住宅E
12月1日売上(住宅B) 住宅D、住宅E
3月31日翌期繰越 住宅D、住宅E

この場合、個別法による棚卸資産の期末評価は次のようになります。

期末棚卸評価額:住宅D(仕入価格2,500万円)+住宅E(仕入価格1,500万円)=4,000万円

建売住宅はその所在地や形状などから1つひとつ1つを明確に区別することが可能であり、棚卸資産の評価は個別法で行われることが一般的となります。

個別法のメリット・デメリット

メリット

  • 棚卸資産の評価額が正確
    個別の仕入価格を取得原価とするため、期末の棚卸資産を正確な取得原価で評価することができます。
  • 損益の対応も一致
    売上と原価が完全に対応するため、正確な期間損益計算が可能となります。

デメリット

  • 管理に手間がかかる
    個別法では、仕入価格を個別の棚卸資産ごとに管理しなければなりません。そのため現物の個別管理はもちろん、請求書や領収書の発行においてどの商品であるかを明確にしたり、仕訳では補助科目を使用して1つひとつ区別して計上したりするなど工夫が必要です。このように個別法では、受入れから払出しまでの管理にとても手間がかかります。

まとめ

個別法はもっとも正確な棚卸資産の評価方法ですが、現物、帳簿ともに管理が大変です。扱う棚卸資産が増えてきたら、管理システムの導入などの検討も必要になるでしょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 石田 夏

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理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。