企業に活気をもたらすストックオプション制度の仕組み
ストックオプションの仕組みをご存知でしょうか。言葉を耳にしたことはあっても、日本の一般的な企業の経営者・従業員の方にはあまり馴染みがない仕組みかもしれません。
今回は、ストックオプションの概要・種類を紹介し、中でも最近導入企業が増えていると言われる株式報酬型ストックオプションについても説明していきます。
なお、ストックオプションの仕組みについて詳細に解説するためには、基本的な金融工学に対する解説等が必要となるため、以下では省略し、あくまで概要の解説に留めます。
企業がストックオプション制度を設ける意図
ストックオプションとは、「会社の役員・従業員」「その子会社や関連会社の役員・従業員」「社外の弁護士」「会計士」「コンサルタント」「顧問」など、業績向上へのインセンティブを与えることが有益と考えられる者に対して付与する無償の新株予約権のことです。
すなわち、役員及び従業員の意欲や士気を高めて、かつ優秀な人材を確保する有力な手段となり、企業の業績向上に資することに大きな狙いがあるものです。
ストックオプション制度の目的・効果
ストックオプションを理解するために、各々の利害関係者の視点から、その目的・効果をみていきましょう。
従業員への短中期のモチベーション付与
日本においては、長らく従来の年功序列制や終身雇用制を前提とした会社経営・人事施策が採られてきました。
しかし今後は、米国型グローバル対応の資本主義制度の流入、少子高齢化への移行などの変化から、次第にそれらの習慣が変化していくものと思われます。
こうした中で、これら年功序列制および終身雇用制下と比べて企業への忠誠心(ロイヤルティ)が低下したこと、また、それを支えた長期モチベーションとしての退職金制度にかつてほどの期待がなくなったことから、企業としては、短中期において人材をつなぎとめる制度の確立が重要になっていくと考えられます。
その点、ストックオプションは会社業績変動が株価に反映され、設定された行使価格を上回ることによって得られるであろう経済的便益を役員や従業員に期待させるものですから、賞与よりもさらに中期的で公正なインセンティブを与えることが可能で、モチベーションを高める効果があると思われます。
人件費節減
将来、新規株式上場を目指すベンチャー企業において、優秀な人材や新規株式上場をサポートする公認会計士、弁護士、コンサルタント等に対して、現金支給に代替して新株予約権を無償付与することにより、現金支出を節減して資金繰りを安定化させる目的があります。事業が成功して将来業績が向上し、新規株式上場を達成したときには、その貢献に報いることができます。
ただし、直接的な現金による人件費支出を抑えて、代わりに過度にストックオプションを付与している場合や、新規株式上場が早期に実現しない場合には、相応のモラルの低下が考えられる点に注意が必要です。
人材確保
人材をつなぎとめることと同様に重要なのは、企業に必要な人材を獲得することです。財政的に安定しており、かつ成長性の高い分野を事業部門に持つ会社にとっては、ストックオプションは優秀人材を惹きつける誘因材料となり得るでしょう。
ストックオプション制度の種類
ストックオプションは一般的に、通常型ストックオプションと株式報酬型ストックオプションに分類することができます。
通常型ストックオプション
新株予約権を付与された者に、会社業績向上へのインセンティブを持たせることを目的として、1株当たりの権利行使価格を新株予約権付与時点における1株の時価より高く設定する仕組みです。
すなわち、権利行使時の株価の値上がり部分が、付与された者の報酬となります。通常、付与された者が会社に在籍している、あるいは継続的に貢献することが期待される立場にあることなどが行使条件とされます。
株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションとは、通常型ストックオプションに対して、権利行使価格を低い金額に設定して、実質的に権利行使時の株価と同等の価値を与えるストックオプションです。
「権利を付与された者が役員退任後であること」などを行使条件とするのが一般的で、退職慰労金制度の廃止に伴う代替制度の色合いを帯びています。
また、通常型・株式報酬型の区別は、税制適格・非適格の別や損金算入の可否にも影響を及ぼします。そのため、ストックオプション税制の優遇措置を受けられるか否かによって、税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションに分類することもできます。
ストックオプション制度の会計処理の留意点
それでは、ストックオプションの会計処理について、主要な論点・留意点をご紹介していきます。
どの論点もケースバイケースで望ましい会計処理が異なりますので、それぞれの立場を整理し、主張を紹介します。
費用認識の要否
従業員の労働役務の提供に対する対価としてストックオプションを付与した場合、費用の認識は必要か否か、問題とされてきました。
必要だと考える説は、経済的に価値のある労働役務の対価なのだから、また会社と従業員との間の取引なのだから、当然費用認識すべきだと考えます。
一方、不要と考える説は、会社財産の流出が生じない、また新旧の株主間の富の移転に過ぎないことを理由に費用認識は不要と考えます。
費用認識の相手勘定
従業員等にストックオプションを付与した時点で「確定的」に資本として会計処理するか、または「暫定的」なものとして会計処理しておき、性格が確定した時点で必要に応じて当初の会計処理を修正すべきか、問題とされてきました。
確定的方法を主張するのは、従業員にストックオプションを付与した当初から、資本としての性格が確定していると考える立場です。
一方、暫定的方法を主張するのは、ストックオプションの性格が会計上確定していないと考える立場です。
測定の基準日
費用の測定に関して、どの時点までストックオプションの価値変動を反映すべきか、問題とされてきました。すなわち、測定対象としてのストックオプションの価額は、価格×数量の構成要素に分解できますが、価格・数量の動きについてはそれぞれ独立しているものと考えられます。そのため、価格(価値変動)についての認識時点が問題とされてきました。
付与日説を主張するのは、付与日において労働役務とストックオプションの価値は等価であると考え、これ以降のストックオプションの価格変動は労働役務の価値と直接的な関係を有しないとみて、費用の額に反映させるべきではないと考える見解です。
勤務日説を主張するのは、「費用の測定には、それを認識すべき各勤務日ごとのストックオプションの価値を用いるべきである」と考える見解です。
権利確定日説を主張するのは、「費用の測定には、権利確定条件を全て満たした時点におけるストックオプションの価値を用いるべきである」と考える見解です。
まとめ
今回は、ストックオプションの仕組みの概要と、最近活用が増えてきている株式報酬型ストックオプションを含めたストックオプションの会計処理における主要な論点について見てきました。
企業側(=経営側)と従業員側の利害はしばしば食い違いますが、ストックオプションの活用により目線が近づき、ともに会社の成長を目指す体制が取れることがお分かりいただけたかと思います。
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