有価証券の減損処理のキホン 決算で慌てないための判断基準とは
「有価証券の減損処理について正確な理解をしているか」と聞かれて自信を持ってYesと答えられる方は、決して多くないのではないでしょうか。
一口に有価証券と言っても種類は多岐にわたること、減損基準が複雑であること、金融商品に係る会計基準が頻繁に改正されるため最新情報が何か分からなくなること、などの理由から苦手意識を持っている方も多いと思います。
今回は、有価証券の減損処理についてご紹介していきます。ご自身の理解が正しいことを確認するチェックリストとして活用してみてください。
有価証券の保有目的区分
減損処理の本題に入る前に、有価証券の保有目的に基づく区分を整理しておきましょう。
有価証券の区分 | 評価基準 | 評価差額の取扱い | |
---|---|---|---|
株式 | 売買目的有価証券 | 時価 | 損益に計上 |
子会社・関連会社株式 | 原価 | - | |
その他有価証券 | 時価 | 資本の部に直接計上 (部分資本直入法の損はP/L) |
|
債券 | 売買目的有価証券 | 時価 | 損益に計上 |
満期保有目的の債券 | 償却原価 | - | |
その他有価証券 | 時価 | 資本の部に直接計上 (部分資本直入法の損はP/L) |
有価証券の区分により、評価基準、評価差額の取扱い、減損処理の方法が異なるため、適切に区分することが必要となります。
一般の事業会社の保有する有価証券の大部分は、「その他有価証券」に区分されます。
売買目的有価証券は、いわゆるトレーディング目的の有価証券であり、満期保有目的の債券には厳しい要件が規定されているからです。それでは、詳しくみていきましょう。
1. 子会社・関連会社株式
読んで字のごとく、子会社または関連会社の株式が該当します。有価証券の区分のうち、子会社・関連会社株式だけは、厳密には「保有目的」による区分ではありません。支配力基準・影響力基準の判定基準にしたがって、子会社または関連会社と判定されるものが対象となります。
2. 売買目的有価証券
売買目的有価証券は、金融商品会計基準において「時価の変動により利益を得ることを目的として保有する」有価証券と規定されています。
この種の事業を営む企業の大部分は金融機関であり、一般的な事業会社は有価証券の売買差益を狙うような事業は手がけていません。
3. 満期保有目的の債券
満期保有目的の債券は、金融商品会計基準において「満期まで所有する意図をもって保有する」債券を指しています。
4. その他有価証券
その他有価証券はその名の通り、上記のいずれにも区分されない有価証券がすべて入ることになります。しかし、その名に似合わず、一般的な事業会社の場合は大半の有価証券が「その他有価証券」に区分されることになります。中には、長期的な時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券や、業務提携等の目的で保有する有価証券が含まれます。
特に株式については、トレーディング業務を行わない一般事業会社の場合、子会社・関連会社株式を除くすべての株式がその他有価証券となることを覚えておきましょう。
有価証券の減損処理
有価証券の減損処理とは、取得原価の切り下げとして処理し、その切り下げ額を当期の損失として損益計算書に計上するものです。
減損の要否を判定する必要がある有価証券は、売買目的有価証券を除くすべての有価証券です。
売買目的有価証券については、各期末の時価で資産に計上され、評価差額を損益に計上します。そのため、減損は自然に損益に計上されていることから、要否判定が不要なのです。
その他有価証券の場合、資産計上額は時価ですが、評価差額は原則として損益を経由せずに資本の部に直接計上されます。ただし、減損については損失に計上しなければなりません。
子会社・関連会社株式、満期保有目的の債券についても、減損の要否を判定する必要があります。
減損処理を行うかどうかの判定基準の詳細は後述しますが、時価のある有価証券については、「時価が著しく下落したこと」および「時価が回復する見込みがあると認められないこと」の両方を充たした時に減損処理を行います。時価のない有価証券については、実施価額が著しく低下したときに減損処理を行います。
減損の必要性判定
減損の必要性判定について、当局が定める指針を見ていきましょう。
1. 時価のある有価証券
- 時価が取得原価の50%以上下落した場合、合理的な反証がない限り、減損処理を行う。
- それ以外の場合には、著しい下落の判定を各企業の設定する合理的な判定基準で行うが、一般的には以下の通り。
(ア)下落率が30パーセント未満の場合には、「著しい下落」に該当しないものとする。
(イ)下落率が30パーセント以上50パーセント未満の場合には、各企業の設定する合理的な基準で「著しい下落」を判定し、その下落の合計額が保有会社にとって金額的に重要性を有するときには、回復可能性を判定する。 - 時価の回復可能性は、株式の場合、1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みがあることを、合理的な根拠をもって個別銘柄ごとに予測できる場合をいう。債権の場合、信用リスクに起因する下落は、回復する見込みがあるとは認められない。
2. 時価のない有価証券
株式の場合、会計基準に準拠した財務諸表を基礎に、原則として「資産等の時価を加味して算定した1株当たり純資産額に所有株式数を乗じた額」を実質価額とする。少なくとも、実質価額が取得価額に比べて50%程度以上低下した場合には、減損処理を行う。
債券の場合、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて減損額を算定し、会計処理を行う。
このように当局が指針を示してはいますが、あくまでもこれは指針であり、各企業はこれに基づき、自らの事業の性質や規模に応じて、減損判定の基準を定める必要があります。
企業ごとに設定される「合理的な基準」
上述の通り、時価の著しい下落を判定する「合理的な基準」は、その指針こそ当局が示しているものの、最終的には各企業が自社の事情や方針に沿って設定する必要があります。この「合理的な基準」は、決算期の都度判定の基準が揺れることによって不適切な会計報告・税務申告が行われるのを防ぐため、文書をもって設定しておくこと、当該基準を毎期継続的に適用することが求められているわけです。
また同様に、時価のない有価証券の著しい低下についても、各企業が減損を判定する「合理的な基準」を設けておくべきだと考えられています。
新たに有価証券を保有する事態となった企業等は、文書にした減損判定指針が準備できていないケースが多いと思いますので、必要に応じて速やかに指針を整備することが必要になります。
まとめ
今回は、有価証券の減損処理についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
会計ルールとして厳格な会計基準が設定されているわけではなく、最終的には自社で合理的な基準を設定しておく必要があることがお分かりいただけたかと思います。決算業務で慌てないようにするためにも、今回ご紹介した点をしっかりと押さえておくようにしてください。
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