棚卸資産とは?評価方法と選定ポイント、上手に管理する方法を解説

棚卸資産とは?評価方法と選定ポイント、上手に管理する方法を解説

企業が販売目的のために保有する商品のことを、会計では「棚卸資産」と呼びます。この棚卸資産は様々な評価方法があり、企業や商品によって評価方法が異なるため、理解するのが難しいことがあるでしょう。

今回は、棚卸資産の在庫評価と棚卸管理の仕組みについて説明します。この記事をお読みいただければ、正確な資産計上や迅速な決算対応ができるようになります。最後までぜひご覧ください。

棚卸資産の基礎知識

まずは、棚卸資産がどのようなものなのか基礎的なところを解説していきましょう。

棚卸資産とは

棚卸資産とは、企業が販売もしくは加工の目的で仕入れた物品のうち、まだ社内に留まっているもの(在庫)のことを指します。

棚卸資産は法人税法施行令の第十条に棚卸資産の範囲が規定されています。その内容は商品や製品、半製品、仕掛品、原材料、消耗品で貯蔵中のものなどが挙げられます。

出典:e-Gov法令検索「法人税法施行令」

棚卸資産の管理の重要性

棚卸資産を適切に管理することは、企業の健全な運営に直結します。

棚卸資産を管理する主な目的は、在庫の適切な管理、財務状況の正確な把握、キャッシュフローの改善などが挙げられます。

しかし、管理する上で、担当者はさまざまな課題と向き合わなければなりません。在庫の過剰や不足、商品の陳腐化、棚卸資産の評価減などが挙げられます。適切に在庫を管理することで、こういった課題を発生させないようにするのが棚卸管理の重要なところです。

棚卸資産の記載場所

棚卸資産は決算書上、貸借対照表(バランスシート、B/S)の左側「資産の部」の「流動資産」に表記されます。

貸借対照表(B/S)上の「資産」の内、企業の正常な営業循環過程にある資産や1年以内に現金化できる資産は「流動資産」、それ以外の資産は「固定資産」に分類されます。商品在庫である棚卸資産は仕入と売却を繰り返し、企業の正常な営業循環過程にあるため、「流動資産」に分類されます。

棚卸資産の計算方法

棚卸資産は一般的に、「数量×仕入単価」で計算します。

数量は実地棚卸で確認します。実地棚卸とは、倉庫や店舗にある商品の在庫を実際に数えて点検し、数量や保管状態を確認する作業のことです。決算のタイミングで数を数え、それに特定の評価方法で算出した仕入単価の評価額をかけ合わせ算出します。

棚卸を行う際には棚卸表のテンプレートを活用すると効率的に管理、計算ができるため、ぜひご活用ください。

経理プラス:ビジネス書式テンプレート ダウンロード【棚卸表】

仕入単価の評価方法については次の見出しで説明します。

棚卸資産の評価方法

棚卸資産の概要が分かったところで、次は棚卸資産の数量にかけ合わせる仕入単価の評価方法について見ていきましょう。評価方法により、売上に対する原価が変わり利益も変わります。評価方法は大きく原価法と低価法の2つに分かれます。

原価法

原価法は、棚卸資産の仕入の原価を棚卸資産の単価として評価する方法です。原価法には以下の6つの評価方法があります。

個別法

個別法は、各仕入時の価格で評価する方法です。商品ごとに取得原価を個別に管理し、原価計算を行います。

<メリット>

  • 個別に在庫管理をしたい棚卸資産に適している
  • 高額品や特定用途の商品に向いている

<デメリット>

  • 個別に原価管理を行うため、手間がかかる
  • 仕入が多い場合、管理負担が増大する

先入先出法

先入先出法は、先に仕入れた棚卸資産から順に払い出すと仮定して評価する方法です。たとえば、1月に100個を1,000円、2月に100個を1,200円で購入した場合、先入先出法では、最初に仕入れた100個(1,000円)を最初に販売し、その後に2月に仕入れた100個(1,200円)が販売されることになります。

<メリット>

  • 期末の棚卸資産が比較的新しい仕入単価で評価される
  • 算定される利益からインフレの影響を排除できる

<デメリット>

  • 物価変動がある場合、売上原価が実態とずれる可能性がある
  • 仕入価格が変動する業種では管理が複雑になりがち

総平均法

期首棚卸資産と期中の仕入を合計し、平均単価を算出して評価する方法です。たとえば期首に1,000円で仕入れた商品100個があり、期中に200個を1,200円で仕入れた場合、総平均法ではこれらの平均単価を算出します。

(100個 × 1,000円 + 200個 × 1,200円) / (100個 + 200個) = 1,133円

<メリット>

  • 計算が比較的容易で、在庫管理がしやすい
  • 期中の価格変動の影響を平準化できる

<デメリット>

  • 瞬時の価格変動に対応しにくい
  • 一定期間ごとに平均単価を算出する必要がある

移動平均法

仕入のたびに平均単価を再計算し、最新の単価で在庫を評価する方法です。つまり、在庫の評価額は、仕入があるたびに「移動」し、常に最新の平均単価が反映されます。

<メリット>

  • 平均単価が常に最新の状態に更新される
  • 価格変動を一定程度吸収できる

<デメリット>

  • 仕入のたびに計算が必要となり、事務作業が増える
  • 多品目を扱う企業では管理が煩雑になりやすい

売価還元法

売価還元法は商品の売価をもとに在庫評価を行う方法です。期末に在庫として残っている商品の売価を合計し、これに各商品の原価率をかけ合わせて、棚卸資産の原価を推定します。

<メリット>

  • 小売業など、仕入価格の管理が難しい業種に向いている
  • 実地棚卸時に簡単に評価が可能

<デメリット>

  • 原価率の変動があると、実際の原価とズレが生じる可能性がある
  • 詳細な原価管理が困難になる場合がある

最終仕入原価法

最終仕入原価法は、直近の仕入単価を基準として棚卸資産を評価する方法です。例えば1月に100個を1,000円、2月に200個を1,200円、3月に150個を1,100円で仕入れた場合、最終仕入原価法では最後に仕入れた3月の1,100円を期末在庫の評価に使用します。

<メリット>

  • 計算がシンプルで分かりやすい
  • 価格変動が少ない商品に向いている

<デメリット>

  • 物価が変動しやすい場合、実態と合わない評価になることがある
  • 期末の仕入単価によって利益が大きく変動する可能性がある

このように、棚卸資産の評価方法にはそれぞれの特徴があり、事業内容や管理方法に応じた適切な手法を選択することが重要です。

棚卸資産の評価方法については、以下の記事でさらに詳しく説明しています。

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その1:原価法

低価法

低価法とは、原価法により算出した金額と、期末時点での時価(市場価値)を比較し、低いほうを評価額にする方法です。この方法は、特に在庫の価値が下落した場合に、その損失を反映させるために使用されます。

<メリット>

  • 保有在庫の時価の低下という企業の現状を正確に捉えられる。ただし、この場合は原価法であっても強制評価減が必要。低価法は時価が少しでも低下した場合に評価損を計上しなければならない
  • 評価損を早期に計上でき、財務の透明性が向上する

<デメリット>

  • 低価法を適用した場合は、次の期首に振り戻しの処理が必要
  • 適用基準の判断が必要であり、税務上の要件に注意が必要

経理プラス:棚卸資産の評価方法をマスター! その2:低価法

棚卸資産の評価方法を選ぶポイント

ここまで説明したとおり、評価方法の選択によって決算時の利益、税負担、さらには会計処理の工数が大きく変わります。自社の事業年度や販売目的に適した方法を慎重に選定し、適切な帳簿管理を行いましょう。

商品や業種の特性

商品の性質や業界特有の慣習などによって、最適な評価方法が異なります。特に季節商品や流行品などの場合、価格の変動が激しくなるため、特性に合わせた方法を選ぶことが求められます。また、小売業など大量の在庫を扱う業種は、売上原価の計算を簡略化できる売価還元法が適しています。しかし、システムで自動計算を行える場合、高額で個別性が強い商品には個別法がおすすめです。仕入が頻繁な場合は、システムを導入して自動計算するのであれば移動平均法が良いですが、現実的には月次・四半期・年次と区切って平均単価を算定する総平均法が適しています。

価格変動の影響

商品の価格変動に対して、適した評価方法が異なります。商品の価格が大きく変動する業界では、価格の変動に対応した評価方法が適しているでしょう。

たとえば、原材料の価格が急激に上昇する場合は移動平均法を用いることで価格上昇を反映させることができます。一方、価格変動が少ない場合は、平均法先入先出法が適しています。

税務上の考慮

棚卸資産の評価方法を選ぶ際には、利益の計上のタイミングや税負担への影響を慎重に検討する必要があります。というのも、在庫評価は売上総利益の増減に関わるため、結果的に法人税の金額にも影響するからです。

たとえば、最終仕入原価法は、期末にもっとも新しく仕入れた単価を基準に評価を行うため、物価が上昇する環境下では売上原価が下がり、その期の利益を高くする影響を与える可能性があります。

国や地域で異なる会計基準の考慮

棚卸資産の評価方法は、適用する会計基準によって異なる場合があります。たとえば、日本の法人税申告では 最終仕入原価法売価還元法などが一般的に利用されますが、海外投資家から資金調達を行う企業は、IFRS(国際会計基準)やUS-GAAP(米国会計基準)などの基準との整合性も検討する必要があります。

利用しているシステムの機能・整備状況

評価方法によっては、在庫管理の負担が大きく異なります。特に、移動平均法売価還元法など、計算が複雑な方法を採用する場合は、システムによる自動計算機能があるかを確認することが重要です。

適切な在庫管理システムを導入することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 帳簿上の在庫と実地棚卸の差異を正確に把握できる
  • 在庫の過不足を防ぎ、適正な仕入計画を立てやすくなる
  • 会計処理を効率化し、決算業務の負担を軽減できる
  • 電子帳簿保存法の要件に適合するシステムを用いることで、将来的な税務調査対応やペーパーレス化を進めることができる

なお、評価方法選択の届出は、基本的に法人設立の事業年度分の確定申告提出期限までとされています。棚卸資産の評価方法を選択あるいは変更するときは、必ず税務署に書類の提出を行いましょう。

棚卸資産を上手に管理するには?

棚卸資産の管理を適切に行うことは、企業のキャッシュフローを改善し、経営の安定性を高めるために重要です。ここでは、効果的な在庫管理のポイントを紹介します。

需要予測に基づいて在庫計画を立案する

棚卸資産の管理において重要なのは、販売計画に基づいた在庫計画を立てることです。過去の販売実績や季節変動、トレンドを考慮し、将来の需要を予測します。需要予測に基づいた計画を立てることで、需要の変動に柔軟に対応しやすくなります。また、事業年度ごとに計画を見直し、適切な仕入資金を確保することが大切です。

在庫管理システムを導入する

リアルタイムで在庫状況を把握できる在庫管理システムを導入することが、効率的な棚卸資産の管理には欠かせません。手作業での管理に比べて、正確かつ迅速に在庫状況を把握でき、ヒューマンエラーを防ぐことができます。たとえば、在庫数の入力ミスやデータ更新の遅れなどの誤差を最小限に抑えることが可能です。これにより、作業効率も向上し、無駄な在庫や過剰発注を防止することができます。

定期的な実地棚卸を行い、帳簿との差異を確認する

棚卸資産の正確な管理を行うためには、定期的な実地棚卸が欠かせません。実地棚卸を行い、期末の帳簿と実際の在庫数との整合性を確認します。もし差異が発生した場合は、その原因を早期に特定し、誤差が発生した箇所を明確にすることが重要です。実地棚卸の結果を基に仕訳を行い、減耗損や評価損を計上することで、在庫の適正評価が可能となります。

棚卸資産評価損のリスクが高い商品に留意する

棚卸資産の管理において、評価損のリスクが高い商品に注意を払うことは非常に重要です。売れ残りや劣化が進んでいる商品については、定期的に評価額を見直し、必要に応じて評価損を計上する必要があります。評価方法を適切に選定し、過剰な評価を防ぐことで、期末の決算で問題が生じるリスクを減らすことができます。

まとめ

今回は、棚卸資産について説明しました。

棚卸資産の上手な管理には、需要予測に基づく在庫計画の立案や、リアルタイムで状況を把握できる在庫管理システムの導入、定期的な実地棚卸の実施などが不可欠です。

適切な評価方法や評価損の計上は企業の経営の安定性を高めることができます。まずは自社の評価方法について調べてみるとよいでしょう。

棚卸資産に関する    Q&A

最後に、棚卸資産に関するよくある質問にお答えします。

Q1.棚卸資産の勘定科目は?

一般的に「棚卸資産」という勘定科目は使用しません。
「商品」「仕掛品」「原材料」など、状況に応じたものを使用します。

Q2.棚卸資産は貸借対照表のどこに記載する?

貸借対照表の「流動資産」に記載します。

Q3.棚卸資産と在庫の違いは?

在庫とは、一般的に企業が保有する商品や材料の総称です。両者は似た概念で用いられることが多くあります。しかし、棚卸資産が販売や生産のために保有している資産を指しているのに対して、在庫は企業が保有する商品や材料の総称であり、時に販売目的以外の消耗品や備品も指すことがあります。たとえば、オフィスにあるコピー用紙やボールペンは在庫ではありますが、消耗品であり、棚卸資産には該当しません。

Q4.棚卸資産管理における過剰在庫の影響は?

企業が過剰に在庫を抱えてしまうと、財務・経営で悪影響があります。例えばキャッシュフローの悪化や、保管コストの増加、保管するためにかかる業務効率の低下などが挙げられます。

Q5.1つの企業で棚卸資産の評価方法を2種類以上採用しても良い?

異なる事業や異なる種類の棚卸資産を保有している場合、それぞれに適した評価方法を採用することができます。しかし、同じ資産に対しては同一の評価方法をとる必要があります。

Q6.棚卸資産の評価方法の変更はできる?

日本の法人税法では、採用した棚卸資産の評価方法を継続適用することが求められます。つまり、正当な理由(事業の形態変更など)がなければ、頻繁に評価方法を変更することはできません。

変更したい場合は、税務署に変更承認申請書を提出する必要があります。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 公認会計士 梶本 卓哉

Kajimototakuya

税務署法人課税部門(税務大学校首席卒業)、大手監査法人や大手投資銀行勤務等を経て公認会計士・税理士事務所開設。税務のみならず会計監査やIPO(新規株式公開)実務に強みを有する。