制度融資の活用メリット・デメリットを知ろう

制度融資の活用メリット・デメリットを知ろう

「制度融資」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。主に、中小企業やスタートアップ企業が利用する融資制度で、自治体が主導しているものです。
自治体が経済政策支援の一環として実施する制度ですので、民間の金融機関の融資制度に比べて、様々な利点があります。今回は、この制度融資の概要と、活用するメリット・デメリットについて見ていきましょう。

制度融資とは何か

制度融資とは、中小企業や起業家、個人事業主向けに、主に地方自治体、民間の金融機関、信用保証協会が連携して提供される政府系の融資制度です。

「銀行は晴れた日に傘を持ってきて、雨の日に傘を取り上げていく。」

この言葉は、銀行の貸し出し姿勢を皮肉した言葉です。
経営がうまくいっているとき(=晴れた日)には頼んでもいない融資の話をもちかけてくるのに、本当に力を貸してほしいとき、すなわち経営が傾きかけたときには融資に応じてくれないどころか、既存の融資を引き上げる、いわゆる「貸しはがし」を行う銀行の気ままな姿勢を揶揄しています。

日本に現存する法人と個人事業主は、合計で400万事業者に上ります。
いわゆる大企業は企業数ベースではわずか約0.3%に過ぎず、実に99.7%は中小企業や個人事業主であると言われます。

多くの中小企業や個人事業主は、大企業に比べて、事業基盤・財務基盤が不安定で信用力が低いことから、民間の金融機関からの融資を受けるハードルは高い傾向にあります。事業環境・景気が悪い状況の中で、市場の競争原理に委ねてしまうと、体力の少ない中小企業はバタバタと倒産して債権者や顧客に迷惑がかかるだけでなく、雇用の受け口がなくなり従業員が路頭に迷うことにもなりかねません。そのため、さらに日本経済の低迷・デフレの進行に拍車をかけることになってしまうのです。

こうした事態を防ぐために、市場の競争原理だけに委ねてしまうのではなく、一部政府自治体の財源・リソースを活用する形で、信用力の低い企業や個人でも利用しやすい融資制度の一つが、制度融資であるということです。

実際に制度融資と一言で言っても、地域ごと、企業属性ごとに多様な制度が設けられており、経営に行き詰まった企業や起業家に広く利用されています。

以下では、制度融資を活用する具体的なメリットを整理した上で、代表的な制度融資の種類をご紹介していきます。

制度融資活用のメリット

それでは、制度融資活用の具体的なメリットを見ていきましょう。

1. 審査ハードルが低い

制度融資活用の最大の利点は、融資審査のハードルが低いことでしょう。
厳しい経営状況にある中小企業や、設立後間もないスタートアップ企業であっても、事業計画と経営者のやる気、すなわち将来的な回復可能性、成長可能性に期待した寛大な判断をしてくれる傾向にあります。

上述の通り、制度融資の主旨は、市場原理に任せておくと淘汰されてしまう可能性のある中小企業やスタートアップ企業を支援することですから、民間の金融機関の審査に比べてハードルが低く設定されているのです。分かりやすい例で見ていきましょう。

脱サラした50代男性が大好きなラーメン屋を開店したいと、居ぬき物件の改装費と設備投資と当面の運転資本を含めて1,500万円の融資を求めているとします。

民間の金融機関の場合、ラーメン店の修行経験があるわけでもなく、店舗運営の経験もない元会社員の男性の夢に、1,500万円もの大金を融資することは、回収可能性や費用対効果などの観点から、正当化することが難しい場合が多いです。

しかし、制度融資などの政府系融資制度であれば、50代という年齢ながら、第二のキャリアに夢を持って挑戦する起業家精神を後押しすることは、高齢化社会の日本、衰退する地方経済にとって、今後ますます必要なセーフティネット機能であると考えられます。そのため、融資実行が正当化される場合も少なくないのです。

2. 金利が低い

また、金利が低いことも制度融資活用のメリットと言えるでしょう。
そもそも財務的基盤が弱く、キャッシュフローの確保が難しい事業者が主たる利用者ですので、信用度に応じた高い金利を強いても、それが企業経営の足かせとなってしまいます。制度によってまちまちですが、おおむね1.0~3.0%程度の低利融資を前提とする制度が多くなっています。

3. 各種経営支援が付属する場合がある

制度融資を主導する地方自治体にとって、活気ある街づくり、雇用安定、財政基盤安定のために、中小企業が元気であることは必要条件です。
制度融資が資金というリソースを供与する制度であるとするならば、これに加えて、経営手法のアドバイスなどの情報というリソース提供も付属している場合も見られます。孤独になりがちな中小企業や個人事業主にとって、相談相手がいてくれることは心強いものです。

制度融資活用のデメリット

1. 上限金額が設定されている

制度融資の特徴として、制度ごとに上限金額が設定されている点が挙げられます。
一定規模以上の資金を必要とする場合には、この上限金額の天井がネックとなる場合もあるでしょう。制度によってまちまちですが、おおむね500万円から3,000万円程度の上限金額が設けられている制度が多いようです。

ただし、上述のような制度融資の主旨を考えると、一定規模以上の資金を必要とするような規模の事業者よりも、より小規模な事業者を支えるべく、上限金額を抑えながらも制度活用の裾野が広がることを企図していることは容易に想像がつきます。

2. 自治体毎に制度設計されておりしばしば複雑

基本的には、事業者が籍を置く自治体が主導する制度融資を利用することになりますが、対象企業や期間、所管部署等によって制度内容は様々です。そのため、1件1件見比べて、どの制度が最も自社のニーズに合う制度なのかを見定めるのに手間がかかる点は、デメリットかもしれません。

自治体のウェブサイトに、要件・要綱がまとめてありますが、分かりにくかったり複数件あり迷ったりする場合には、自治体へ問い合わせてみたほうが手っ取り早いでしょう。

3. 手続きに時間を要する

民間の金融機関に比べて、融資決定・実行に至る手続きに時間を要する点もデメリットでしょう。
制度融資の性質上、自治体に加えて、金融機関、信用保証協会等の複数組織が連携しますので、手続きプロセス全体は長くなる傾向にあります。
目安として、相談開始から融資実行まで、3カ月前後の時間を要するケースが平均的です。
利用を検討する場合は、前もって相談を開始しておくことで、無駄の少ないスケジュールが組みやすくなるでしょう。

まとめ

ここまで、制度融資の概要と活用のメリット・デメリットを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
民間の金融機関の融資に比べてハードルが低く設定されており、より幅広い事業者が利用可能な制度であることがお分かりいただけたかと思います。
利用を検討される場合は、早めに自治体等の窓口で相談を開始するようにしてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。