これは立替金?仮払金?間違えやすい勘定科目の見極め方

これは立替金?仮払金?間違えやすい勘定科目の見極め方

経理担当者には耳慣れた立替金と仮払金。しかし、思いのほかわかりにくい勘定科目でもあります。両者をマスターするためには、正しい知識を身につけ、実務で生かす必要があります。そこで、立替金と仮払金の実務ついて解説します。

立替金と仮払金を混同すると決算業務が大変!

立替金か仮払金かの判断は、費用のとらえ方が人によって違うため間違いが起こりやすいものです。しかし、立替金と仮払金とを混同させてしまうと、決算業務が大変になります。そこで、事例を用いてその大変さについて考えてみます。

<例>社員の家賃を立替えた
会社が社員の家賃1万円を一時的に立替え、給与の支給時に同額を天引きすることに同意しているとします。この場合、勘定科目は立替金を用いるべきですが、これを仮払金として経理処理をしてしまうと決算業務において以下のようなことが起こります。

  1. 決算仕訳で勘定科目を修正しなければならない

    税務署へ提出する「勘定科目内訳明細書」において、支払先ごとの立替金と仮払金の明細書を作成する際に、立替金に修正することが必要です。

  2. 税金の計算が複雑になる

    費用を立替金か仮払金にするかによって税金の計算が異なります。これは「貸倒引当金」のことを指しますが、この貸倒引当金を算出する際、立替金は債権金額に含まれますが、仮払金は除かれるために計算が複雑になります。

    参考:経理プラス 仕訳辞典「貸倒引当金」

以上から、立替金と仮払金の勘定科目を正確に使い分けることが求められます。

立替金と仮払金を使いわけるポイント

ここからは、実務において立替金と仮払金を使いわけるポイントを解説していきます。

立替金と仮払金の共通点・異なる点

営業社員などが使用する費用を一時的に現金で支給する会社は多いですが、その費用の勘定科目について、立替金か仮払金どちらにすべきか判断しやすくするため、両者の共通点と異なる点を確認します。

  1. 共通点

    社員や取引先など誰かへ一時的に支払うという点で立替金と仮払金は共通します。

  2. 異なる点

    費用の支払われる状態が立替金と仮払金の分岐点です。

    状態勘定科目
    本来誰かが支払うべき費用を、会社が一時的に支払う状態立替金
    経費の名目や金額がわからないまま、誰かへ一時的に支払っている状態仮払金

立替金と仮払金の具体例と経理処理

両者の違いを確認したところで、立替金と仮払金それぞれの仕訳方法について説明します。

立替金

立替金は返金されるまでは資産として計上します。
<例>
・役員の旅費などの立替え払い
・雇用保険料(※)
※制度上、会社は社員負担分の雇用保険料を立替え払いするため、立替金として取り扱われます。

<仕訳>
例)役員の旅費3万円を立替え、役員報酬50万円から天引きする場合の仕訳

  1. 旅費を立替えた時点
    借方金額貸方金額
    立替金3万円現金預金3万円

  2. 給料から天引きされた時点(現金預金と預り金は仮の金額
    借方金額貸方金額
    役員報酬50万円現金預金45万円
    預り金2万円
    立替金3万円

仮払金

仮払金は経費の名目や金額など費用の使い道が確定するまで資産として計上します。
<例>
・交通費や宿泊費を含めた概算の出張費用を事前に支払う場合
・小さな買い物のために小口現金から支給する場合

 <仕訳>
例)概算の出張費用5万円を事前に営業担当者へ支給した場合

  1. 事前に支給した時点
    借方金額貸方金額
    仮払金5万円現金預金5万円
  2. 出張費用を精算した時点(出張費用は仮の金額)
    ケース1:実際の経費が仮払金より1万円多い場合
    借方金額貸方金額
    旅費交通費6万円仮払金5万円
    現金預金1万円

    ケース2:実際の経費が仮払金より1万円少ない場合
    借方金額貸方金額
    旅費交通費4万円仮払金5万円
    現金預金1万円

立替金と仮払金の経理での注意点と対応策

立替金と仮払金が経理業務を複雑にする原因

立替金と仮払金を支払う相手先の人数が少ないうちなら経理部門が管理するのは簡単です。しかし、相手先の人数が多くなると、管理をしていくのが大変になります。理由を2つあげます。

  1. 立替金:相手先ごとに金額を管理するのが大変

    経理業務では立替金や仮払金の正確な金額を把握しなければなりません。外注先ごとに立替える金額が異なる場合や毎月立て替える金額が異なる場合など、立替金の金額を管理するのが大変になってきます。

  2. 仮払金:精算するのに苦労する

    たとえば、概算の出張費用を5人の営業担当者へ事前に支給したとします。社員が出張から戻ってすぐに交通費や宿泊費を精算すれば問題ありません。しかし、精算を先延ばしする社員が存在するかもしれません。それでは、経費の名目や金額が確定せず、仮払金の精算が滞ります。また、営業担当者によっては、交通経路を正確に把握していないため、交通費の計算を間違える可能性があります

仮払いをなくすことが経理業務を効率化する

仮払金の精算や管理する労力を少なくするためには、仮払いをなくすことをおすすめします。

  1. 会社用の交通系ICカードを活用する

    移動の多い営業担当者の交通費を支払うのには、会社専用の交通系ICカードを支給するのが有効です。チャージ金額を別途支給する方式を採用する企業もありますが、会社専用のオートチャージ式の交通系ICカードを支給すれば、交通費が会社の口座から引き落とされるようになるため、より経理部門の負担は少なくなります。

  2. コーポレートカードを活用する

    金額が少額の場合、社員が会社から現金をもらって物品を購入、その後精算する方式を採用している企業も多くありますが、処理が面倒になります。その場合、会社から都度現金を渡すのではなく、コーポレートカードを支給し、会社の口座から自動で引き落とされるシステムにすることで、仮払金の処理がなくなります。

  3. ICカード、コーポレートカードに対応した経費精算システムを活用する

    上記2点を活用することで、振り込む相手先を減らすことはできますが、会計処理の手間については減らすことができません。そこで、ICカード連携、コーポレートカード連携に対応する経費精算システムを導入することで、さらに業務を効率化することができます。たとえば、株式会社ラクスが提供する「楽楽精算」は交通系ICカードやコーポレートカードの利用情報と社員からあがってきた事前申請の内容とを紐づけることができ、さらに申請時に自動で仕訳がされるように設定できます。さらに、会計ソフトへも連携ができるので、経理担当者の事務的負担が軽減できます。

>>出張旅費精算システム「楽楽精算」の機能について詳細を見る

まとめ

立替金と仮払金の概要と実務について紹介しました。ここにあげた立替金と仮払金の正しい知識を身につけることが重要です。また、立替金と仮払金の処理を効率化するための仕組みづくりについても考えてみることで、業務の効率化につながるのではないでしょうか。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 阿部 正仁

阿部正仁

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意