労働保険の年度更新で必要な計算方法と仕訳処理をわかりやすく解説!

労働保険の年度更新で必要な計算方法と仕訳処理をわかりやすく解説!

労働保険、労働保険料という言葉をご存知でしょうか。
これらの言葉について「正確に理解している」と自信を持って言える方は、意外と少ないかもしれません。

労働保険は、従業員を雇用する企業であれば必ず関わることになりますが、健康保険や年金などと混同してしまうケースも少なくありません。今回は、この労働保険についての基本的理解を確認した上で、経理担当者として押さえておくべきポイントや計算方法・仕訳処理を紹介していきます。

労働保険・労働保険料とは何か

労働保険

労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称した名称です。

労災保険とは、労働者の業務災害や通勤災害などによる疾病や障害、死亡などに対して保険給付を行うことを目的とする保険制度であり、管轄官庁の窓口は労働基準監督署です。

雇用保険とは、失業した被保険者や雇用の継続が困難になった被保険者に対して保険給付を行うことを目的とする保険制度であり、管轄官庁の窓口はハローワークです。

労働保険の保険給付を受けるには、まず事業所について労働保険を適用させなければなりません。労働保険は、労災保険と雇用保険を一体として適用することが前提となっているため、まずその適用の関係と手続きを理解する必要があります。その上で、労災保険と雇用保険の適用の要件には相違する部分もあるため、各々の適用の要件を理解してください。

1名以上の労働者を雇用する事業主は、業種、規模、事業主の意思に関わらず、原則としてその労働者について労災保険の加入手続きを行う義務があります(雇用保険の場合は、一定の要件を満たした場合に加入手続きを行う義務が生じます)。ただし、一部適用除外事業が認められています。

保険給付などは、労働基準監督署、公共職業安定所で別々に行っていますが、原則として保険料の申告・納付は、 労働保険料として一括して行います。

労働保険料

労働保険料とは、労災保険と雇用保険の保険料の総称です。労災保険の保険料は全額が事業主負担で、雇用保険の保険料は事業主と労働者双方で負担することになっています。労働保険料は、原則として支払われた賃金額をもとに算定しますが、保険料率の決定や、事業主・労働者の免除制度などが他の社会保険とは大きく異なります。また、同じ労働保険でも、労災保険と雇用保険では異なる部分もあるため、それらの違いを正しく理解しなければ、労働保険料も理解できなくなってしまいます。

労働保険料の年度更新と計算方法

次に、労働保険料の計算方法についてみていきましょう。

労働保険の年度更新

保険料の法令・納付は、毎年の概算算定申告手続である年度更新により行われます。毎年前払いで行われている労働保険料の申告と納付のことを「労働保険の年度更新」といいます。
労働保険料は労災保険・雇用保険制度の適正な運営を確保するための財源として大変重要であり、同時に負担する事業主や被保険者にとっても重要なものです。そのため、「労働保険の年度更新」で必要となる労災保険と雇用保険の保険料の算定方法および申告・納付の制度については、正確に理解しておくべきでしょう。

労災保険の保険料の計算方法

労災保険料は、毎年4月から3月までの保険年度(または有期事業)の期間中に労働者に支払った賃金総額に、労災保険率を乗じて算出します。

労働者には、正社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称を問わず、事業主の指揮命令系統の下に使用され、賃金を支払われている者ならばすべてを含みます。また、法人の代表以外の役員や外務員などであっても、労働者としての実態があり、賃金が支払われている場合は労働者に含みます。

労災保険率は、事業の種類に応じて率が決められています。過去3年間の業務・通勤災害の発生率や保険給付に要する費用額などをもとに決められるもので、最も高い料率は1,000分の88、最も低い料率は1,000分の2.5となっています。
参考:厚生労働省 令和4年度の労災保険率について

尚、算定された労災保険料は全額を事業主が負担し、労働者が負担することはありません。

雇用保険の保険料の計算方法

雇用保険料は、毎年4月から3月までの保険年度に使用する労働者のうち、雇用保険の被保険者になっている者に対して支払った賃金総額(賞与等も含める)に、雇用保険率を乗じて算出します。

雇用保険率には、その事業の種類に応じて2つの種類があります。このうち失業者給付・育児休業給付に係る保険料は事業主と労働者が折半して負担し、「雇用保険二事業」(雇用安定事業、能力開発事業)に係る保険料は全額事業主が負担します。

実務上、被保険者の負担分の保険料は、賃金・賞与などの支払の際にそれらから事業主が控除します。

労働分配率の計算にも影響がありますので、正確に把握しておきましょう。
経理プラス:労働分配率で分かること 業種別の目安から見る改善方法とは?

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労働保険料に関わる仕訳

労働保険料に関わる仕訳は、基本的に法定福利費に費目を利用します。小売店舗や小規模事業者においては、法定福利費に関わる仕訳一本で処理している場合も少なくないようです。

一方、正確な経理処理を行う場合、翌年分の概算と当年分の精算など、時間の流れに沿った経理処理が必要となることから、前払費用や預り金の費目を用い、段階を追った仕訳が必要となる点で、多少煩雑な印象をお持ちの方もいるかもしれません。ただし、こうした事情は他の社会保険料と同様ですので、一度型を覚えてしまえば決して面倒な処理ではないことがお分かりいただけると思います。

逆に言えば、これらの型を身につけておくことで、社内で一目置かれる存在になることも可能です。会計士や税理士、社労士の先生に任せっきりにするのも一つの手かもしれませんが、自社の経理処理は極力社内で完結することにより、先生方に支払う費用削減だけでなく、会社組織としてのノウハウ蓄積にも繋がりますので、よろしければトライしてみてください。

まとめ

ここまで、労働保険の仕組みと労働保険料の計算方法、経理処理について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
しばしば健康保険、厚生年金保険などの他の社会保険と混同したり、制度や料率がたびたび変更したりすることから、煩わしいと思われる方も多いと思いますが、ぜひ理解の整理に役立てみてください。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 川口 拓哉

著者

税理士(近畿税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。個人の税金から法人の税金までの幅広い税目について知識と実務経験を有する。川口拓哉税理士事務所所属。

川口拓哉税理士事務所