産業競争力強化法はどんな法律?改正でM&Aが変わる
産業競争力強化法という法律をご存知でしょうか。あまり馴染みのない法律ではありますが、該当するものがあれば税金が軽減されるなどメリットのある法律です。詳しく確認していきましょう。
産業競争力強化法ってどんな法律?
産業競争力強化法とは、いわゆるアベノミクスの一つで、日本経済の再興のための産業競争力の強化を目的として、平成26年1月20日に施行された法律です。過剰規制、過少投資、過当競争が日本経済のゆがみであるとして、その是正を図るべく、創業期・成長期・成熟期といった事業の発展段階に応じて各種支援策を整備し、さらなる成長を後押ししています。
この産業競争力強化法における主な支援措置としては次のようなものがあげられます。
- これから設備投資をする方に対する支援措置
- 生産性向上設備投資促進税制
- 中小企業投資促進税制
- リース手法を活用した先端設備等の投資促進
- 規制にお悩みの方に対する支援措置
- あらかじめ規制の適用について照会できる制度(グレーゾーン解消制度)
- 企業単位で規制の特例措置を適用(企業実証特例制度)
- 事業再編をお考えの方に対する支援措置
- 競争力や収益性の飛躍的な向上を図る事業再編を後押しする制度
- ベンチャーへの資金供給をお考えの方に対する支援措置
- 企業のベンチャー投資促進税制の創設
- 産業革新機構のベンチャー支援強化
- これから創業する中小企業の方に対する支援措置
- 地域における創業支援体制強化
- 国立大学によるVC等への出資
- 事業の再生をお考えの方に対する支援措置
- 中小企業再生支援強化
- 事業再生ADR拡充
このように幅広い分野で支援措置を講じているのが産業競争力強化法の特徴です。
平成30年改正での変更点
産業競争力強化法は平成26年1月20日に施行後、たびたび改正が行われています。平成30年改正において、中小企業・小規模事業者関連措置としては、事業承継や創業の促進による新陳代謝の加速化を図るための措置、時代に対応した経営支援体制の基盤強化を図るための措置が講じられました。
事業承継や創業の促進による新陳代謝の加速化を図るための措置には次のようなものが設けられました。
- 再編による事業承継を加速化させるため、「経営力向上計画」の対象に、M&A等による再編統合が新たに追加されました。
対象となる場合に、登録免許税や不動産取得税の軽減や各種許認可の承継等の支援措置を受けることができます。 - 親族外承継を円滑に進めるため、後継者が代表者に就任した場合以外に、代表者に未就任の後継予定の者に対する金融支援が対象に追加されました。
- 次世代の経営の担い手を確保するため、創業の普及啓発の取組が追加されました。
また、時代に対応した経営新体制の基盤強化を図るため、次のような措置が設けられています。
- 経営革新等支援機関の認定制度に更新制等が導入されることとなりました。
- 中小企業のIT導入の加速化を図るため、ITベンダー等を情報処理支援機関として認定し、ITツールやITベンダーを見える化する等の支援体制が整備されました。
産業競争力強化法の改正で変わるM&A
上記の他、平成30年の産業競争力強化法の改正によって、株式を対価とするM&Aを利用しやすくするための会社法の特例措置や税制上の措置が講じられることとなりました。
現金ではなく、株式を対価とするM&Aは、資金の準備の必要がないため、M&Aを行うことが容易となります。特に、資金的な余裕はないが、将来の成長が期待されている新興企業では、その成長を期待した高い株価を利用して大規模なM&Aを行うことも可能となります。また、被買収会社の株主にとっては、買収後に買収会社の株式を保有することになり、買収後も買収会社や被買収会社の成長や業績向上による利益を享受することができるというメリットもあります。
このように株式を対価とするM&Aは、M&Aをより使いやすくする手法であり、欧米では一般的な手法です。この株式を対価とするM&Aに関して、平成23年に産業活力再生特別措置法が改正され、株式公開買付(TOB)を用いた株式を対価とするM&Aについては、会社法における現物出資規制や有利発行規制等が緩和されましたが、要件が厳しいこともあり、あまり活用されることはありませんでした。
今回、平成30年の産業競争力強化法の改正によって、株式公開買付(TOB)以外の方法を用いた株式を対価とするM&Aについても、会社法上の有利発行規制等の緩和の対象となりました。
さらに、平成30年度税制改正によって、産業競争力強化法上の特別事業再編計画の認定を受けた株式を対価とするM&Aである場合には、被買収会社の株主の譲渡損益課税の繰り延べ措置が講じられました。つまり、対象となるM&Aが行われた場合であっても、M&Aの時点で被買収会社の株主に税金がかかることはありません。
これによって、規制面からも税制面からも株式を対価とするM&Aを後押しするような体制が整い、非上場会社も含めたM&Aの円滑化を期待することができます。
M&Aを行うこととなった場合、買収会社の経理・財務部においては、多額の買収資金を調達する必要がありました。しかし、株式を対価とするM&Aの場合はそのような必要はありません。一方で、被買収会社のみならず、自社の株式についても評価をしなければなりません。
まとめ
産業競争力強化法の平成30年の改正ではいくつか改正がありますが、その中でも、株式を対価とするM&Aを利用しやすくするための特例措置については、事業再編に大きな影響を与える可能性がありますので、知っておくとよいでしょう。
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。