M&Aにおける経理の重要性とは

M&Aにおける経理の重要性とは

企業の買収(M&A)が以前よりも一般的になってきています。
その中で今回は経理がM&Aにおいてどのような役割を有しているのかを学んでいきましょう。
経理処理を正しく進めることが、M&Aにおいて非常に重要な意味を持つことを確認します。

M&Aとは「企業に値段をつける作業」である

通常の商売であれば、企業が提供する商品やサービスに対して値付けをします。
しかし、M&Aでは売り物となるのは企業そのものであり、従って企業に値付けをしなければなりません。

企業の値付けには、様々な要素が絡んできます。

  • どのような商品やサービスを提供しているのか
  • 既存顧客や見込み客はどんな状態で、どれくらいの発展性が見込めるか
  • 社員の数や質はどれくらいのレベルにあるのか

これらの要素はとても重要です。しかし、特に重要なのは数字で表すことができる部分です。
「資産や負債はなにがあるのか?」「売上はどれくらいあるのか?」「どのような費用が計上されているのか?」
M&Aにおいては、これらのように決算書に数字で記載されている情報がもっとも重要視されます。

もし決算書が正しく作成されていなければ、売り手と買い手が双方納得できる「企業の値付け」は不可能です。
従って、M&Aを実行するためには「正しい経理処理が行われていること」が必要不可欠なのです。

会計には種類がある

M&Aにおける経理の重要性を更に確認する上で、知っておきたいことがあります。
それは会計の種類です。会計は大まかに次の3つに分けることができます。

  • 企業会計(財務会計)
    企業の外部に存在する利害関係者に対して、自社の状況を正しく開示するために必要な会計。
    外部利害関係者には株式投資を検討している投資家や融資をしている金融機関などの債権者、また大口の取引先なども該当する。
  • 管理会計
    企業の内部に存在する利害関係者が経営の意思決定をするために用いる会計。
    経理処理を通じて取得された情報を、原価計算や在庫管理、損益分岐点分析など様々な方法で整理、分析することで経営を支援する。
  • 税務会計
    税務申告に必要な会計。
    基本的には単独で存在するものではなく、企業会計に所定の調整を加えることで完成する。

各会計の定義については様々な考え方が存在しますが、大きくは上記のように理解しておけば大丈夫です。これらの会計が企業の買収においてどのような意味を持つか確認をしていきます。なお、税務会計はM&Aと直結する部分が相対的に少ないため、今回は省略をします。

企業会計とM&A

企業の売り手と買い手の間には、情報格差が存在します。
売り手は企業の内情まで把握しているため、価格交渉において有利になります。逆に買い手側は売り手が提示した情報しか判断材料がありません。

上記で確認した通り、企業会計は外部利害関係者に向けて企業の現状を提示するのが目標です。買い手に信用をしてもらうためには「正しい企業会計のルールに従って決算書が作成されていること」がとても大切です。

実は「正しい企業会計のルール(会計基準)」についても争点は様々です。
たとえば、国際的な基準とされるIFRSと日本の会計基準では合致しない点などもあります。基準が違えば経理処理の方法も異なってくるからです。この点については非常に高度な問題が含まれているので、今回は深くは触れません。

中小企業の場合には中小企業向けの会計基準も用意されているので、それらを遵守することで様々な外部利害関係者に対して信頼性の高い決算資料を提示することができるでしょう。

管理会計とM&A

売り手が買い手に対して自社の適切な価格を提示するためには、企業会計から得られる情報だけでは不足してしまうことがあります。「企業の内部利害関係者はどのような機会や課題を見据え、それに向けてどのような行動をしてきたのか?」といった企業会計だけではわかりづらい情報を提示した上で、売り手と買い手が交渉を続けることで企業の価格はより適切なものへと近づいていきます。

そのためには内部利害関係者が管理会計を通じてどのような分析をしていたのか? ということが大変重要な意味をもってきます。企業の買い手は、M&Aが終わったあとには内部利害関係者になるわけですから、管理会計から得られる情報は非常に有用です。

文章による定性的情報

もう一つ、大切な点を指摘しておきます。それは文章の重要性です。
最近の会計では文章による情報の重要度が高まっています。決算書の注記、税務申告書に添付する書面、各種事業計画書です。

企業の売り手としては、数字だけではわかりづらい定性的な情報について文章化することにより、自社の適切な価格を提示することができます。そして買い手としては、文章で表現されている内容と決算書や管理会計による資料を照らし合わせ

「売り手が嘘をついていないか」
「これまでの行動と数字上の結果が伴っているか」
「将来性のある投資をしてきたのか」

といった要素を判断する必要があります。

まとめ

M&Aでは企業の値付けが重要です。正しい値付けをするためには、正しい経理処理により決算書等が作成される必要があります。企業会計(外部に向けて発表されるもの)、管理会計(内部の利害関係者が経営判断に使用するもの)と併せ、数字で表現しきれない情報を書面で補足しながら交渉をしていくことが必要です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 高橋 昌也

税理士 高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。

高橋昌也税理士・FP事務所