粉飾は、見破られる! 融資担当者はここを見ている -前期損益調整、押し込み販売編-

粉飾は、見破られる! 融資担当者はここを見ている -前期損益調整、押し込み販売編-

前回は、在庫や売上を使った粉飾決算が見破られる方法について、解説しましたが、今回は別の手口を使った場合の方法についても考えてみましょう。
融資担当者と同じ目線で決算書を見るという視点が求められます。

前期損益修正をつかって期ズレを利用

損益益計算書の特別損失に「前期損益修正損」が計上されている場合は、注意深く決算書を見られると思ってください。
「前期損益修正損」が計上されているということは、まずその分の損は本来前期の利益からマイナスすべきであったということになりますので、その分だけ今期の実質的な利益はプラスになります。

前期比較をする際はその分を加味しなければ本来の企業の実態を反映しません。逆に特別利益に「前期損益修正益」が計上されている場合は、その分の利益は前期の対応分なので、今期の実質的な利益はその分だけマイナスして考える必要があります。前期損益修正損益を計上しているケースは、前期の事象を誠実に決算書に反映しているケースですので、前期分に対応する影響額を考慮すれば、それぞれの事業年度の正しい経営成績はわかります。

そうではなく、敢えて期ズレをさせて利益操作をしている場合もあります。たとえば、中古不動産の販売をしている会社では、リフォームをした上で販売することもありますが、リフォーム代を翌期の原価にまわして粉飾しているケースがあります。
販売した不動産自体の取得価額を原価に振り替えないというのでは、粉飾していることが明らかになりやすいので、目立たないように販売をまだしていない不動産のリフォーム代やその他の諸経費として計上するといった調整をはかるのです。

ただし、そのような処理をした場合は貸借対照表の棚卸資産の残高にしわ寄せがされます。そのため、融資担当者としては、決算書の在庫の金額の内訳を不動産の物件ごとに確認して、関係のない費用等が未販売の残高に残っていないかを確認することで処理の妥当性を検証します。

期ズレを使った未払経費の翌期とばし

期ズレを使ったパターンとして他によくあるのは、発生主義に従って未払経費を計上しない方法です。
経常的な費用を対象に未払計上をしないといった調整をすることもありますが、退職金のように影響額が比較的多額な費用を本来計上すべきである退職時に未払計上せず、敢えて支給時期を遅らせて支給時に費用計上しているような場合もあります。
このような期ズレを使った未払費用の粉飾を疑う融資担当者は未払費用の内訳書を見て計上の妥当性を確認することとなります。
本来あるべき金額が未払費用の内訳として計上されているのかを見るのです。

表示方法の変更でも粉飾はされている

期ズレでの粉飾をしないまでも、表示方法を変更して、見栄えを良くしていることもあります。たとえば、先ほどの不動産販売業者の場合ですと、固定資産である不動産を販売した場合は、売買損益は特別損益項目に計上しなければなりませんが、売上を多く見せたいがために、販売収益を売上高に、原価を売上原価に計上しているようなケースもあります。
このような表示方法を利用した粉飾にも融資担当者は目をつけていますので、安易に表示を変えて見栄えを良くしようとするのは避けましょう。

関連会社への押し込み販売で利益の付け替えがされている

グループ会社が多い場合、粉飾が行われていないかという観点から、子会社への「押し込み販売」が着目されます。
押し込み販売とは、決算間際に関連会社に商品を販売して売上実績を多めに見せる手法です。ひどいケースですとその後返品をかけて、まさに一時的に売上をアップさせています。
実態のない取引で収益をかさ上げしているので問題のある処理ですが、融資担当者も決算書を一見すると見破ることはできません。

そこで、決算書の内訳明細書で売掛金などの債権の科目にグループ会社向けのものが多額に残っているようであれば、その中身を確認することにします。
また、毎期同様の取引がある会社の場合は、前期以前と比較して残高の増減に異常値があるどうかのチェックもするでしょう。

いずれにしても、何時のどのような取引なのかという点を確認すると思いますので、経済合理的な取引かどうか説明できるようにしておきましょう。
最近は、グループ会社を使った押し込み販売では調整にも限界があるとして、第三者も含めた「循環取引」によって売上のかさ上げを図っているケースもあります。循環取引とは、複数の企業通しで決算時期の違い等を利用して、通謀の上、転売や業務委託などの発注を相互に行って、架空の売上をつくりあげる取引で、新興系の上場企業などでも実施していたケースがあります。

取引している相手先が第三者のため、先ほどのグループ会社を使ったケースよりもさらに見分けがつけにくいですが、今まで取引実績のない企業や取引規模に比して不釣り合いな規模の企業との取引が頻繁に行われているようであれば疑いをもって決算書を見られると思った方がいいと思います。

連結ベースで決算書をつくる

融資担当者を安心させるという観点では、月次決算を連結ベースで作って提出することが有益だと思います。
グループ会社間で取引や残高を把握するルールを作れば、連結ベースで月次決算を組むのはそれほど難しくありません。連結決算を行えば、グループ内での取引は内部取引として相殺されますので、売上はあくまでも外部に売却した実態を表します。
経営者の立場から考えても、売上高利益率などの係数を分析するにあたって、連結ベースで考えることで正しい判断ができますので、是非連結ベースで月次決算を組むことを検討してみてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 中尾 篤史

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CSアカウンティング株式会社専務取締役  公認会計士・税理士 日本公認会計士協会 租税調査会 租税政策検討専門部会・専門委員 会計・人事のアウトソーシング・コンサルティングに特化したCS アカウンティング㈱の専務取締役として、中小企業から上場企業及びその子会社向けに会計・税務のサービスをひろく提供している。 著書に「BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる」(税務経理協会)「たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる」(宝島社新書)「経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集 」(日本能率協会マネジメントセンター)など多数

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