所得拡大促進税制を活用しよう!平成30年税制改正における改正点

所得拡大促進税制を活用しよう!平成30年税制改正における改正点

所得拡大促進税制とはどんな税制? 適用するメリット

所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除制度)とは、事業者が国内の雇用者の給与を一定割合以上増やすなどの要件を満たしたときに、その増加した額の一定割合を法人税額から控除できる制度のことをいいます。この制度を適用できるのは青色申告をしている法人または事業主に限られます。
この制度は、賃上げを促進する企業を税制面で支援するために、平成25年度税制改正により、平成28年3月31日までに開始する事業年度までの時限措置として創設されました。その後、期限が延長され、平成30年3月31日までに開始する事業年度まで継続されましたが、平成30年度の税制改正でさらに適用期限が延長され、令和3年3月31日までに開始する事業年度まで延長される見込みです。

所得拡大促進税制は税額控除といって、計算された法人税などの額を直接減らすことができる制度です。そのため、適用できるのであれば必ずメリットがあります。
一度適用したら適用できなくなるのではなく、一度適用してもその後の年度で同じように要件を満たしていれば、再度適用することができます。また、前年度に要件を満たしていなかったとしても、当年度で要件を満たしていれば適用することができます。
この所得拡大促進税制の要件は、平成30年度税制改正で次のように大きく改正されています。

  • 従来は平成24年度の給与の総額と比べて、適用する年度の給与の総額が一定割合以上増えていることが要件でしたが、平成30年度の改正にて廃止となっています。
  • 従来は一人あたりの平均給与が、前年比を上回っていること(平成29年度税制改正により大企業は前年と比べて2%以上上回っていることが要件でしたが、平成30年度の改正にて継続雇用者給与等支給額が全事業年度比3%以上増加に変更となっています。

これらの要件をクリアした場合に、所得拡大促進税制の適用による税額控除を受けることができます。

所得拡大促進税制に関する税制改正

平成29年12月に閣議決定された平成30年度税制改正の大綱において、所得拡大促進税制は制度を次のように見直しされた上で、令和3年3月31日までに開始する事業年度まで延長されることとされています。

主な改正点として以下が挙げられます。

1.賃上げの要件が簡素化

賃上げの要件については、従来の3つの要件のうち(a)と(b)が廃止されます。また、(c)については、一人あたりの平均給与が「前年比を3%以上上回っていること」に見直しされます。

2.国内設備投資額の要件が加わる

国内設備投資額が「減価償却費の総額の90%以上であること」という要件が新たに設けられました。国内設備投資額とは、当期に取得などをした国内の減価償却をする資産で、期末時点で有するものの取得価額の合計額をいいます。

3.教育訓練費が増加したときの税額控除の割合が上乗せ措置の導入

適用しようとする期の教育訓練費が前期と前々期の教育訓練費の額の年平均額を20%以上上回っている場合には税額控除できる割合が上乗せされ、給与などの増加した額の20%まで税額控除できることとなりました。
教育訓練費とは、研修や講習の外部講師への謝金や施設の使用料、委託費など国内の雇用者の職務に必要な技術や知識を習得させたり、向上させたりするための費用のことをいいます。

所得拡大促進税制を適用するための留意点

所得拡大促進税制は要件が複雑なため、適用の検討を忘れてしまいがちです。
しかし、たとえば従業員がたくさんいる会社で、給与や賞与の増加額が年間で1億円だったとすれば、その10%以上(平成30年度税制改正後は15%以上)の税額控除を受けることができるため、1,000万円以上(平成30年度税制改正後は1,500万円以上)もの税金が変わってくる可能性があります。そのため、必ず決算ごとに適用の可否を検討しましょう。

適用できるかどうかを検討するために最もネックとなってくるのが、「一人あたりの平均給与が、前年比を上回っていること」という要件の判定をするための一人あたりの平均給与の算定です。これは単純に給与や賞与の総額を従業員数で割ればよいというものではありません。継続雇用者(前事業年度と適用年度でそれぞれ1回以上給与等の支給がある国内雇用者で一定の者を除く)の平均給与を計算しなければなりません。そのためには適用年度と前事業年度について、給与台帳などの資料から該当する者をピックアップし、その者に対する給与のみを抽出して平均給与を算定する必要があります。

給与システムなどでそれが容易に計算することができない場合は、平均給与の算定のために多くの作業が生じることとなるため、決算や税金計算のタイミングでやろうとしても間に合わない可能性があります。事前に所得拡大促進税制の適用に備えて準備をしておくことが必要です。

まとめ

今回は所得拡大促進税制について概要と平成30年度税制改正の内容を解説しました。所得拡大促進税制は税金を大きく減らすことができる制度ですが、その適用にあたっては事前に準備もしておかなければなりません。制度を理解し、決算時に慌てないように事前の準備を心がけるようにしましょう。なお、解説の中で、適用するための要件は、わかりやすくするため簡略化しています。詳細は国税庁や経済産業省などでも確認するようにしてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 松本 佳之

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税理士・公認会計士・行政書士 1980年兵庫県に生まれる。2001年公認会計士二次試験合格。2002年関西学院大学商学部卒業、朝日監査法人(現あずさ監査法人)試験合格、公認会計士登録。2007年税理士登録後独立し、北浜総合会計事務所を開設。監査法人勤務時代は企業公開部門に所属し、さまざまな実績を重ねる。

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