役員報酬(定期同額給与)を変更する際に知っておきたい 注意点
役員報酬が定期同額でないといけない理由
役員報酬とは、会社の社長や役員に支払われる報酬です。役員報酬は、各支給月の支給額が同額でなくてはいけません。役員報酬については、会社法361条1項に、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」と規定されています。
具体的には、
- 報酬等のうち額が確定しているものはその額、
- 報酬等のうち額が確定していないものについては具体的な算定方
- 報酬等のうち金銭でないものについては具体的な内容
以上を株主総会で「取締役の報酬等」の決議を行っていることが必要とされています。
定期同額給与について、法事税通達9-2-12では、「月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう」と規定されています。
これらのことから、定款または株主総会で取締役の報酬等が議決され、その範囲で支払われる役員報酬は毎月同額の支給が必要となります。同額でない役員報酬は、法人税法上損金として認められず、課税されることになります。
ですから、職責が同じなまま第二四半期以降に役員報酬額を増額した場合、定期同額給与とは認められず、法人税申告書の計算には、経費として損金算入できなくなる可能性があります。私自身も上場会社二社で取締役の経験がありますが、在任期間中は毎月同額の定期同額給与にあたる役員報酬を得ておりました。
経理が注意するべき点
定時株主総会は、通常決算期末から3か月以内に開かれます。そこで、取締役報酬、監査役報酬は、定款または株主総会で、それぞれの報酬の枠を決定し、その範囲内で支給をすることになります(会361、会387)。定款上に役員報酬を規定することは、変更の度に定款変更になるのであまり行われず、株主総会で決議するのが一般的です。したがって、取締役報酬、監査役報酬の枠を超える支給が見込まれる場合には、株主総会で新たな上限額の決議が必要となります。
以前の株主総会で、報酬総額は年2000万円以内、監査役全員の報酬総額は年1000万円以内と決議されていたものを、今期から取締役全員の報酬総額は年5000万円以内、監査役全員の報酬総額は年2000万円以内とする場合は、株主総会でそれぞれ上限額となる枠を決議しなおします。そして、各人別の取締役報酬は、取締役会で、監査報酬は監査役と協議(監査役1名の場合はその者の決定)で決めます。
会計期間が始まった日から3か月以内に行われる定期給与の額の改定による役員報酬の変更は、法人税法令で認められていますので、その後毎月定額で支給されれば、費用として損金算入されます。
私が最初に上場会社の取締役に株主総会で選任されたとき、株主総会終了後すぐ取締役会が開かれ、議長である社長より、一人ひとりの取締役、監査役の給与が提案されて、取締役会で議決したことを思い出します。つまり、その取締役会決議が、「当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日までにされた定期給与の額の改定」の改定にあたるものであったわけです。
取締役会はそれだけを決めるとすぐに終わりました。その会社では信託銀行出身の総務部長が取締役会の運営を仕切っていましたが、会社法で定められた通り取締役会を運営することを目指しており、取締役会で法的な決議が必要となる案件では、議事進行をすべて文章にしたシナリオを事前に参加者に配り、それを議長である社長に読み上げさせていました。議事録に残すべき内容を予め文章化していたわけです。シナリオ通り取締役会が進行すれば、取締役会議事録が簡単に作成できるのですからきわめて合理的です。
私は取締役になるまで、株主総会、取締役会の運営、株式事務に関与した経験がまったくありませんでした。それなのに、IRを含めた管理業務全体を統括する取締役に選任されてしまい、知らないでは済まされない立場になったわけです。それからの一年間、冷や汗をかきながらも必死の思いで会社法を中心とした会社運営方法について勉強せざるを得ませんでした。そのときに身に着けた知識と経験のおかげで、別な会社で同様なポジションについたとき、大きな失敗も犯さずに職責をまっとうすることができました。
まとめ
大事なことは、取締役・監査役の報酬の上限枠改定は、株主総会で議決するよう会社法で定められていることです。取締役・監査役の報酬枠を超えては報酬も賞与もストックオプションも支給できないことになっています。また、法人税法では、月単位で同額の報酬を支給すること、並びに、定期同額報酬の改定は会計期間の開始から3か月以内にすることが定められています。会社法と法人税法の範囲内で役員報酬が定期同額が支給されるなら問題ありません。それ以外の事例が発生するときには、税法は複雑ですので、届け出が必要になる場合もあり、社内検討だけで判断することなく、専門家への相談や当局の判断を仰ぐことをお勧めします。
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