棚卸の計算方法と評価方法をマスター! その1:原価法

小売業・卸売業などの企業は、商品を仕入れて販売することで利益を得ています。しかし、仕入れた商品がすべて販売されるとは限らず、一部は在庫として翌期へ繰り越されます。そのため、決算時には、どのくらいの商品が販売され、どれだけの在庫が残っているのかを正確に把握し、適切に評価することが求められます。
企業が決算時に行うこのような棚卸の作業では、企業が期中に記録した仕入・販売データと、実際の在庫数量を照合し、差異を確認することが重要です。また、棚卸資産の原価配分の方法によって、企業の利益計算、さらには税務処理にも影響を及ぼすため、適切な評価基準を選択することが不可欠となります。
本記事では、棚卸資産の計算方法について解説するとともに、最も基本的な評価方法である「原価法」の考え方に焦点を当てて、具体的な計算方法やメリット・デメリットについても詳しく解説していきます。
棚卸の計算方法に関する基礎知識
棚卸とは、会社が保有している商品や原材料などの在庫数量や状態を調査する作業のことを言います。棚卸を行うためには、いくら商品や原材料などを仕入れ、そのうちいくらが払い出されたのかを正確に把握する必要があります。ここでは、棚卸の基本的な計算方法である棚卸計算法について解説していきます。
棚卸計算法とは
棚卸計算法とは、期中の取引記録を基に、実地棚卸の結果を加味して売上数量や材料の消費数量を算出する方法です。具体的には、棚卸計算法では期中の受入数量(仕入量)を記録し、期末に実地棚卸を行って在庫数量を確定します。
棚卸計算法の計算式
たとえば、以下のようなデータ(取引記録)があると考えてみましょう。
- 期首在庫数量:100個
- 期中仕入数量:300個
- 期末実地棚卸数量:150個
この場合、消費数量(売上数量)は次の式で求められます。
これを実際に計算してみると次のようになります。
したがって、この期間中の消費数量(売上数量)は250個と計算することが可能です。
このように、棚卸計算法は、期中において受入数量だけを記録し、期末に実地棚卸を実施することにより、払出数量を間接的に把握する方法です。
なお、実地棚卸とは、期末時点で企業が保有している実際の在庫数量を確認する作業です。通常、現場で実際に従業員が在庫品の数を数え、その数量を記録することで、帳簿上の在庫数量と照合します。
棚卸計算法と継続記録法の違い
商品や材料の消費数量を把握する方法としては、棚卸計算法だけではなく、継続記録法という方法もあります。継続記録法は、棚卸計算法と同様に消費数量を把握するための方法ですが、実施のタイミングや記録の方法に違いがあります。以下がその違いです。
実施時期の違い
- 棚卸計算法: 期末にまとめて実地棚卸を行い、消費数量を算出します。
- 継続記録法: 商品や材料の購入や販売(消費)を行うたびに記録を行い、リアルタイムで販売(消費)数量を管理します。
実地棚卸に関する違い
- 棚卸計算法: 期末に実地棚卸を行い、帳簿上の在庫と実際の在庫を照合します。
- 継続記録法: 実地棚卸は行わず、帳簿上で受入数量と払出数量を管理します。
棚卸計算法と継続記録法は、どちらも棚卸資産の消費数量を把握する方法ですが、それぞれ異なる特徴を持つため、実務では併用されることが一般的です。
棚卸計算法は期中の受入数量のみを記録し、期末に実地棚卸を行うことで消費数量を間接的に把握する方法であり、継続記録法は期中の受入数量と払出数量を継続的に記録し、帳簿上で消費数量を直接把握する方法です。
棚卸計算法の強みは、期末の実地棚卸により在庫数量を正確に把握できる点であり、事務処理がシンプルで日常業務の負担が少ないことが挙げられます。
一方、継続記録法は払出数量をリアルタイムで記録できるため、在庫管理の精度が向上し、盗難や破損による在庫減耗を早期に発見できるという利点があります。
これらの特徴を踏まえ、実務では継続記録法を用いて期中の受入・払出を記録し、期末に棚卸計算法を用いて実地棚卸を行い、帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量を照合することで、より正確な在庫管理を実現しています。
棚卸計算法のメリットやデメリット
ここからは、棚卸計算法のメリットとデメリットについて解説します。
棚卸計算法のメリット
棚卸計算法には、業務の簡便性や管理コストの削減といったメリットがあります。
最大の利点は、棚卸資産の計算にかかる手間を削減できることです。継続記録法では、期中の払出額を逐一記録しなければなりませんが、棚卸計算法では払出額を記録する必要がなく、期中の仕入額のみを管理することで済みます。
そのため、日常的な在庫管理の負担が軽減され、特に小規模事業者や在庫変動が少ない企業に適しています。また、期末にまとめて計算を行うことで、日常業務への影響を最小限に抑えながら、財務管理の正確性を維持することができます。
棚卸計算法のデメリット
一方で、棚卸計算法には商品や材料などの正確な消費額の把握が難しいというデメリットがあります。棚卸を行うまでは、正確な在庫数量や消費量が不明であり、期末にならないと最終的なコストを把握できません。そのため、多くの企業では、継続記録法と併用することで、商品や材料などの払出数量や在庫管理の精度を向上させる工夫を取り入れています。
棚卸資産を計算する際のポイント
ここからは、棚卸資産を計算する際に注意すべきポイントについて解説します。
棚卸評価損などを計上する
棚卸の際に、商品が破損していたり、品質が劣化したりしていた場合には、それを「商品評価損」として計上する必要があります。加えて、棚卸資産の価値が著しく減少し、今後回復しないと認められる場合には評価損の対象となることもあります。
たとえば、季節商品が売れ残り、通常の価額での販売が困難な場合や、新製品の発売によって旧モデルが市場価値を失った場合が該当します。具体的には、当該商品の帳簿価額と実際の市場価値との差額を評価損として損益計算書に計上します。
また、帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量が一致しない場合には、差額を「棚卸減耗損」として計上します。
在庫の含み損が経費として認められるためには条件がある
上記のように棚卸資産(在庫)に含み損がある場合には、商品評価損のような損失を計上することがありますが、この損失は税務上の経費として認められるものと認められないものがあります。
経費として認められる含み損には、破損や品質の劣化、災害などによる損失が含まれます。たとえば、自然災害によって製品が損傷した場合や、流通過程での事故により品質が著しく低下した場合などが該当します。また、破損、型崩れ、品質変化などにより通常の方法で販売できなくなった場合も経費として認められます。
一方、物価の変動や過剰生産、建値の変更による価値の低下は、評価損として認められません。市場価格の変動によって棚卸資産の評価額が下がった場合や、一時的な需要低下による価値減少は、含み損として経費とすることは認められません。
会計システムで棚卸資産の計算を効率化する
棚卸資産の計算は手作業で行うと非常に手間がかかるため、会計システムを導入することで、業務を大幅に効率化することが可能です。
会計システムを利用することで、リアルタイムで在庫データを管理できるほか、帳簿棚卸と実地棚卸のデータを一元的に管理することができます。
特に、評価損の計上が必要な場合には、過去のデータと比較しながら迅速な対応が可能となります。企業の業務負担を軽減し、決算時のスムーズな処理を実現するためにも、適切な会計システムの活用がおすすめです。
原価法とは
棚卸資産は期末に評価をし直す必要があります。棚卸資産の期末評価として原価法は最も基本的な評価方法の一つです。ここでは、原価法の定義、メリット・デメリットについて解説します。
原価法の定義
原価法とは棚卸資産の期末評価の方法の一つです。原価法では、取得原価を基準に在庫を評価します。原価法では、棚卸資産の購入時の費用をそのまま評価額とし、期末時点での市場価格や物価変動の影響を考慮しません。
原価法のメリットやデメリット
ここからは、原価法のメリットとデメリットについて解説します。
原価法のメリット
棚卸資産の期末評価において、原価法を適用するメリットは、期末に残った商品や原材料の価値の低下を考慮せずに済むことから、棚卸資産の価値を比較的簡単に把握できる点にあります。
たとえば、10万円で仕入れた商品がそのまま在庫として残っていた場合、原価法では、実際にはその商品が10万円の価値が無かったとしても、10万円の商品がそのまま残っていると考えます。
このように、期末に残った商品や原材料の価値を取得原価で評価することになるため、仕入れた際の取得原価がそのまま期末商品の価値となります。
原価法のデメリット
原価法には市場価格の変動を反映できないというデメリットがあります。市場価格が変動した場合でも、取得原価で評価するため、実際の在庫価値と乖離が生じる可能性があります。
そもそも棚卸資産とは
棚卸資産とは、企業が販売または加工を目的として保有する在庫のことを指します。会計上は「流動資産」に分類され、決算時には貸借対照表に記載される重要な項目です。
棚卸資産には、主に商品・製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品・消耗品などが含まれます。たとえば、小売業においては仕入れた商品そのものが棚卸資産となり、製造業では原材料や未完成の製品(仕掛品)なども棚卸資産となります。
棚卸資産の期末評価とは
棚卸資産の期末評価とは、企業が決算時に保有している棚卸資産の価値を適正に評価し直すことを言います。棚卸資産は、仕入時には、取得原価によって評価されていますが、その価値がそのまま期末まで維持されているかはわかりません。したがって、棚卸資産は、期末に再評価を行って、適正な価値に修正しなければならないのです。
棚卸資産の期末評価方法
棚卸資産の原価配分とは、棚卸資産の取得原価を売上原価と次の会計期間に棚卸資産として繰り越す部分(繰越商品)に配分することを言います。棚卸資産の原価配分方法には、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、売価還元法、最終仕入原価法があります。以下では、それぞれの原価配分について簡単に解説していきましょう。
原価法による棚卸資産の期末評価方法
まずは、原価法に基づく原価配分について解説していきましょう。原価法は、税法上の棚卸資産の評価方法であり、取得時の原価をもとづいて原価配分を行います。
個別法
個別法は、それぞれの棚卸資産を個別に識別し、販売・費消された棚卸資産を売上原価に、売れ残った棚卸資産は繰越商品とする方法です。不動産や貴金属など、高額で個別性の高い商品に適しており、最も正確な原価計算が可能です。ただし、管理の手間が増えるため、多くの品目を扱う業種では適用が難しい場合があります。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その3:個別法
先入先出法
先入先出法は、最初に仕入れた商品から順に販売・消費されると仮定して棚卸資産を配分する方法です。物価が上昇傾向にある場合には、期末の在庫評価額が高くなり、売上原価は低めに算出される特徴があります。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その4:先入先出法
総平均法
総平均法は、一定期間内に取得した棚卸資産の取得原価の合計を個数で割って総平均単価を算出し、その単価をもって売上原価と繰越商品に原価を配分する方法です。
総平均法は、他の計算方法と比べて計算が比較的簡単で、取得価額の変動を平均化できる点がメリットですが、実際の仕入価格とは異なる原価が適用される可能性があるというデメリットもあります。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その5:総平均法
移動平均法
移動平均法は、異なる単価の棚卸資産の仕入れが行われるたびに、在庫の平均原価(移動平均単価)を計算し、その単価をもって売上原価と繰越商品に原価を配分する方法です。異なる単価の棚卸資産の仕入がある場合、その価格変動が即時に計算に反映されるので、より実態に即した原価配分が可能となります。しかし、仕入れの都度計算が必要となるため、手間がかかる点がデメリットです。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その6:移動平均法
売価還元法
売価還元法は、小売業などで利用される方法で、商品を類似のグループごとに分類し、販売価格に原価率を乗じて売上原価を算出する方法です。商品ごとの仕入原価を詳細に管理しなくても在庫評価が可能ですが、原価率の設定が適正でない場合には誤差が生じやすい点が課題となります。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その7:売価還元法
最終仕入原価法
最終仕入原価法は、期末に最も近い時点での仕入価格を基に棚卸資産を評価する方法です。計算が容易である一方、物価変動の影響を受けやすく、評価額が大きく変動するリスクがあります。税務上、評価方法を届け出ない場合は自動的にこの方法が適用されるため、注意が必要です。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その8:最終仕入原価法
低価法による棚卸資産の期末評価方法
低価法に基づく方法で原価配分を行なったのち、繰り越される商品(在庫)となったものは、期末評価を行う必要があります。期末に残っている商品については、原価法で評価した金額と、期末時点の市場価格を比較し、低い方を評価額としなければなりません。
たとえば、原価法に基づいて計算された繰越商品が100万円で、この商品の期末時点の市場価格(売却可能価額)が90万円となっている場合には、繰越商品を100万円ではなく、90万円と再評価する必要があります。
以上をまとめると次のようになります。
原価法 | 【評価方法】 ・個別法 ・先入先出法 ・移動平均法 ・総平均法 ・売価還元法 ・最終仕入原価法 |
低価法 | 原価法での評価額と期末時価のいずれか低い方 |
低価法のメリットは、原価が時価を下回った場合、その分を「商品評価損」として損金算入でき、法人税の節税につなげられることです。また、流行性の強い商品など、現在の価値と乖離しやすい棚卸資産の市場価値の変動を正しく把握できます。加えて、原価法と時価を比較して低い方を評価額とできるため、原価法と同じ結果になったとしても、不利になることはありません。
一方でデメリットとしては、会計上の処理が煩雑になることが挙げられます。原価法での評価額と時価を比べる必要があるためです。また、低価法は、翌期首には再度、取得原価に評価し直して計上する必要があり、期首の作業も煩雑化します。
経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その2:低価法
棚卸資産の法定評価方法
棚卸資産の原価配分方法はさまざまですが、税法上、適用できる方法は限定されています。以下では、税法上、棚卸資産の原価配分方法を選択・変更したい場合にどうすべきかを解説します。
棚卸資産の評価方法を選択・変更したいとき
棚卸資産の評価方法を選択または変更する場合、税務署に適切な書類を提出する必要があります。法人の新設時や新事業の開始時には「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出し、評価方法を明確にします。また、既存の評価方法を変更したい場合は「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出し、承認を得る必要があります。
提出期限については、法人の新設時は設立第1期の確定申告書提出期限まで、新事業の開始時はその事業年度の確定申告書提出期限までとなっています。変更申請を行う場合は、変更したい事業年度の開始日前日までに手続きを完了する必要があります。
選択・変更する状況 | 提出書類 | 提出期限 |
---|---|---|
法人の新設時 | 棚卸資産の評価方法の届出書 | 設立第1期の確定申告書の提出期限まで (中間申告を行うときはその期限まで) |
設立後に新事業を開始した時 | 棚卸資産の評価方法の届出書 | 新事業を開始した事業年度の提出期限まで (中間申告を行うときはその期限まで) |
選定した棚卸資産の評価方法を変更したい時 | 棚卸資産の評価方法の変更承認申請書 | 変更しようとする事業年度開始の日の前日まで |
棚卸資産の評価方法は継続適用が条件
棚卸資産の評価方法の変更は、不正な利益操作を防ぐため、無制限に認められているわけではありません。
法人税施行令では、「相当期間」が経過していない場合、税務署は変更申請を却下する権限を持っています。この「相当期間」は法人税基本通達によって「3年間」と定められています。ただし、3年以上経過していたとしても、その変更に合理的な理由がない場合は承認されないことがあります。
また、3年未満であっても、合併や分割といった特別な事情がある場合には例外として変更が認められることがあります。税務署への申請時には、変更の正当性を示す根拠資料の提出が求められるため事前の準備が必要です。
まとめ
棚卸は、企業が仕入れた商品や原材料の在庫を正確に把握し、適切に評価するために欠かせないプロセスです。期末において、どの程度の商品が販売され、どれだけの在庫が残っているのかを正しく計算し、財務状況を適切に反映させることが求められます。
棚卸資産の計算方法としては、棚卸計算法と継続記録法があり、それぞれの手法には特徴があります。棚卸計算法は、期中の受入数量のみを記録し、期末に実地棚卸を行うことで在庫数量を確定する方法です。一方、継続記録法は、商品の仕入や販売のたびに記録を行い、リアルタイムで在庫管理を行う方法となります。
また、棚卸資産の評価方法には原価法と低価法があり、特に原価法は最も基本的な評価方法として広く用いられています。原価法には、個別法、先入先出法、移動平均法、総平均法、売価還元法、最終仕入原価法などがあり、それぞれの特性を理解し、企業の商取引に適した方法を選ぶことが求められます。
棚卸に関するQ&A
最後に、棚卸に関する疑問を解決するため、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1.棚卸とは?
棚卸とは、企業が所有する在庫を確認する作業のことです。具体的には、帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量が一致しているかを確かめ、差異があれば調整を行います。
Q2.棚卸資産の評価方法の選び方は?
棚卸資産の評価方法は、企業の業種や商品の特性に応じて選択されます。商品点数が多く価格変動の影響を受けやすい業種では「移動平均法」や「売価還元法」が適用されることが多く、個別性の強い高額商品を扱う場合は「個別法」が選ばれることが一般的です。最も広く採用されている方法は「先入先出法」です。会社の評価方法に合わせて税務上の届け出を適宜行いましょう。
Q3.棚卸資産の仕訳の方法は?
棚卸資産を購入し、決算整理までの仕訳は次のように行います。
【販売用の単価1万円の商品を100個購入した場合(代金は掛けとする)】
購入の代価に付随費用を加算した取得原価で棚卸資産を評価します。
(借)仕入 1,000,000円 / (貸)買掛金 1,000,000円
その後、この商品がそのまま期末まで残っていた場合には、次のように仕訳します。
(借)繰越商品 1,000,000円 / (貸)仕入 1,000,000円
さらに、決算整理として棚卸を行った結果、10個の商品が盗難などの理由により行方不明となっていることがわかった場合には、次のように仕訳します。
(借)棚卸減耗損 100,000円 / (貸)繰越商品 100,000円
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。