支店がある企業必見! 本支店会計から学ぶ仕訳方法の肝

支店がある企業必見! 本支店会計から学ぶ仕訳方法の肝

本支店会計とは

本支店会計とは、支店を開設する企業で使用する会計の方法です。これには、本店集中会計制度と支店独立会計制度の2つがあります。

本店集中会計制度と支店独立会計制度とは

本店集中会計制度は、本店が、本支店すべての経理を行う集中運用の会計方法です。支店はすべての会計処理を本店に報告し、本店が本店の分と支店の分を合わせて経理を行います。支店は、受け取った請求書などの証憑書類をすべて本店に送付。記帳を行わないため、支店に帳簿はありません。
一方、支店独立会計制度は、本店と支店が独立して会計処理を行う方法です。

本店集中会計制度の仕訳方法

【例】支店が取引先Aから商品1万円を掛けで仕入れた
<本店>

借方科目 金額貸方科目金額
仕入10,000 買掛金10,000

<支店>
仕訳なし

支店独立会計制度の仕訳方法

【例】支店が取引先Bから商品1万円を掛けで仕入れた
<本店>
仕訳なし

<支店>

借方科目 金額貸方科目金額
仕入10,000 買掛金10,000

本店集中会計制度と支店独立会計制度のメリット・デメリット

本店集中会計制度

<メリット>

  • 集中運用によって経理を簡潔に行える

<デメリット>

  • 本支店それぞれの業績を把握できない

支店独立会計制度

<メリット>

  • 本支店それぞれの業績を把握できるため、経営分析に役立てられる

<デメリット>

  • 本店に業務負担が集中する
  • 連絡ミスによる未達が生じやすい
  • 決算や財務諸表の作成において内部取引の調整を行わなければならず、経理が難化する
交通費・経費精算システム「楽楽精算」 経理プラス メールマガジン登録

本支店間取引の仕訳

本支店間会計の仕訳のポイントは、支店独立会計制度で行う店舗間の内部の取引にあります。これは、たとえば本店と支店、支店と支店の間で資金を移動させる、商品を移動させるといった場合です。まずは、本店と支店の間で行う取引の仕訳を見ていきましょう。

仕訳例

【例】本店から支店へ現金500円を送金した
<本店>

借方科目 金額貸方科目金額
仕入10,000 買掛金10,000

<支店>

借方科目 金額貸方科目金額
支店500 現金500

「本店」と「支店」という内部取引専用の勘定科目を使用します。

【例】本店は支店の電気代200円を立替払いした
<本店>

借方科目 金額貸方科目金額
現金500 本店500

<支店>

借方科目 金額貸方科目金額
支店200 現金200

さて、本支店会計の中でも特に難しいのが次の仕訳になります。

【例】本店から支店に、原価500円の商品を送付した。内部利益を10%(50円)加算した。
<本店>

借方科目 金額貸方科目金額
水道光熱費200 本店200

<支店>

借方科目 金額貸方科目金額
支店550 支店向売上550

本店から支店に、在庫商品を送付した時の仕訳です。ここでのポイントは、「内部利益」の加算にあります。

会社の規定にもよるところですが、本支店会計では各店舗の業績をより正確に評価するため、内部取引に利益を加算することがあります。たとえば支店が、その後この商品を700円で外部に販売した場合で考えてみましょう。もし加算を行っていなければ、支店の利益は200円(700円-500円)で本店は0円です。
しかし仕入を行ったのは本店ですから、売上700円は本店の貢献もあって生み出された利益といえます。このことから、仕入を行った本店に、内部利益を加算するのです。

上記の例では、内部利益50円を本店に加算することによって、支店の利益が150円(700円-550円)で本店の利益が50円(550円-500円)となります。つまり本店に、支店が行った外部取引による利益の一部が分配されたというわけです。後述する決算では、この「内部利益」がとても重要になります。

支店間の取引の方法

支店がいくつかある場合、支店間で取引をすることもあるでしょう。その際には、本店集中「計算」制度と支店分散「計算」制度という2つの方法があります。名称が紛らわしいのですが、どちらも支店分散「会計」制度を選択した企業の経理で行うものです。

本店集中計算制度

本店集中計算制度では、支店間の取引を全て本店を間に入れて取引きしたものとして会計処理を行います。

【例】A支店からB支店へ現金500円を送金した
<本店>

借方科目 金額貸方科目金額
本店より仕入550 本店550

<A支店>

借方科目 金額貸方科目金額
B支店500 A支店500

<B支店>

借方科目 金額貸方科目金額
本店500 現金500

支店分散計算制度

支店分散計算制度では、支店間の取引きを次のように処理します。

<本店>
仕訳なし

<A支店>

借方科目 金額貸方科目金額
現金500 本店500

<B支店>

借方科目 金額貸方科目金額
B支店500 現金500

本支店間の取引と同じ考え方で構いません。

本支店会計の決算の方法

本店集中会計制度の決算は、本支店会計を使用していない会社と同じです。これに対して支店独立会計制度では、本店・各支店それぞれで決算を行い、支店で算出した損益を本店の損益と合算させます。

決算の過程において、本支店会計ならではのポイントが2つあります。それが、「未達取引の処理」と「内部利益の控除」です。

未達取引の処理

未達取引とは、本支店間取引を行ったにも関わらず、一方しか記帳をしていない取引のこと。決算整理前残高試算表の支店と本店の残高が一致していない場合は、未達取引がある可能性があるでしょう。未達取引は、仕訳を行っていない店舗に必要な仕訳を加えることで解決します。

内部利益の控除

本店・各支店それぞれの売上原価の算定は、外部からの仕入と内部からの仕入(「本店より仕入れ」など)を合算して行い、それによって算定した損益が決算によって合算されます。つまり、本支店会計の在庫商品の期末残高には、内部利益が含まれているということです。

ところが、在庫商品の期末残高に含まれる利益は、実際にはまだ販売されていない未実現の利益です。そのため、当期の利益に含めることはできません。したがって、期末商品に含まれる内部利益を合算後の損益から控除する必要があります。控除する内部利益は、「繰延内部利益」という資産科目を使用して、翌期に持ち越す仕訳を行います。

合併財務諸表の作成

支店独立会計制度では本支店の財務諸表を合わせ、内部取引を除去した「合併財務諸表」を作成します。なお、外部に示す財務諸表に、内部取引(「本店より仕入」や「本店」「支店」など)の残高は無意味です。そのため、これらを除去し、売上や仕入の残高を外部取引にかかるものに調整する必要があります。

まとめ

本支店会計の支店独立会計制度は各店舗の業績把握に役立つ一方で、通常とは異なる経理処理がたくさんあります。未達取引については、定期的に本支店の残高を合わせておくことで未然に防ぐことができるでしょう。決算業務の負担を軽減するためにも、期中の試算表をこまめに確認するようにしてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 石田 夏

アバター画像

理士事務所、上場企業の経理職を経てフリーライターに転身。 簿記やファイナンシャルプランナー資格を活かして、税務・会計に関する企業向けコンテンツを中心に執筆中。 ポリシーは、「知りたいをわかりやすく」。