流動比率の目安とは?計算方法や判断時のポイントを解説

流動比率の目安とは?計算方法や判断時のポイントを解説

流動比率や流動性という言葉を聞いたことがありますか。
流動性は、さまざまな分野で用いられる表現ですが、特に財務会計の分野においては、企業の支払能力のことを意味します。
今回は、この企業流動性について基本的理解を確認した上で、流動比率分析についてみていきましょう。

流動性とは何か

流動性(liquidity)とは、債務の支払能力のことを指します。債務が返済できなければ企業は倒産しますので、流動性は倒産の可能性を示す指標でもあります。流動性が高ければ債務返済能力が高く、倒産の可能性は低いと言えます。

流動性は、財務流動性、財務安全性、健全性、堅実性、支払能力など、さまざまな表現が用いられますが、基本的にどれも同じ意味です。

流動性は、短期と長期、ストックとフローの観点から検討されるものです。

ここで短期というのは、おおむね2~3年以内に企業が倒産する心配がないかどうかに関する判断であり、主に債務の返済に充当されるべき現金預金等の資金が不足しないかを問題にすることです。短期について、ストックである流動資産や流動負債のバランスとフローである現金預金の流入・流出の両面から検討することが求められます。

長期というのは、おおむね3年以上の長期的な将来において不況や営業不振等の逆境に遭遇したときに耐え得る能力があるかどうかを問題にするものです。したがって長期的な流動性はフローである現金預金の流入・流出ではなく、財務構造、財務体力といったストックである財務基盤を問題とします。

流動比率とは何か

それでは本題です。具体的に流動比率について、みていきましょう。

流動比率

 

流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債

流動比率は短期的な支払能力を表します。1年以内に支払わなければならない負債は1年以内に現金化する流動資産で賄うべきであるという考えに基づく比率です。
経営分析において最も古くから用いられている比率であり、銀行が貸し出す時に重視する比率なので、かつては銀行家比率とも呼ばれていました。

流動資産の中には、不良売掛金や長期滞留あるいは陳腐化した在庫があるかもしれません。たとえば、1年以内に現金化するのが流動資産の半分だとすると、流動負債を返済するには流動資産が流動負債の2倍あればよいということになります。この場合、流動比率は200%で、一般的には流動比率は200%以上あるのが望ましいと言われています。この流動比率は、理解がしやすいこともあり、経営分析では最もポピュラーな指標です。

資金繰りが逼迫すると流動資産が減少し、流動負債が増加しがちです。したがって、流動比率が低い企業は短期的な支払能力が乏しいと判断されます。すなわち、業績が悪化すると資金に余裕がなくなって現金預金が減少します。資金繰りが苦しくなるにつれて得意先から回収した受取手形はすぐに裏書したり割引いたりして流出し、手元の有価証券は資金捻出のために売却します。さらには資金を捻出するために売掛金の回収を始め、仕入を抑えて在庫の圧縮を図ります。こうして流動資産が減少していくのです。

一方では、資金繰りをつけるために買掛金を現金払いから支払手形へシフトし、手形の支払期間を延長し、借入金が増加して流動負債が増加します。加えて、企業の信用力が低下すると長期借入金による資金調達が困難になり短期借入金に依存せざるを得なくなります。こうして流動比率は低下するのです。

流動資産と流動負債はともに貸借対照表の最上部に表示されているので流動比率は計算も簡単で、理解しやすいです。一般的には200%、業界によっては120%程度あればよいと言われています。

流動比率分析における留意点

それでは次に、実際に流動比率分析を行う場合の留意点についてみていきます。

流動資産には支払いに充当できない資産が含まれている

預金の中には、定期預金が借入担保に差し入れられているために取り崩しが不可能な場合があります。倒産するのは資金不足によって債務の支払いができなくなるからです。多くの現金を有していながら倒産する企業があるのは、このように担保差し入れの影響によるものなのです。

  • 売掛金について
    売掛先が既に倒産しているとか、長期間、回収が難しい売掛金や粉飾による架空の売掛金が存在するかもしれません。業績低迷が続くと不良債権は償却したくても償却できない事態が生じます。このような不良売掛金は回収による資金化が困難です。
  • 棚卸資産について
    長期滞留の在庫が含まれるかもしれません。購入した材料の一部がその製品の生産中止によって使用されなくなる事態などが想定されます。こうした不良棚卸資産の現金化は困難です。
  • 有価証券について
    本来はいつでも売却可能であるはずですが、実際には諸事情で売却できないことがあります。一方では、長期保有のはずの投資有価証券の中には即時に売却可能な有価証券がありますので、実際に資金化できる有価証券を注意深く検討する必要があります。

業種特性がある

小売業の多くは現金商売なので売上債権(売掛金や受取手形等)が少なく、電力・ガスなどのインフラ企業は棚卸資産が極めて少ないです。売上債権は棚卸資産が小さければ流動資産も小さくなり流動比率は低く算出されます。

たとえば、イオンの売上債権は売上高の3日、棚卸資産は25日分しかなく流動資産が少ないため、流動比率は100%を大きく下回ります。他方で、事業の実態は順風満帆な状況ですので、一概に流動比率分析の結果だけで企業を評価することはできないのです。

流動比率は貸借対照表時点の流動性を示すにすぎず、タイムロスがある

貸借対照表の流動資産も流動負債も決算日時点の状況にすぎません。事業には季節性のある企業もあり、期中の状況が必ずしも期末時点の貸借対照表の状況と同じとは限りません。

運転資金需要のパターンによって流動性が異なる

買入債務回転期間の方が、売上債権回転期間よりも長い場合は、売上が成長している間は資金に余裕がでてくるため流動比率が低くても支払能力に問題は生じません。しかし、一旦売上が減少に転ずると支払能力に問題が生じます。買入債務回転期間の方が、売上債権回転期間よりも短い場合は、これと全く逆の現象が生じます。

まとめ

ここまで流動性分析の意味と、その代表格である流動比率についてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
一概に流動比率だけをみて結論を出すのは危険ですが、一つの有効な指標であることがおわかりいただけたかと思います。企業の流動性を正しく評価して、企業経営の実態を読み解けるようにしましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。