社会保険料の算定基礎届で理解しておきたいポイント

社会保険料の算定基礎届で理解しておきたいポイント

人事や総務部門では年に一回行う定例業務の一つに「算定基礎届」の提出があります。
算定基礎届の提出は社会保険料を計算するために必要となる手続きです。ここでは社会保険料の算定基礎届について基本的なポイントをまとめました。

社会保険料はどうやって決まるのか

毎月の給与からは社会保険料(厚生年金保険料など)が徴収されます。この社会保険料はどのように決定されているのでしょうか。

社会保険には、「標準報酬月額」というものがあり、これに基づいて毎月の給与から天引きされ、支払う社会保険料が決まります。標準報酬月額は、厚生年金保険の場合は、1等級(8万8千円)から31等級(62万円)まで、毎月の給料などの報酬月額ごとに1か月あたりの保険料が決められています。社会保険料は標準報酬月額に保険料率をかけて算出されるため、このテーブルに沿って、給料から源泉徴収されることとなります。月額報酬が高いほど社会保険料や健康保険料、厚生年金保険料は高い金額となります。
なお、この標準報酬月額のどの等級を適用するかは毎月の給料に応じて変動するのではありません。入社時や定時改訂の際に届出をし、決定されると一年間はその等級を使い続けることとなります。
給料には、賃金、俸給、手当、現物給与などどのような名目であっても、労働の対価として受けるものはすべて含まれます。また、通勤手当も含まれるので注意しましょう。

標準報酬月額はどのように届出をするのか

新しく入社した人がいれば、事業主は資格取得届を提出します。その資格取得届に標準報酬月額が記入され、それをもとに社会保険料が決定されます。
継続して勤務している人については、給料が変動することがあるため、年一回、標準報酬月額の見直しを行います。この手続きが「定時決定」と呼ばれ、事業主が算定基礎届を提出することによって行われます。
算定基礎届には、7月1日現在におけるすべての被保険者と70歳以上の被用者に対し4月~6月の間に支払った賃金を記載します。

ここで注意しなければならないのは、「期間内に実際に支払った賃金である」、ということです。たとえば、3月分の給料を4月に支払ったのであれば含まなければなりませんし、6月分の給料を7月に支払ったのであればそれは含まれません。この期間中に支払った賃金を平均して、一人一人の標準報酬月額を計算します。

このように一年間に支払われた賃金から標準報酬月額を算定するのではなく、一定期間(4月~6月の間)に支払った賃金から標準報酬月額を算定するのが特徴です。賃金の中には残業手当も当然含まれることとなります。そのため、この4月~6月の期間は他の期間よりも残業が多く、残業手当が多く支給されると、標準報酬月額が高くなり算定基礎届の記載金額が高くなるため、年間の社会保険料は高く計算されてしまいます。
また、通勤手当などは、所得税が課税されないものであっても、社会保険料を算定する際の賃金には含めなければなりません。

算定基礎届の概要と提出方法

定時決定で標準報酬月額の見直しをする際に提出する書類を「算定基礎届」といいます。
算定基礎届の提出対象は、7月1日現在におけるすべての被保険者と70歳以上被用者です。
ただし、6月1日以降に資格取得した人、6月30日以前に退職した人、7月改定の月額変更届を提出する人は対象から外されます。

事業主が「被保険者報酬月額算定基礎届 70歳以上被用者算定基礎届」等を日本年金機構へ提出することになります。算定基礎届の提出方法には、e-Gov(イーガブ)を使った電子申請、郵送、窓口持参の方法があります。また、届出用紙ではなく、CDやDVDといった電子媒体で提出することもできます。

算定基礎届の用紙は、毎年6月前後に、事業所に送られてきますので、これに必要事項を記入した上で、提出することとなります。算定基礎届の用紙には5月中旬頃までに資格取得届をした被保険者については氏名や生年月日などが予め印字されています。その後、異動があれば追加したり、削除をしたりする必要があります。

なお、算定基礎届は基本的には事業主(会社や雇用主)が提出するものですので、従業員の方が特に何かをする必要はありません。
算定基礎届で決まった標準報酬月額は、9月から翌年の8月まで適用され、それに基づいて社会保険料などが決定されます。
これが原則ですが、定時決定で標準報酬月額が決定されたとしても、大幅な賃金の変動があった場合などは改定する手続きを行わなければなりません。この手続きを「随時改定」といいます。
随時改定が必要となるのは、昇給や降給で固定的賃金に変動があり、変動月からの3か月間に支給された報酬の平均月額に該当する標準報酬月額と現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差がある場合です。なお、対象となる3か月とも支払基礎日数が原則として17日以上である必要があります。
固定的賃金の変動とは、昇給や降級の他にも、給与体系の変更や各種手当ての追加などの変更、日給や時間給の基礎単価の変更、歩合給等の単価や歩合率の変更などが該当します。

まとめ

今回は社会保険料の基礎知識や算定基礎届の提出方法について解説しました。社会保険料がどのように決まっているのか理解いただけましたでしょうか。定時決定や随時改定など算定基礎届を提出して行う手続きは、社会保険料を決定するためのとても大事なものです。社会保険料の算定基礎届のポイントをしっかりと理解しておきましょう。また、人事の業務にも携わっている方は算定基礎届の手続きの時期や実際に社会保険料が変わるタイミングについても理解しておくことが必要です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 公認会計士 松本 佳之

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税理士・公認会計士・行政書士 1980年兵庫県に生まれる。2001年公認会計士二次試験合格。2002年関西学院大学商学部卒業、朝日監査法人(現あずさ監査法人)試験合格、公認会計士登録。2007年税理士登録後独立し、北浜総合会計事務所を開設。監査法人勤務時代は企業公開部門に所属し、さまざまな実績を重ねる。

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