原価計算で押さえておくべき視点と原価管理の重要性

原価計算で押さえておくべき視点と原価管理の重要性

前回の記事では原価計算の基礎について説明しました。今回記事では、原価計算で押さえておくべき視点と原価管理の重要性について説明します。

原価計算の具体的な方法を理解する上で、まず押さえておくべき考え方があります。

一つは「原価に対して管理・責任を負うのは誰か」、
もう一つは「管理責任者に対してわかりやすい原価情報を提供できるか」です。

この2つの考え方を常に意識した上で、原価計算を理解していくようにしましょう。

経理プラス:原価計算とは?目的・種類・計算方法・仕訳例など基本知識を解説!

原価に対して管理・責任を負うのは誰か

個人事業主であれば、事業主がすべての管理と責任を負って物事の判断を行います。また人数が少ない会社であれば、社長が一人で様々な管理をすることができます。

しかし、会社の規模が大きくなると、社長がすべてを管理することは難しくなります。そのため、組織を効率的に回すために、業務に応じた部門を設けた組織体制をとります。部門にそれぞれ責任者を置き、社長が持っていた管理責任と決裁権限を委譲することで、業務スピードを早めることが可能になります。

私の会社では見積決裁基準を、継続契約については、月額〇〇万円以下は部門長決裁、月額〇〇万円以下は部門部長決裁。単発案件については、見積金額が〇〇万円以下は部門長決裁、月額〇〇万円以下は部門部長決裁、営業利益が赤字になる場合は取締役決裁や社長決裁と規定しています。

これらについては、体制表と権限規定にて定めている会社がほとんどでしょう。つまり「原価に対して管理・責任を負うのは誰か」については、体制表と権限規定に基づいて把握することができます。

管理責任者に対してわかりやすい原価情報を提供できるか

原価計算基準には原価を「管理可能費」「管理不能費」に区分するという考え方があります。この区分は「給料」や「旅費交通費」といった勘定科目で区分するのではなく、どの「部門」で使われた費用なのか、どの「製品」や「案件」で使用された費用なのかという情報に基づいて区分します。

階層で見ると「部門」の下に「製品」や「案件」ぶら下がっている形になります。部門全体の管理責任を負うのは部門長になります。

では「製品」や「案件」の原価に対して責任を負うのは誰でしょうか。私の会社の場合、「案件」の担当者が責任を持つことになっています。「製造製品」については、製品により製造方法が異なるため、管理責任はさまざまです。製品ごとに責任を持たせる場合もあるでしょうし、工程単位で持つ場合もあるでしょう。

なぜ責任を明確にすることが重要かというと、真剣に考えるからです。問題が生じた場合や、非効率性が生じている場合、その問題に対して真剣に考える人が必要です。責任の所在が曖昧だと誰もそんなめんどうな事には関わりたくないので、問題は認識しているけども解決しないという状態に陥ります。

問題提起や意見をいう人はいるかもしれませんが、じゃあその人が実際に問題解決をするかというと、そうでない場合が多々あります。さらにそれが当たり前の状態になっていくと、それらを維持するのに無駄なコストがかかったりします。

そうならないためにも責任者をはっきりさせておく必要があるわけです。

問題を解決するために何が原因なのかを認識する必要があります。原因の探るためには、損益計算書を「掘り下げる」「別の角度から見る」「比較する」などで分析する必要があります。原価計算で「部門」や「製品」などで区分するのはこれらの分析を行うためであり、「管理責任者に対してわかりやすい原価情報を提供する」ための資料を作成するためなのです。

原価計算の5つの目的と関係性

前回の記事で原価計算の5つの目的を紹介しました。

  1. 財務諸表作成目的
  2. 販売価格計算目的
  3. 原価管理目的
  4. 予算管理目的
  5. 経営基本計画作成目的

上記で説明してきたものは、原価管理の視点からでした。しかし、それぞれの目的は個々に存在しているわけではなく、目的に応じて使い分けをするものですので、原価管理がきちんとなされていれば、他の目的に使うことができます。

予算管理目的で考えてみましょう。
予算管理にはまず予算作成をどうするかを考えなければなりません。予算のベースとなるのは過年度の実績です。

「部門別」「製品別」「案件別」の過年度の収支管理実績ができていれば、この製品は売上をもっと見込めるだろう、この案件について来期は見込みないから別の案件を育てる必要があるだろうとか、それらを積み上げていきベースの数字を作ります。ただ積み上げた数字だけでは経営層が求めている数字に達しない場合があります。実績をベースにしながらも、企業を成長させていくためには、今まで通りにやっていけば達成できる数字を目標とするのではなく、努力が必要となる数字も必要となります。

しかし、その努力数字が現実的な数字でなければ、現場も努力をしようと気持ちが薄れます。経営側は過年度実績をもとに、来期はこれだけやってほしいと数字で説得をしなければなりませんし、現場も数字をもとに説明しなければなりません。双方が同じ数字をベースに話をしないと、実際の予算実績管理をするなかで予算が甘いとか予算が厳しいという意見が出ます。

さらに過去実績をもとに予算作成をするだけでは成長を見込めない場合には、新規の製品や案件を生み出さないといけない場合もあります。
どのような投資計画で成長させていくのか。初年度は赤字で以降黒字を目指すという方針を出す場合もあるでしょう。その場合、どれくらいまでの赤字を許容できるのかを設定するのも、原価計算での数字をベースに検討します。

まとめ

原価計算は数字を分類や区分することが肝です。数字にさまざまな情報を持たせてやることで、多角的な視点での集計表を作成することができます。それにより色々な目的に見合った数字を作成することに役立ちます。

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この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 小栗 勇人

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1980年生まれ。上場企業と上場企業子会社で経理を10年経験。ExcelやAccessの活用、クラウドサービスの導入、社内基幹システムの構築など、経理業務だけでなく、会社全体を効率化させることを日々実践中。運営ブログ「経理と事務の効率化」をきっかけにExcelの本『経理の仕事がサクサク進むExcel超活用術』を出版。

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