IPOのメリット・デメリットとは?経理が押さえておきたい基本を解説

IPOのメリット・デメリットとは?経理が押さえておきたい基本を解説

東京証券取引所の発表によると、IPOをする企業の数は、2009年:10件、2010年:12件、2011年:20件、2012年:30件、2013年:57件、2014年:78件、2015年:95件、2016年:84件、2017年:93件、2018年:97件と、ここ10年で大幅に増加しました。

メディアでもよく見聞きする「IPO」ですが、なぜ多くの会社がIPOを目指すのでしょうか。今回は、会社の成長に貢献したいと思う経理担当者ならば最低限は知っておきたいIPOの基礎をお伝えします。

IPO(新規株式公開)とは何か ―会社をオーナー経営から一般投資家のものへ―

IPO(新規株式公開)とは、企業が初めて公募により資本調達を行う、Initial Public Offeringの頭文字を取ったものです。会社が個人のもの (Private) から、公のもの (Public) になるという意味合いを持っています。
具体的には、一族経営や少数の限られたメンバーで会社を所有し、株式の譲渡をその所有者の承認がないとできない形で制限していた会社が、不特定多数の一般投資家に開放し、株式市場で自由に売買できるようにすることをいいます。

では、多くの会社がIPOを目指すのはなぜでしょうか?IPOにどのような効果が期待されているのでしょうか。
IPOの効果を、メリットとデメリットに分けてお伝えします。

IPOの5つのメリット

メリットその1:資金調達が一般投資家からできるようになる

企業ごとの事業内容によって資金調達を必要とする度合いに程度の差はありますが、一般的には資金が不足する傾向にあります。IPOは株式市場を通して多くの投資家から資金を調達することができるため、そこで調達した資金により投資を行うことで、事業展開をさらに加速することが出来ます。

メリットその2:信用力の向上

創業間もないベンチャー企業などでは成長性や収益性があるにも関わらず、業歴の浅さから信用力が相対的に低くなりがちです。しかし、IPOすることで信用力が高まり銀行を初めとした間接金融が受けやすくなります。
また、会社自体が株主のものになるため、借入に対する社長の個人保証が外れるなどの創業者メリットもあります。

メリットその3:知名度の向上

上場会社となることで常に株式売買が行われるため、紙面やニュースで取り上げられる機会が増えます。すると、製品やサービス、会社自身の知名度が必然的に高まります。目にする機会が増えることで、消費者からの安心感と信頼度が増しさらなる顧客開拓が可能になります。

メリットその4:人事面の改善

知名度が上がることで、事業が拡大している会社が必ず抱えるヒトの問題にもプラスの効果が出ます。たとえば、就職先として上場会社を希望する求職者は根強く、優秀な人材をより確保しやすくなります。また、内部的にも将来性のある会社として従業員の士気が高まるなどのメリットがあります。

メリットその5:内部統制の強化

IPOをするためには、会社を「公のもの」するために内部統制の構築が必ず必要になります。内部管理体制の充実により組織が強化されます。また、自己資本の増加により財務体質が改善することなども、IPOを実施することのメリットです。

IPOの4つのデメリット

デメリット1:コストの増加

IPO時には多額の費用が掛かり、公開後についても様々な費用が発生します。
IPO時の費用は少なく見積もって5,000万円とも言われ、その後は数千万単位の監査報酬や数百万単位の証券取引所手数料といったコストが毎年継続的に発生します。また、IPOのための管理責任者の配置や社内業務の拡大による人件費の増加、頻繁に株主が異動することによる株式事務費用の増大など、間接的なコストも多く発生します。

デメリットその2:買収リスクにさらされる

証券市場で自由に株式が売買されることにより、投機的取引の対象となることや、買占めによる買収リスクにもさらされることとなります。

デメリットその3:情報開示の必要性

「会社は株主のもの」であるため、株主への情報開示は必須となります。
四半期ごとの決算発表や有価証券報告書等の提出といった企業内容の定期的な情報開示、突発的な事態に対する適時開示等、事業運営には常に透明性が求められます。そのため、経営者は短期的な結果を求められることが多くなり、長期的な視点に立った投資や新規事業開発といった積極的な運営がし辛くなることがあります。

デメリットその4:訴訟リスクがある

株主が多くなれば多くなるほど、会社が株主の利益を損なう行為をした場合、株主代表訴訟を提起され訴訟となる可能性が高くなります。株主代表訴訟は経営者個人としての責任を追及されるため、多額の賠償金を支払う結果となる可能性もあります。

まとめ

「上場する」ということは、会社が創業者のものではなくなるということ、すなわち「社会の公器」となるということではありますが、将来性と成長力のある会社にとって、IPOにより市場から多くの資金を集めることはその後の事業展開の限界を無限へと広げてくれます。

資金調達やIPOといった言葉が紙面を賑わすことも多くなったいま、IPOの基礎知識を身に付けIPOした企業にどんな狙いがあったのか、自社にもIPOも活用できないかなど、さらなる事業展開のためのアンテナを張っておいてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 服部 峻介

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北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査、内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査等を実施。経営コンサルティング会社役員を経て、Seven Rich会計事務所を開業。スタートアップ企業を中心に、3年で160社以上の新規クライアントに対して会社の設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を行っている。

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