資金繰りとは?経営者、財務経理責任者必読の基礎知識を解説

資金繰りとは?経営者、財務経理責任者必読の基礎知識を解説

資金繰りとは会社の収入と支出を予測して、将来発生する資金の過不足に対して適切な手立てを打つことです。資金は会社を廻す血液とも言えるもの。売上や利益を重視する経営者は多いですが、資金繰りこそ会社を存続するための肝と言えるでしょう。この記事では資金繰りについて、その重要性や改善のためのポイントなどを解説しています。

資金繰りは重要

経理の方であれば「勘定合って銭足らず」という言葉を見聞きしたことのある方は多いでしょう。この意味は、決算書上は利益が出ているにもかかわらず、お金が足りず会社が上手く廻せない状況です。
もちろん、利益を上げることが会社の資金繰りを楽にする前提ではありますが、資金不足に陥る要因は色々あるもの。資金不足に陥ると、銀行への返済や取引先の支払いが遅れることになります。支払い遅延が恒常的に発生すると信用を失ってしまい、最悪の場合は破産など法的措置を講じられることもあるでしょう。資金繰りとは今後の収支を予測し、資金不足に陥らないように資金の調達手段を確保することです。

資金繰りとキャッシュフロー計算書との違い

前述のとおり、会社を経営するにあたり資金繰りを把握することはとても大切です。経営やアカウンティングやファイナンスの分野などで取り扱われるのでなんとなくのイメージはあるかもしれません。
資金繰りを把握する、というのは簡単に言えば、お金の入出金のタイミングを把握し会社のお金が不足しないか、を管理することです。資金繰りを把握することで常に会社のお金の残高を管理します。

ところで、会社のお金の動きを把握・管理する方法として資金繰りの他に、キャッシュフロー計算書があります。資金繰りとキャッシュフロー計算書は、どちらもお金の管理をするという共通点はあります。しかし、それぞれ視点や目的が異なります。資金繰りは、将来の入出金を予測し、将来のある時点でお金が不足しないようにするためのものであり、「未来」のお金に視点を置いています。

一方で、キャッシュフロー計算書は、その英語のとおりお金の流れを見るための資料です。過去のある時点から現在までのお金の増減を把握し、そこから経営の課題などを分析するものであり、「過去から現在」までのお金の流れに視点を置いています。
このように、資金繰りとキャッシュフロー計算書は、それぞれを目的にあわせて適切な運用することが大切です。

なお、資金繰りの方法は、キャッシュフロー計算書のように決まった書式がないので、決まりがないためにかえって管理しにくいかもしれません。会計ソフトでも自動で作成、出力するのも難しいものですので、そんなときは下記のエクセルのような無料のテンプレートを参考に自社に合うようにカスタマイズしていくと良いでしょう。

経理プラス:資金繰り表テンプレート

また、資金繰りの管理や経理部門や財務担当者が兼務するケースが多いと思いますので、会計的な知識は十分かと思います。ただし、資金繰りは実際のお金の流れを見ることが目的ですので、会計における「発生主義」ではなく「現金主義」に近い考え方が必要です。ですので、資金繰りとは、財務諸表にある数字から読み解くものではありませんので、状況に応じて頭に切り替えていきましょう。

資金繰りは将来に視点をおいているので、事業計画とリンクしてきます。資金繰りと事業計画の関係については、以下の記事を参考にするのがおすすめです。

経理プラス:資金繰り表の作成のポイント 事業計画書との関係は?

資金繰りが悪化する原因

資金繰りが悪化する原因は、会社によって様々ですが突き詰めると2つの原因になります。
入金が少なくなること、そして出金が多くなることです。

まず入金が少なくなることについて、たとえば売上が減る、売上代金の回収サイクルが長い、未回収の代金が貸し倒れて回収できなくなる、などがあります。

次に出金が多くなることです。
たとえば、仕入れた商品が売れずに在庫として抱え続けている、借入の返済がはじまる、人材や設備などへの投資があります。

黒字でも倒産する

資金繰りが悪化すると仕入先に商品代金を払えない、従業員に給与を振り込めない、などの事態が起きます。
とはいえ、会社は常にお金を出し入れして商売をしていますので、上記に挙げた資金繰りが悪化する例は経営する上で珍しい話ではないでしょう。珍しい話ではないからこそ普段から資金繰りを把握して意識しておく必要があります。
特に資金繰りが悪化すると最悪の場合、利益が出ているにもかかわらず会社が倒産する、「黒字倒産」の恐れもあります。
大企業に比べ資金に余裕がない中小企業は資金繰りを意識していないと業績が工業でも黒字倒産に陥りがちです。

決算書上は黒字であっても、資金不足に陥ることがありますが、なぜ黒字倒産が起きてしまうのでしょうか。基本的に原因として考えられるのが、発生主義による会計上の収益の認識時期と実際にお金が動く時期が異なること。会計上の利益と収入との差額の代表的な例は、次のとおりです。

設備投資

設備投資の場合、損益計算上は償却期間にわたって減価償却費として費用計上されます。たとえば投資金額100なら資金の流出は100ですが、損益計算上は20(5年定額償却)しか費用計上されません。

在庫

在庫は売上計上の段階で仕入に計上され利益計算されます。在庫の状態では、損益計算書に反映されません。しかし、在庫は取引先に仕入れ代金として資金流出していますので、利益と資金のギャップが生じます。

売掛金

納品基準や検収基準で売上計上したとしても、それが掛け取引の場合は売上月の翌月以降に資金が回収されることになります。仕入れ代金として取引先への支払いの後に、売上代金が回収されるケースは多く収支のギャップとなるのです。

借入金の返済

銀行からの借入返済のうち、元本部分は損益計算書に反映されません。設備資金としての借入金は減価償却費として一部は計算されますが、運転資金の借入金では利益計算には反映されないのです。

資金繰り改善に向けた取り組み

売上や利益の拡大に向けた取り組みは多様ですが、資金繰りの改善に向けた取り組みも色々な手法があります。

資金繰り表を作成する

資金繰りを改善するために最も大切なこと、それは資金繰り表を作成することです。資金繰り表とは事業活動により発生する入金や出金の金額、時期を表している管理帳票です。いつ、どのくらいの入出金があるかを明らかにすることで、資金不足に陥る時期や金額を把握することを目的とします。この資金繰り表は、以下3つの区分に分けて作成します。

  • 営業収支(日々の営業活動で生じる収支)
  • 投資収支(設備投資に伴う収支)
  • 財務収支(銀行との借入・返済などに伴う収支)

今後の資金調達が必要になる理由が、3つの区分のどの要素によって生じるのか。これを明らかにすることで対策が生じやすくなるでしょう。資金繰り表については、下記記事も参考にしてください。

経理プラス:資金繰り表とは?キャッシュフロー経営の手法と効果

日々の業務オペレーションを改善する

資金繰りを改善するには特別な方法はありません。日々の業務オペレーションを見直して今よりも入金のタイミングを早め、出金のタイミングを遅くする、これだけでも非常に効果があります。ですので、債権管理や在庫管理など、日々の業務オペレーションを資金繰りの観点から改善することも有効な手段です。

  • 請求書の発行漏れ、遅れを無くす
  • 顧客からの支払い遅延があった場合、督促ルールを決め実行する
  • 適時適量の仕入れを行うことで過剰在庫を防止する
  • 過剰在庫が生じた場合、できるだけ早く原価割れでも処分し現金化する

銀行と良好な関係を築く

資金不足が予想される場合、必要な資金を調達する必要があります。資金調達の一般的な方法は銀行からの借入です。取引先に支払いを待ってもらうなどの方法もありますが、信用不安を招く可能性がありますのでおすすめできません。
ただし銀行に急に借り入れをお願いしても、必ずしも対応してくれるとは限らないでしょう。融資をお願いしても審査には時間がかかるので必要なときにすぐ借りられるとも限りませんので、メインバンクと日頃から良好な関係を築くことをおすすめします。決算報告や事業計画の報告、銀行の主催するセミナーへ参加するなど、いざというときに頼れる関係作りに努めましょう。

資金調達を行う

経営環境の悪化や不意の出費などの原因により、資金不足に陥らざるを得ない状況もあります。営業活動で資金が調達できない場合が多く、以下のような他の方法による資金調達を検討することが必要です。

銀行借り入れ

資金不足が予想される場合はできるだけ早めに、まずメインバンクと相談することが一番です。メインバンクであれば、対応可能な範囲内で融資を検討してくれる可能性が高いでしょう。銀行からすると資金ショートの理由、必要資金額、返済計画などの情報は融資にあたり必要な情報です。そのため、資金繰り表、直近の決算書、収益・返済計画など資料一式を問いそろえて交渉に臨んでください。

当座貸越契約

銀行に当座預金を開設している場合、銀行と当座貸越契約という契約を締結して借入を行うこともできます。当座貸越契約の中で対象期間と借入限度額を設定し、限度額の範囲内であれば融資を受けることが可能です。借入限度額や金利などの融資条件は企業規模、財務状態などによって決定されますが、特に運転資金の不足が見込まれる場合は有力な資金調達方法になるでしょう。

ファクタリング

最近では、ファクタリングによって資金調達する方法もあります。ファクタリングとは、売掛金などの売上債権を買い取ってもらうサービスのこと。手数料は必要となるものの、良質な売上債権があると資金化も容易なため、一つの選択肢となります。注意すべき点は、ファクタリングサービスを提供する会社の選択です。高い手数料を求める会社もありますので、銀行系列のサービス会社を選択すると安心でしょう。

経費を削減する

資金繰りの改善のために資金を調達するだけでなく、出金を減らすことも大切です。そこで経費を精査して余計な支払いや削減できる経費がないか検討してみましょう。たとえば、新しい機材を購入するのではなくレンタルやリースにすることで導入費用を抑える、求人募集を有料媒体ではなくハローワークで行う、期末や年末など特定の時期に人が必要なら外注や短期的に派遣会社を利用する、などがあります。

まとめ

資金は事業を継続するためのもっとも重要な資産です。そのため、資金管理の基礎である資金繰りは、経営者がきちんと理解しなければならない事項の一つとなります。資金繰りの手腕が会社の存続を左右することを充分に理解してください。また、やむを得ず資金不足に陥った場合も、日頃から対策を準備しておきましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 保坂 慧

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税理士。大学卒業後、複数の税理士事務所にて法人や個人事業主の税務相談や確定申告業務、法人設立の支援などに携わる。その後、事業会社において、経理や財務、労務等バックオフィス全般の経験を経て独立、税理士事務所を開業。平均年齢が60歳超で大半が男性である税理士業界において、年配の税理士に相談しづらい若手起業家や女性起業家の支援に注力している。

保坂慧税理士事務所