ソフトウェアの減価償却は目的で変わる?耐用年数や仕訳を知ろう
会計上のソフトウェアの区分
ソフトウェアといっても、会社の業務の効率化に使用されるものや、それ自体を製品として販売する会社など、扱いはさまざまです。この使用目的の違いによって、ソフトウェアは、「無形固定資産」に分類されるものとそうでないもの、さらに「無形固定資産」の中でもその耐用年数に違いが設けられています。
ソフトウェアの会計上の区分は、以下の通りです。
- 自社利用目的
- 販売目的(市場販売)
- 販売目的(受注制作)
ただし、将来の収益獲得又は費用削減と認められないソフトウェア(確実であるか不明なものも含む)の場合、その購入費は費用処理となります。耐用年数に基づく減価償却の必要はありませんので、注意しましょう。
自社利用目的のソフトウェア
自社利用のソフトウェアとは、社内の業務処理に使用するために購入あるいは自社制作したソフトウェアが対象となります。たとえば販売管理ソフト、会計ソフト、給与計算ソフト、勤怠管理ソフトなどです。
<仕訳例>
社内の販売管理用ソフトウェア(将来のコスト削減が確実と認められるもの)を150万円で購入した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
ソフトウェア | 150万円 | 現金預金 | 150万円 |
なお、ソフトウェアを使用するために必要となる初期設定の費用や、自社の仕様に合わせるためソフトウェアに対して行った作業費用など、ソフトウェアの導入にかかる費用はソフトウェアの取得価額に含めます。たとえば、会計ソフトの科目設定などの費用がこれにあたります。
販売目的のソフトウェア(市場販売)
市場販売目的のソフトウェアとは、販売目的のソフトウェアのうち製品マスター(原本)を制作し、それを複写したものを不特定多数の顧客に販売するもの。つまり、量産販売するためのソフトウェアのことです。耐用年数に基づく減価償却の対象となるのは、製品マスターの制作費となります。
ソフトウェアの会計処理では、製品マスターの制作過程を研究開発の段階とソフトウェア制作の段階に分けて、前者を費用処理、後者を資産計上と費用処理に分けて会計処理します。資産計上されるのはソフトウェア制作への支出ですが、そのソフトウェアに著しい改良を加える場合、その製品マスターがまだ研究開発の段階にあるという考えに基づいて、研究開発費などで費用処理します。
<市場販売目的のソフトウェアの支出>
制作過程 | 会計処理 |
---|---|
研究開発 | 支出は、費用処理(研究開発費など) |
ソフトウェア制作 | 支出のうち ・改良等が著しくないもの・・・資産計上(ソフトウェア) ・改良等が著しいもの・・・費用処理(研究開発費など) |
ソフトウェア制作のうち、資産計上の対象となるものはソフトウェアとして無形固定資産となり、耐用年数に基づく減価償却を行います。
<仕訳例>
ソフトウェアの製品マスターの制作費(著しい改良でないもの)150万円を支出した
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
ソフトウェア | 150万円 | 現金預金 | 150万円 |
販売目的のソフトウェア(受注制作)
受注制作のソフトウェアとは、販売相手から制作を請け負うオーダーメイドのソフトウェアのことです。受注制作によるソフトウェアは、工事進行基準(決算において、進捗度に基づいて収益と原価を認識する会計基準)又は工事完成基準(目的物の引き渡し時点で収益と原価を認識する会計基準)を適用して会計処理を行います。制作品は棚卸資産となりますので、耐用年数に基づく償却は行われません。
税務上のソフトウェア
税務上のソフトウェアも会計上のソフトウェアを基に区分されていますが、ソフトウェアの資産計上の範囲に違いがみられます。国税庁のタックスアンサーによると、税務上のソフトウェアにおける取得価額は次のとおりです。
ソフトウェアの取得価額に含めるもの
国税庁によるソフトウェアの取得価額の計算方法より、次の費用は、ソフトウェアの取得価額に含めることとされています。
- 既製品のソフトウェアを購入した場合
- ソフトウェアを自社製作した場合
購入の代金+購入費用+自社の業務に使用するために直接要した費用(設定費用など)
原材料費、労務費及び経費の額、自社の業務に使用するために直接要した費用(設定費用など)
ソフトウェアの取得価額に含めないことができるもの
以下の費用については、国税庁のHPより、ソフトウェアの取得価額に含めないことが認められています。
“イ 製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかであるものに係る費用”
国税庁タックスアンサー「No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数」
“ロ 研究開発費(自社利用のソフトウエアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかであるものに限ります。)”
“ハ 製作等のために要した間接費、付随費用等で、その合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの”
税務上のソフトウェアと会計上のソフトウェアの違い
一定のソフトウェアを資産計上する点や、そのソフトウェアが将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合は資産計上しない点は共通しています。しかし、そのソフトウェアに将来の収益獲得又は費用削減にならないことが確実かどうか不明な場合、税務上はこれも資産計上の対象としている点に違いがあります。
したがって、このようなソフトウェアを導入した際は減価償却限度額が変わってくるため、税務申告では調整が必要です。ソフトウェアの資産計上について、税務上と会計上の違いは以下の記事もご覧ください。
経理プラス:自社制作ソフトウェアの資産計上と監査上の留意点
ソフトウェアの耐用年数
ソフトウェアの耐用年数は次のようになり、償却方法は定額法です。
- 市場販売目的:3年以内
- 自社利用のソフトウェア:5年以内
【税務上のソフトウェアの耐用年数】
- 複写して販売するための原本:3年
- その他のもの:5年
- 開発研究用のもの:3年
税務上の耐用年数に開発研究用のものがありますが、これは自社利用のソフトウェアの耐用年数が、その利用目的で5年から3年になることを意味しています。
ソフトウェアの耐用年数と仕訳例
【例】通常の社内業務利用のソフトウェア(150万円)
・耐用年数5年
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
ソフトウェア償却 | 30万円 | ソフトウェア | 30万円 |
【例】開発研究のために社内利用するソフトウェア(150万円)
・耐用年数3年
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
ソフトウェア償却 | 50万円 | ソフトウェア | 50万円 |
【例】販売目的のソフトウェア(150万円)
・耐用年数3年
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
ソフトウェア償却 | 50万円 | ソフトウェア | 50万円 |
会計上は、これより短い期間の耐用年数を設定する方法もあります。
まとめ
ソフトウェアは、まずそのソフトウェアがどの区分のソフトウェアにあたるか確認し、その上で、資産計上の範囲と耐用年数を会計と税務それぞれで把握しなければなりません。特に「将来の収益獲得又は費用削減にならないことが確実かどうか」や「開発研究の目的かどうか」など資産計上範囲や耐用年数の分岐となる判断は、個別のソフトウェアをもって税理士に確認しましょう。
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