原価計算の基本 計算方法と分析は事業経営の基礎にして奥義

「日本企業の競争力が低下している」という言説は、ここ十年ほどで嫌というほど聞く機会が増えました。その理由のひとつとして日本企業は「生産性が低いこと」が挙げられます。生産性が低い、つまり原価が高いということです。今回は経営方針全体を左右する原価計算と管理について、俯瞰的に学んでいきます。

 

原価計算とは何か

そもそも「原価」とはなんでしょうか?
費用は、大きく次のように分けることができます。

  • 原価(売上原価)
  • 売上と直接的な関係が認められる費用です。小売業における商品仕入、製造業における材料費や加工費、現場での労務費などが該当します。売上が増加すれば原価も増加する、という比例的な関係にあることが一般的です。

  • 販売費及び一般管理費
  • 企業の販売促進や事務管理などに関する費用です。事務所の家賃や総務、事務に関する人件費や消耗品、広告宣伝費などが該当します。売上の計上額とは比例しないものも多いです。

  • そのほかの費用
  • 借入金に対する利息、本業以外での損失(投資活動や災害による滅失など)、法人税などの支払いが該当します。

原価計算とは、これらの費用のうち原価部分がどれくらいあるのか? ということを調べるための手法です。

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なぜ原価計算が必要なのか

原価計算の重要性を知るためには、まず粗利益(売上総利益)について確認をする必要があります。

損益計算書(P/L)は、次のような形式で作られています。

売上高         10,000
売上原価         6,500
――――――――――――――――――
粗利益          3,500 

販売費及び一般管理費   2,500
――――――――――――――――――
営業利益         1,000
営業外収益         50
営業外費用        100
――――――――――――――――――
経常利益         950
※以下省略

まず事業において重要なのは「粗利益の確保」です。売上に対して粗利益が高い企業は、それだけ付加価値の高い商品・サービスを市場に提供していることを意味します。その状態であれば、積極的に新規展開を目指したり、新商品の開発に乗り出したりすることも可能です。
一方、粗利益が低い、つまり原価率が高い企業は、それだけ付加価値の低い商品・サービスを販売しているわけですから、選択肢が狭まります。いわゆる「薄利多売」と呼ばれる状態に該当します。
実際の事業経営では、薄利多売を実現するためには相当に大きな事業規模が必要です。中小企業においては「しっかりと粗利益を取れる仕事をすること」が非常に大切なのです。

この重要な粗利益を確保できるようになるためにできることは、2つだけです。

  • 売上を増やす
  • 売上は「単価 × 販売数」で決まります。
    現在の販売単価は適切なのか?より顧客が増やせないか?この両面から検討をする必要があります。

  • 原価を減らす
  • 使用する材料や製造工程の見直し、新規設備の導入など、さまざまな手段を通じて原価を下げる努力が必要です。

原価計算は、当然ながら「原価を減らす」ことを主目的として行われます。まず基礎として「原価管理を担当する者の判断を支援する」という機能があります。

ごく小規模な事業者であれば、材料の仕入れや外注先との単価交渉について決済をするのは社長その人です。またある程度の規模になった企業であれば、各部門について担当者がいることも珍しくありません。

原価計算の重要な役割は、「現在、どのような原価が、どれくらいかかっているのか」こういった情報を適宜担当者と共有し、適切に原価管理を実施するための判断基準を提示することです。気がついたら仕入単価が上がっていないか、外注加工について特定の取引先とのやり取りが不自然に増減していないか、その人が決定権をもつ事項について、効率的に判断を下せるような支援をすることが原価計算の重要な役割です。

原価計算は、上記のような担当者レベルでの話から、全社的なレベルまで話を引き上げることもできます。例えば、策定した予算と実際の原価が乖離していないか、将来の生産計画を策定するにあたり、現在の原価情報はしっかりと把握できているかなどです。企業の規模や事業分野の多角化状況により、原価計算はその範囲、製品別、部門別など、柔軟に設定をすることが必要です。

また、原価計算は「売上向上」の面でも重要な意味をもちます。先ほども確認したとおり、売上は「単価 × 販売数」で決まります。売上を伸ばすというとき、どうしても販売数の方に注目が集まりがちです。しかし、特に中小企業においては単価設定こそ重要である、と言われています。
その販売単価を決めるにあたり、原価の情報はとても大切です。「この商品をいくらで売るのか?」を考える際に「その商品原価はいくらなのか?」という情報は非常に有用だからです。
マーケティングの世界では、こういった“プロダクトアウト”の発想法をいさめる動きも多いです(売価は“マーケットイン”で決まるべきだ、という考え方)。しかし、莫大なマーケティング予算を投じることができる大企業ならともかく、中小企業が販売単価を決めるにあたり、原価を無視することはあまり現実的ではありません。

そして、正確な原価計算は、正確な財務諸表作成にも欠かせません。金融機関や投資家、課税庁といった外部の利害関係者は、企業が作成する財務諸表が正しく作られているという前提でさまざまな判断を下します。仮に原価計算が誤っている場合、内部ばかりでなく、外部の利害関係者からも厳しい指摘を受けることになりかねません。

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原価計算の方法と管理手法

実際の原価計算方法について、簡単に確認していきましょう。

原価にはいくつかの種類があり、それらを比較することで原価管理を進めていきます。

  • 実際原価と標準原価
  • 実際原価とは「実際の事業活動を通じて計測された原価」です。原材料の期中仕入や在庫の確認、外注加工の変動、運搬費など、さまざまな原価を積み上げて計算されます。
    一方、標準原価とは「これまでの実績なども踏まえ想定される標準的な原価」です。
    両者が大きく乖離している場合、原価の構造に何かしらの変動が生じていることを意味します。原価が高止まりしている場合には、その原因について追求し、打開策を実施する必要があります。

  • 製品原価と期間原価
  • 製品や商品の売上との関連性が強い製品原価と、期間損益計算の仕組み上、各会計期間に配分される原価を分類します。期間原価については「どのような年数に渡って効果が期待できるのか」といった、長期的な視座が必要となります。

  • 全部原価と部分原価
  • 原価について全体で把握する手法と、部分的に絞って集計する手法です。複数の商品を販売していたり、多角的な経営をしていたりする場合には全体性と部分性の両面から事業分析をする必要があります。

これらの原価分析を進めるにあたり、原価を以下の3つに分類します。

  • 材料費
  • 商品や製品を作り出すための材料費です。製造業はもちろん、建設業や飲食業など、業種に応じた原材料があります。

  • 労務費
  • 製造現場などでかかる人件費や福利厚生費が該当します。正社員、パート・アルバイトなど、雇用の形態は問いません。「現場における賃金」と「販売管理部門の給与」などを区分することが重要です。また近年では社会保険料の負担比率も上がっており、労務費の一大構成要素となっています。

  • 経費
  • 材料費と労務費以外の費用です。外注加工費、運搬費、現場での水道光熱費、減価償却費などさまざまな費用が該当します。

実際の分析は、例えば次のように行われます。

例:同業他社との比較において、原価率が高止まりしている。原価の内容を確認したところ、経費内の外注費が高いことがわかる。一方で労務費の比率は低い。原価率の改善を目指すため、直接雇用を増やすことで、外注費の比率を下げることを検討すべきだ。
ただし、昨今では新規雇用者の確保は困難であり、また雇用を増加させることは「継続的な人件費の負担」というリスクも抱えることとなる。
「原価率の高止まり」と「雇用をすることのリスク」がトレード・オフの関係となっており、どちらを選択するか入念な検討を要する。

各原価担当者がこういった分析を積み重ね、企業としての経営方針を練り上げていくことが原価計算の重要な役割です。

また特に決算書や税務申告書の作成において重要な棚卸資産や未成工事支出金の確定においても、原価計算は重要な意味をもちます。

例:期末近くに受注した建設現場について、原材料や労務費は先行して計上されていたが、売上については期末時点で未計上である。

この事例の場合、先行して支出していた原材料費や労務費は「まだ収益計上に結びついていない費用」ということで、棚卸資産(建設業会計の場合には未成工事支出金)として当期の費用から除外し、資産として計上しなければなりません。

※当期原価 = 機首棚卸高 + 期中発生原価 - 期末棚卸高

前期末に計上された在庫相当分を当期の原価に含め、期末時点で保有していた在庫相当分は翌期以降の原価へ先送りします。
この期間配分を適切に処理しないと、課税庁からは確実に指摘をされてしまいます。悪質と判断された場合には重加算税(罰則的な税金)を課されることもあります。また金融機関なども棚卸しの評価については必ずチェックをしています。

こういった個別案件ごとの原価管理は、適切な税務申告や決算書作成でも重要な意味をもちます。

経理プラス:知っておくべき原価の種類と原価計算の方法

 

製造業以外にも採用事例は増えている

原価計算の仕組みは、どちらかというと製造業を中心に採用されています。しかし、近年では製造業以外にも、サービス業やコンテンツ制作業など、さまざまな分野で原価計算に取り組む事例が出ています。

例えばソフトウェア製作であれば「仕様確定やソースコードの作成を製品の製造原価と考える」「デザインなど外部に発注をかけている部分は製造経費と考える」といった方法を採用することで、原価計算の手法を取り入れることができます。このように、原価管理の考え方は、会計ソフトの発展に伴い、その適用範囲を広げていると言われています。

ひとつの企業でいくつかの事業を展開している場合、その事業種類によってどのような原価科目を採用するのか、選択をする必要があります。こういった原価の部門別管理は、個別分野ごとの採算性を把握するためにとても重要です。

また原価のなかには「部門を横断して負担されるようなもの」「自部門では直接発生せず、他部門で発生したものが賦課されるもの」など、原価分析をする担当者が自分で管理できないものなども存在します。そのような配分が難しい原価についてどのように割り当てるかは、より経営者側に近いところで決定をする必要があります。

経理プラス:原価計算基準を応用した原価管理の運用例

 

人事や総務、経理などの部門も分析してみる

なかには、売上との直接的関係が薄い事務管理部門について、原価計算を試みた事例も存在します。

経理プラス:製造業のためのコスト削減のポイント ―「経理コスト」を「原価計算」してみた―

上記リンク先の事例などは、経理部門について原価計算を試み、経理にかかる労務費をどのように削減するか、という観点から改善策を提示しています。

この「事務部門の改善」は、多くの中小企業において課題となっています。請求、給与計算、税務処理など、以前には紙と手計算で行われていた分野の作業について、昨今ではクラウドをはじめとした便利なサービスが多く普及しています。そういったサービスを導入することにより増加する経費と、それにより削減される労務費を比較することは、原価計算の手法に通じるものがあります。
グローバルな時代にあって、多くの企業に求められる生産性の向上。実はそのためにできることは意外と身近なところにあります。原価計算の手法は、そういった身近な改善点をあぶり出すために有用です。ぜひ御社事業にも原価計算の考え方を導入し、隠れている無駄について見つけ出してください。

 

まとめ

原価とは“売上を獲得するための費用”であり、原価計算を通じて原価を正確に把握することは、原価管理者の意思決定、売価の確定、経営方針の検討など、事業におけるさまざまな場面で有用な情報を提供することにつながります。
また、正確な原価計算は、正確な決算書や税務申告にも必要不可欠です。近年ではクラウドツールの普及発展もあり、製造業以外にもさまざまな事業分野で原価計算の考え方を取り入れることが可能となってきました。
特に、多くの企業で多大な時間を浪費する事務部門の効率化などにおいては、原価計算の考え方を導入することにより、大きな成果を期待することができるでしょう。

 

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● 著者

高橋 昌也

高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。