【会計士監修】貸倒引当金はなぜ負債として処理するの?

【会計士監修】貸倒引当金はなぜ負債として処理するの?

貸倒引当金とは?

貸倒引当金とは、将来起きるかもしれない売掛金や貸付金などが回収不能になることに備えてあらかじめ計上されるものです。
この貸倒引当金には、一般引当と呼ばれるものと個別引当と呼ばれるものの2通りがあります。

一般引当

一般引当とは、特定の債権に対して貸倒が実際に発生している訳ではないが、これまでの実績から、これだけの債権があったらこれくらいは貸倒が発生することが見込まれるはずだからそれに対して手当をしておく、というものです。

たとえば、過去の実績で、期末に残っている債権のうち3%程度は貸倒が起こっていたとします。そうであれば、この決算で期末に残っている債権についても同じように貸倒が生じる可能性が高いと考えられます。その貸倒に備えて、あらかじめ貸倒引当金を計上して手当をしておくというものです。
債権残高に過去の貸倒実績率を乗じて貸倒引当金を計上します。

個別引当

個別引当とは、特定の債権に対して実際に貸倒の可能性が高いということが見込まれるため、回収が見込めない残高について貸倒引当金を計上する、というものです。

たとえば、A社に対して売掛金が残っているときに、A社は破産まではいっていないが、財政状態が大幅に悪化して、おそらく50%程度は回収できないだろう、と見込まれるときは、A社の債権残高に50%を乗じた金額を貸倒引当金として計上します。
貸倒引当金を計上するのは、上記のように貸倒の発生が合理的に見込まれるのであれば、それらを考慮して貸倒引当金を計上した決算がより会社の財政状態や経営成績を正確に示している、と考えられるためです。

とはいっても、どの程度の貸倒が生じるかを見積もるのは容易ではありません。そのため、「金融商品に関する会計基準」という会計基準などで、貸倒引当金の算定方法の指針などが示されています。

貸倒引当金を計上できる場合

貸倒損失と同様に、税務上、貸倒引当金を計上できるケースは限定されています。
まず、貸倒引当金の損金算入が認められるのは資本金の額等が1億円以下である中小企業等(大法人との間に完全支配関係があるものを除く)や銀行、保険会社等に限定されています。
また税務上、貸倒引当金の計上が認められる法人においても、どのような場合に貸倒引当金を計上することができるかについての要件が定められています。

また、貸倒引当金と特別損失の違いは下記記事で紹介していますので、併せてご覧ください。
参考:貸倒引当金とは?2つの計算方法と注意点を解説

個別引当が可能なケース

個別引当(個別評価金銭債権に対する引当)を行う場合は、次のような要件に該当する場合に限られています。

  1. 個別評価金銭債権が会社更生法の規定による更生計画認可の決定等の一定の事由が生じたことにより、その弁済を猶予され、または賦払いにより弁済されることとなった場合
  2. 債務超過の状態が相当期間継続し、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、その個別評価債権の一部につき取立て等の見込みがないと認められる場合
  3. 個別評価金銭債権に係る債務者につき、会社更生法の規定による更生手続開始の申立て等の一定の事由が生じている場合

一般引当(一括評価金銭債権に対する引当)を行う場合にも、貸倒引当金の繰入限度額の計算方法が法人税法や法人税法施行令で厳密に決められています。なお、中小法人が一括評価金銭債権に対する引当を行う際には、特例として、貸倒実績率によらず、対象となる債権残高に業種ごとに定められた繰入率(法定繰入率)を使って貸倒引当金を計算することも容認されています。たとえば、製造業の法定繰入率は8/1000ですので、対象債権に同率を乗じた金額が税務上損金算入が認められる貸倒引当金の額となります。

なぜ貸倒引当金は負債として処理するの?

貸倒引当金を計上したときの仕訳は次のようになります。

借方金額貸方金額
貸倒引当金繰入額xxxxx貸倒引当金xxxxx

ここで計上された貸倒引当金は、貸借対照表において負債(資産のマイナス)として計上されることとなります。なぜ貸倒引当金は負債として処理されるのでしょうか?
これはそもそも売掛金が資産に計上されており、その一部について回収が見込めないことからそれを手当することになるからです。
貸倒引当金繰入額が経費に計上されるとともに、貸倒引当金が負債(資産のマイナス)として計上されることとなります。

貸倒引当金を理解して健全な決算書を作成しよう

貸倒は起きないのが最も良いのですが、そうはいっても取引が増えてくると一定の割合で貸倒が起きる可能性があります。貸倒が起きる可能性について早期に損失に計上し、決算書に織り込んでおくことで、その決算書は健全であると考えられますし、より正確な会社や財政状態や経営成績を反映するものと考えられます。貸倒引当金について理解し、適切に決算書に反映することが望まれます。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 松本 佳之

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税理士・公認会計士・行政書士 1980年兵庫県に生まれる。2001年公認会計士二次試験合格。2002年関西学院大学商学部卒業、朝日監査法人(現あずさ監査法人)試験合格、公認会計士登録。2007年税理士登録後独立し、北浜総合会計事務所を開設。監査法人勤務時代は企業公開部門に所属し、さまざまな実績を重ねる。

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