債務免除で税負担が発生する?収益の変化と貸倒損失の計上方法

債務免除で税負担が発生する?収益の変化と貸倒損失の計上方法

事業活動をしていると、さまざまな債権債務が発生します。その中には「すでに回収の見込みがない債権」もあれば「どう考えても弁済することができそうにもない債務」も存在します。そういった債権債務の整理方法として「債務免除」という方法があります。今回は「相手から債務免除を受けるとき」「相手に対して債務免除(債権放棄)をするとき」の留意点について、簡単に確認をしていきましょう。
 

債務免除とは?

債務免除とは「相手に対する債権を放棄すること」です。何らかの形でお金を貸し付けている相手(売掛先や貸付先)に対して「あなたに対する債権を放棄します」と意思表示をすることで、債務の免除が実現します。
お金を借りている側にとっては、相手(買掛先や借入先)から意思表示を受けることで、自分が抱えていた借金(買掛金や借入金)を支払わなくても良いことになります。

この意思表示は、口頭や口約束ではトラブルになりかねませんので、通常は書面により実施されます。郵送などで行う場合には内容証明郵便などを活用することが多いです。

債務免除を相手(買掛先や借入先)から受けるとき

相手から債務免除を受けた場合、借金を返さなくて良くなったわけですから、その分だけ利得、つまり収益を得たことになります。

例:金融機関と交渉をして、借入金について1億円の債務免除を受けた

長期借入金(負債) 1億円 / 債務免除益(収益) 1億円

債務免除益は損益計算書上、特別利益として表示されます。
債務免除益は収益ですから、当然、法人税などの課税対象に含まれます。上記の例で、税率を30%だとすれば、3,000万円の税負担が発生します。

実際には事業の現状などにより、税負担の状況は大きく変わります。通常、債務免除が発生するのは経営が苦境にあるためです。ですから、債務免除益が計上されてもなお、赤字である場合には、税負担が生じません。

その一方、過去の借入返済などが理由で「黒字ではあるけれど資金繰りが非常に厳しい」という企業も存在します。その場合には債務免除を受けると、上述のように税負担が発生してしまいます。結果、債務免除を受けたことで税金が納められず、結局倒産する……ことにもなりかねません。

このように、債務免除は「受けられれば良い」というものではありません。事業の現状(黒字なのか赤字なのか)、繰越欠損(前年以前に発生した赤字の持ち越し)の適用など、多くの状況を踏まえながら相手と交渉する必要があります。なお、繰越欠損には適用期限がありますが、法的整理の過程においてはその期限が撤廃されることもあります。

(参考)国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」

中小企業の社長借入について

中小企業における債務免除で多いのは、経営者個人からの借入金を免除するものです。事業の状況が苦しいから免除するケースや「経営者の相続税問題」から債務免除が行われることも多いです。

経営者が企業に貸し付けているお金も基本的には相続財産に含まれます。従って、これを放置したまま経営者が亡くなると、それだけ相続税の負担が増えてしまいます。そのような状況を回避するために、生前に債務免除を行い、個人の財産を減少させることがあります。

この方法は相続税の回避にはつながりますが、上述のとおり法人の状況によっては法人税などの負担が発生する可能性もあるので、その点には留意が必要です。

債務免除を相手に対して行うとき

大前提として「債権放棄(債務免除)は債権管理の失敗」であることを認識しておきましょう。日頃から売掛金や貸付金などの債権回収についてしっかりと管理できていれば、債権を放棄するようなことはしないで済みます。
昨今、債権管理は企業経営における一大課題となっています。経理担当者が各取引先に対する債権の情報を適切に管理し、経営者と協力をしながら回収を進めることで、企業の状況は大きく改善します。

ただ、そこまで管理をしたうえでどうしても回収できない債権が出てきた場合には、相手に対して債権放棄の意思表示をすることで貸倒損失(費用)を計上することができます。

例:売掛先A社に対して500万円の売掛金を有しているが、債権放棄を通告した。

貸倒損失(費用) 500万円 / 売掛金(資産) 500万円

どちらにせよ回収ができないことが確定しているのであれば、債権の回収を潔く諦め、正式に放棄をすることで費用が計上されます。結果、その分だけ課税所得が圧縮されることになります。
「売上は計上したのに代金が回収できない」というのは「税金は負担したけれど代金はもらえていない」という最悪の状況です。そういった最悪の状況を避けるための方法が債権放棄による貸倒損失の計上です。
ただし、貸倒損失を経費として計上するためには、一定の条件があります。詳細についてはリンク先の記事をご参照ください。

経理プラス:あいまいな貸倒損失の適用要件と処理方法について

安易な債権放棄は、事業経営や個人間においてさまざまな問題を引き起こします。実際に債権放棄(債務免除)をするときは、慎重に判断をするようにしましょう。

(参考)国税庁:「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」

まとめ

債務免除は「債権者が保有している債権について債務者に免除を通知すること」により生じます。債務免除を受けた側には収益が発生しますが、その税負担について検討をする必要があります。
債権放棄をした側は、条件に合致すれば貸倒損失を計上することが可能です。大前提は「回収不能な債権が出ないように管理すること」ですが、それでも回収不能に陥った債権が出た場合には、思い切って債権放棄を通知することで課税所得を圧縮することができます。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 高橋 昌也

税理士 高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。

高橋昌也税理士・FP事務所