受取配当等の益金不算入制度とは 設立の背景と3つの重要ポイント

受取配当等の益金不算入制度とは 設立の背景と3つの重要ポイント受取配当等の益金不算入制度とは 設立の背景と3つの重要ポイント

受取配当等の益金不算入制度はご存知でしょうか。法人税の申告にあたってはよく出てくるもので、これを適用することにより税金は少なくなります。制度を正しく理解して、忘れずに適用しましょう。

受取配当等の益金不算入制度の概要

企業会計において受取配当金は損益計算書の営業外収益に計上されるものです。つまり、利益を構成することとなります。その一方で法人税の計算では、法人税申告書において必要な調整をすることで、益金に算入しなくてもよいこととされています。この制度のことを受取配当等の益金不算入制度といいます。受取配当金が益金不算入になることによって、それに対応する法人税等も少なくなるのです。必要な調整は、法人税申告書 別表八(一)受取配当等の益金不算入に関する明細書を使って行います。

(参考)国税庁 別表八 「受取配当等の益金不算入に関する明細書」

受取配当等の益金不算入の対象となるものには、一定の受取配当金の他にも投資信託、投資法人から受け取る金銭の分配、一定の特定株式投資信託の収益の分配などが該当します。

一方、外国法人等から受ける配当や保険会社の契約者配当金、公社債投資信託以外の証券投資信託の収益の分配、特定目的会社や投資法人から受ける配当等は益金不算入の対象とはなりません。

なぜ受取配当等は益金不算入になるの?

受取配当金がなぜ益金不算入となるのかを考えるのに、まず、法人実在説と法人擬制説という2つの考え方があることを知っておきましょう。

法人実在説とは、法人は個人と並ぶ独立した納税者であるとする考え方です。この考え方からすると、株主とは関係なく独立して法人税が課税される、ということとなります。つまり、法人税が課税された所得から支払われた配当に所得税がかかったとしても、そのことについての調整の必要はないということになります。

法人擬制説とは、法人は独立した納税主体ではなく株主の集合体であるとする考え方です。この考え方によると、法人の所得に対する課税は、個人の所得税の前払いしたものということとなります。

現在の税制では、法人擬制説の考え方が採用されています。所得税で配当控除が設けられていますが、これは、法人が課税された法人税に相当する金額を、配当金を受けた個人にかかる所得税から控除しようという趣旨によるものです。

この考え方によると、たとえば、A社⇒B社⇒個人という流れで配当を受けたときは、個人の所得税の申告にあたってA社で課税された分とB社課税された分について配当控除を適用しなければならなくなりますが、そのような制度を設けることは現実的に難しいため、B社の法人税の計算にあたって受取配当金を益金不算入とすることによって、受取配当金に対する二重課税を排除することとしています。

ただし、投資目的で所有する株式の配当については、二重課税を排除する要請も強くないことから、持株比率が低い場合は控除できる割合も低くなります。

平成27年度税制改正後の受取配当等の益金不算入の基準

平成27年度の税制改正で、受取配当等の益金不算入制度の見直しが行われました。その際に決定した益金不算入できる金額や判定日、負債利子控除のなど対象といった基準や条件について以下にまとめます。

1.受取配当等を益金不算入できる金額

受取配当等を益金不算入できる金額は、持株比率に応じて次のように決められています。

区分金額
完全子法人株式等(持株比率100%)受取配当金の全額
関連法人株式等(持株比率1/3超)受取配当金の全額-負債利子
その他の株式等(持株比率5%超1/3以下)受取配当金の50%
非支配目的株式等(5%以下)受取配当金の20%

この区分を誤って計算すると税金額が大きく変わってしまいます。この区分の間違いについて国税庁から注意喚起が発表されています。
「非支配目的株式等」であるべきものが「その他株式等」として計算されているケースが見受けられるという内容です。本来20%の不算入割合を50%として計算してしまうと大きく変わってしまうため、国税庁は保有割合を確認した後に、まずは「完全子法人株式等」「関連法人株式等」「非支配目的株式等」に区分し、いずれにも該当しない場合に「その他株式等」とするよう促しています。

(参考)国税庁 別表八(一)を使用するに当たっての注意点
        別表八の二を使用するに当たっての注意点
        別表八の二付表を使用するに当たっての注意点

2.保有割合の判定日

完全子法人株式等と関連法人株式等は、配当等の額の計算期間の初日から末日まで、継続して保有していることが要件となっています。基準日だけ保有していたとしても、適用できませんので注意してください。この配当等の額の計算期間とは、前回の配当等の支払基準日の翌日から今回の配当等の支払基準日までの期間をいいます。

非支配目的株式等については、支払基準日に保有していれば、適用することができますが、短期保有株式は除外しなければなりません。短期保有株式とは、支払基準日以前1カ月以内に取得し、支払基準日後2カ月以内に譲渡した株式のことをいいます。

3.負債利子控除

関連法人株式等では、負債利子を控除することが必要になります。平成27年度税制改正で、負債利子控除の対象は、関連法人株式等からの配当に限定されることとなりました。
負債利子とは、株式を取得することに要した借入金の利子のことをいいます。たとえば、1,000万円の借入をして、1,000万円の株式を取得した場合に負債利子控除の調整がないと、受取配当等は益金にならないのに対して、支払利息は損金となることとなります。これでは不合理な結果となってしまうため、負債利子控除の調整が必要です。

なお、負債利子控除には簡便法が設けられており、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度で計算した負債利子額として計算した額を用いた簡易的な計算も認められています。

まとめ

受取配当等の益金不算入制度について詳しく解説しました。益金不算入制度を理解するにあたって、なぜ受取配当等の益金不算入制度が設けられているのか、知っておくとよいでしょう。現在の益金不算入制度を確認したうえで、受取配当金に対し適切な税務を行いましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 松本 佳之

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税理士・公認会計士・行政書士 1980年兵庫県に生まれる。2001年公認会計士二次試験合格。2002年関西学院大学商学部卒業、朝日監査法人(現あずさ監査法人)試験合格、公認会計士登録。2007年税理士登録後独立し、北浜総合会計事務所を開設。監査法人勤務時代は企業公開部門に所属し、さまざまな実績を重ねる。

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