資金繰りとは?悪化の原因と改善方法を分かりやすく解説

資金繰りとは、支払いが滞らないように手元の資金を管理することです。資金繰り管理が適切でなければ、支払いが間に合わず信頼を損なったり、黒字倒産したりするリスクがあります。
本記事では、資金繰りの主な原因や改善するための方法、資金繰り表を使った管理の仕方を紹介します。
資金繰りとは
資金繰りとは今後の収支を予測し、手元に十分な資金を確保することです。必要に応じて資金調達を行うこともあります。
経理の方であれば「勘定合って銭足らず」という言葉を見聞きしたことのある方は多いでしょう。この言葉は、決算書上は利益が出ているにもかかわらず、お金が足りず会社を上手く廻せない状況を意味します。
会社において、利益があることと手元に資金があることは大きく異なります。自由に動かせる資金が不足すると、銀行への返済や取引先の支払いが遅れます。支払いの遅延が恒常的に発生すると信用を失い、最悪の場合は破産など法的措置を講じられることもあるでしょう。
利益があるにもかかわらず、手元の資金がないために「黒字倒産」に陥ることも考えられます。会社同士の取引では、支払いをまとめて後から行う「掛取引」が一般的です。掛取引の場合、利益を計上しても、資金が支払われるまでに数か月のタイムラグが発生することもあります。
以上のような事態を防止するためには、資金繰りを行って滞りなく支払いができるよう調整することが大切です。
資金繰りが悪化する原因
資金繰りが悪化する原因は、入金の減少と出金の増加に大別できます。入金の減少の原因は、売上高の減少や売掛金の支払いサイトが長いこと、未回収の代金の貸し倒れなどが考えられます。出金の増加の原因は、仕入れた商品が売れずに過剰な在庫を抱え続けている、借入金の返済などです。
以下では、それぞれの原因を詳しく解説します。
売上高に変化がある
売上高の変化は、資金繰りの悪化を招く大きな要因の1つです。売上が減ると、当然入金される金額も少なくなります。
売上が増えた場合は資金繰りを改善できる場合もありますが、注意が必要です。多くの売上を計上するためには、仕入や外注費などがかかり、より多くの支払いが必要です。
売掛金の入金までに期間が空くと、支払いに入金が間に合わず、資金繰りが悪化する可能性もゼロではありません。
設備投資をした
設備投資に資金を使うと、手持ちの資金は少なくなります。
決算書上では、設備の取得にかかった費用は耐用年数に合わせて複数年に分割して費用計上しますが、実際には資金が多く出ていっている状態です。
決算書上では問題がないように見えても、手持ちの資金は足りないという状況が発生することも少なくありません。
過剰な在庫を抱えている
仕入れた商品がすぐ売れれば利益となりますが、売れなかった商品は在庫となり利益を得られません。利益が出ていないにもかかわらず仕入の費用だけを支払っている形です。
こうした在庫が多いと、出費だけがかさんで手元の資金を圧迫する場合もあります。
売掛金の入金が遅い
掛取引では、商品が売れた時点で売上を計上しますが、入金のタイミングは翌月以降に先延ばしされます。このタイムラグが資金繰りの悪化を招くこともあります。
商品を多く仕入れて多額の売上を計上できたとしても、仕入代金は売掛金の入金前に支払わなければならないことが一般的です。こうした場合は、十分な利益があるにもかかわらず黒字倒産することも考えられます。
借入金を返済している
設備投資や運転資金を金融機関から借り入れている場合は、毎月や半年に一度など定期的に返済しなければなりません。
運転資金とは別に借入金の返済もしなければならないため、出ていく資金も増えます。返済が負担となり、資金繰りの悪化に陥るケースも多くみられます。
資金繰りを改善する方法
資金繰りを改善するためには、次の3つの方法を順番に行う必要があります。
- 資金の動きを把握する
- 経費を削減する
- 資金調達を行う
それぞれの方法を詳しくみていきましょう。
資金の動きを把握する
資金繰りを改善するために、まずは資金の動きを把握しましょう。資金の動きを把握するためには、資金繰り表が役立ちます。
資金繰り表とは、事業活動により発生する入出金の金額や時期を表でまとめたものです。いつ、どのくらいの入出金があるかを明らかにすることで支払いに備えられ、資金不足に陥ることを防止できます。
経費を削減する
資金繰りを改善するためには、経費を見直して出金を減らすことが大切です。日々どのような経費がかかっているのかを確認し、余計な支払いや経費がないか精査しましょう。
経費の削減の例として、以下のようなことが考えられます。
- 新しい機材を購入するのではなくレンタルやリースにすることで導入費用を抑える
- 求人募集を有料媒体ではなくハローワークで行う
- 限定的な時期に人手が足りない場合は業務委託や短期的に派遣会社を利用する
資金調達をする前に自社の経費を見直して無駄をなくすことで、より効率的な経営ができるようになるでしょう。
資金調達を行う
経営環境の悪化や不意の出費などの原因により、資金不足に陥らざるを得ない状況もあります。営業活動で資金が調達できない場合は、他の方法による資金調達を検討しましょう。具体的な方法については後述します。
在庫や遊休資産を見直す
過剰な在庫や遊休資産を現金化することで、資金繰りが改善することもあります。
在庫を多く保有している場合は、仕入のペースや量を見直しましょう。定価で売れない商品の在庫であっても、安価にすることで売却できる可能性はあります。材料の在庫がかさんでいる場合は、仕入の量を減らして在庫から優先的に使うことが大切です。
遊休資産には、使っていない土地や建物、設備などが該当します。こうした資産は、使っていなくても保有しているだけで固定資産税が課税されます。設備の劣化を防止するためにメンテナンスや掃除を行う手間や費用もかかるでしょう。遊休資産を売却して資金にできれば、資金繰りが楽になることも考えられます。
売掛金のサイトを早める
資金繰りの改善には、売掛金の入金サイトの見直しも有効です。売掛金がより早く入金されれば、動かせる資金も多くなり、支払いに遅れるリスクを軽減できます。
入金サイトを早めるには、取引先に交渉する必要があります。ただし、取引先にとって不利な条件とならないよう、納得してもらえる条件を提示しましょう。トラブルを防止するために、交渉で決まったサイトや適用時期、取引条件などは書面にしておくことも大切です。
資金繰り管理に役立つ「資金繰り表」とは
資金繰り表とは、入出金の金額や時期を表にまとめたもので、資金の流れを管理するのに役立ちます。
項目ごとに収支を記載することで、どの要素が資金繰りの悪化を招いているのかが分かりやすくなります。資金繰り表については、下記記事も参考にしてください。
資金繰り表とキャッシュフロー計算書の違い
会社のお金の動きを把握・管理する表としては、キャッシュフロー計算書もあります。お金の管理をするという点ではいずれも共通していますが、それぞれ視点や目的が異なります。
資金繰り表は、将来の入出金を予測し、将来のある時点でお金が不足しないようにするためのものであり、「未来」のお金に視点を置いています。
一方で、キャッシュフロー計算書は、過去のある時点から現在までのお金の増減を把握し、そこから経営の課題などを分析するものです。「過去から現在」までのお金の流れに視点を置いています。
資金繰り表とキャッシュフロー計算書の目的や視点を理解し、適切に運用することが大切です。
資金繰り表による資金繰り管理のステップ
資金繰り表を活用するために、次の3つのステップを押さえましょう。
- フォーマットを準備する
- 金額を記載する
- 記載内容を分析する
それぞれについて以下で詳しく解説します。
1.フォーマットを準備する
まずは資金繰り表のフォーマットを準備します。既存のテンプレートを使い、自社に合わせてカスタマイズしてもよいでしょう。
資金繰り表の主な項目は次のとおりです。
- 前月繰越
- 営業収支(日々の営業活動で生じる収支)
- 投資収支(設備投資に伴う収支)
- 財務収支(銀行との借入・返済などに伴う収支)
- 翌月繰越
以上の項目に分けることで、全体の数字を見通しやすくなり、資金繰りが適切かどうかも分かりやすくなります。ただし、細分化しすぎると分かりにくくなるため注意しましょう。
2.金額を記載する
資金繰り表の項目に沿って、金額を記載していきます。先月の繰越額からスタートし、それぞれの収支を記載して、翌月に繰り越せる資金がいくら残るかを計算します。
3.記載内容を分析する
記載した内容を分析し、支払いがショートしないかどうか確認しましょう。もし資金が不足しそうな場合は、早急に資金調達を行う必要があります。
目安として、資金繰り表上で3か月先まで支払いの見通しが立てば、ひとまず安心といえます。
資金繰り表を作成するポイントについて、詳しくは以下の記事も参考にしてください。
経理プラス:資金繰り表の作成のポイント 事業計画書との関係は?
資金調達の方法
資金繰り表から資金の不足が見込まれたら、資金調達を検討しましょう。売上の増加や経費の削減では、迅速な対策をしにくいためです。
主な資金調達の方法には次のものがあります。
- 金融機関から融資を受ける
- ファクタリングを利用する
- 補助金・助成金を利用する
まずは融資を受けられないかメインバンクに相談しましょう。日ごろから付き合いのある金融機関であれば、可能な範囲で融資に応じてもらえる可能性があります。
その場合は、資金繰り表や直近の決算書、返済計画書などの資料をそろえて交渉します。こうした場合に備えて、メインバンクと日ごろから良好な関係を築いておくことも大切です。
ファクタリングとは、売上債権をファクタリング会社に買い取ってもらうサービスです。ファクタリングには手数料がかかるため、ファクタリング会社は慎重に選定しなければなりません。
設備投資によって資金繰りが悪化しそうな場合は、補助金や助成金を活用することも選択肢の1つです。たとえば、革新的なサービスや商品開発、プロセスの改善などを目的とするものであれば「ものづくり補助金」を検討できます。
DX化に向けてITツールを導入したい場合は「IT導入補助金」、人材不足や効率化のための設備投資であれば「中小企業省力化投資補助金」などがあります。
補助金や助成金には審査があり、細かなプロセスを経なければならないため、早めに着手して計画的に進めることが必要です。
資金繰りを効率的に管理する方法
資金繰りを効率的に管理するには、クラウド会計システムや資金管理システムの利用が有効です。
会計システムでは、日々の取引を登録したり試算表が作成できたりすることに加えて、資金繰り表の作成機能をもつものもあります。資金管理システムでは、リアルタイムの資金の状況を把握できるため便利です。
クラウドのサービスを利用すれば、出張先や外出先でも資金繰りの管理ができます。自社に合ったものを採り入れて、資金繰りを効率化しましょう。
まとめ
資金繰りを管理することで、自社の資産を有効に活用し、取引先との良好な関係を維持できます。経費や入金サイトを見直し、過剰な在庫や遊休資産を持たないようにすることで、資金繰りの悪化を防止できるでしょう。
また、資金繰り表を作成して、手持ちの資金の現状を把握し、将来の見通しを立てて必要に応じた対策を講じることも重要です。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。