融資担当者はここを見ている -グループ内取引編-
融資を判断する金融機関の担当者は、決算報告書だけではなく、法人税の申告書もチェックしています。
今回は、融資担当者がどのような視点で申告書を確認しているのかについてみていきましょう。
決算書では隠れて見えてこない内容が、申告書からは見て取れる部分もありますので、粉飾や不適切な会計処理を疑われるかもしれません。
グループ内での取引の扱い
グループ内での税務上の処理について、取扱いの変更が数年前になされました。
平成22年9月30日までは、100%の資本関係があるグループ内で固定資産の売買がなされた場合でも、そこで生じた損益は、税務上も損金あるいは益金となり、会計と税務で乖離はありませんでした。
そのため、節税のためにグループ会社に含み損のある固定資産を売却して、損を計上するといった取引を実行してきた会社もあったと思います。
しかし、平成22年10月1日以後に100%の資本関係(税務上は、完全資本関係といいます。)がある法人間で、一定の固定資産の売却等がなされた場合に譲渡損益が生じたとしても、譲渡した側でその譲渡損益がなかったものとして取り扱われるようになりました。
いわゆる「グループ法人税制における譲渡損益の繰り延べ」と言われる税制上の取り扱いが適用されるようになりました。
会計上の売却損益が税務では一時的になかったものとして取り扱う
たとえば、親会社が100%所有の子会社に簿価1億の土地を5億円で売却したとすると、固定資産売却益4億円が会計上計上されますが、税金計算上は、売却益4億円は益金にしないようにする調整を行います。
結果としてこの取引では売却年度において、税金は発生しません。
【サンプル】
売却額 5億円、簿価 1億円
会計上の取扱い → 売却益 4億円
税務上の取扱い → 売却益 4億円に申告調整で減算4億円を加味して所得はゼロ
ただし、ここで減算調整して税金の対象とならなかった4億円は永久に税金の対象とならないままと言うことではありません。
土地を購入した子会社が別の会社にその土地を売却した際に、親会社の方で繰り延べられていた4億円が益金として扱われて、税金の対象となります。
つまり、税金の繰り延べがなされているに過ぎず、永久に税金の対象にならないわけではありません。
粉飾したい誘惑にかられないか
ここで注意をしなければならないのは、税金は支払いたくないけど、決算書を良く見せたいといった思いが働いた場合に、上記のように、グループ内で固定資産の譲渡を行うケースがあるということです。
今回のケースですと決算書上は4億円の利益を計上することが可能ですが、税金の方は繰延とは言え売却時に発生しないので、会社としては利益を計上して、税金を支払わなくて良いというウルトラCを考えなくもないですね。
ただし、このような調整をはかっている事実は、法人税の申告書の別表14(4)というグループ法人税制における譲渡損益の繰り延べがある場合に作成する必要がある別表を見ることで判明します。
この別表には、いつどのグループ会社に何をいくらで売って、いくらの譲渡損益を繰り延べているのかが記載されています。
その金額と決算書の固定資産売却損益とを比較することで、グループ内の取引でいくらの調整をはかっているのかを推測することでできます。
最後に
融資担当者の方は、単純に決算書の利益だけを見ているわけではなく、このような法人税の申告書の別表も見ているということを忘れないようにしましょう。数値が厳しいからといって、グループ内取引で帳尻を合わせている場合は、帳尻あわせの事実があぶり出されるかもしれません。
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