株主総会で経理が担う役割とは?発生タスクと会計処理

株主総会で経理が担う役割とは?発生タスクと会計処理

機関投資家や外国人投資家、個人株主が増えているといった背景から、最近の株主総会は企業のIR活動の一環として重要視されています。ここでは、株主総会についての基本的な知識と、株主総会で経理担当者が担う役割について詳しく解説します。

株主総会とは

株主総会とは、企業のオーナーである株主が、会社に関する意思決定を行う株式会社の最高意思決定機関です。取締役会を設置した会社の場合は、会社法や定款で定められた重要な事項について決議します。具体的な決議事項は以下の通りです。

  • 定款の変更、事業譲渡など組織・事業に関する重要事項
  • 資本金の減少、配当金など株主の権利に関する重要事項
  • 取締役、監査役などの選任・解任
  • 取締役、監査役などの役員報酬

株主総会には、定時総会と臨時総会の2種類があります。

定時総会は毎年1回、年度末決算日から3カ月以内に開催されます。多くの会社は3月末決算なので、6月に定時株主総会は集中します。定時総会の主な議題事項は、事業状況の報告と計算書類の承認です。

臨時総会は、特定の決議事項について株主の承認を得るために開催されます。取締役は必要に応じて、いつでも臨時総会を開催することが可能です。

株主総会で経理が担う役割

会社は定時株主総会で、貸借対照表、損益計算書などの計算書類と共に事業報告を行います。計算書類は「第*号議案 第**期計算書類承認の件」の形で決議事案として提出され、株主総会で承認するかどうかの手続きが行われます。

株主総会当日の議事進行や計算書等の報告、質問への対応は取締役や担当役員が行います。経理が担う主な役割は、計算書類の準備と想定問答の作成といった事前準備です。

発生タスクとスケジュール

例えば事業年度末日が3月31日の会社であれば、遅くとも6月30日までには株主総会を開催する必要があります。開催までの主な流れは、以下の通りです。

  • 計算書類等の作成
  • 定時株主総会 招集通知の発送(公開会社の場合は株主総会の2週間前まで、非公開会社の場合は原則として株主総会の1週間前まで)
  • 議決権行使書の提出期限(原則として株主総会の前日まで)
  • 定時株主総会の開催

時間的な制約が多いので、スケジュールに沿って準備を進めることが重要です。

株主総会前にやること

経理が担当する事前準備は、計算書等の作成と財務状況に関する想定問答の準備です。それぞれのポイントについて解説します。

資料作成(事業報告書、計算書類、監査報告資料、業績の概要など)

株主総会で報告する主な書類には、以下のようなものがあげられます。

  • 事業報告書
  • 計算書類
  • 監査報告資料 など

このうち、経理が主に関わるのは「計算書類」ですが、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表の4種類があります。

計算書類は、株主総会の前に発送する招集通知に添付します。つまり、それまでに計算書類は監査役による監査を経て、取締役会へ提出、承認を得ておくことが必要です。

質疑応答の事前準備

経理に関連するもう1つの事項は、株主からの質問に対する想定問答の準備です。計算書類に関する質問については、作成部門である経理が質問を想定し明確な回答を準備します。特に、大きな金額の営業外費用や特別損失が発生した場合は、内容を整理し、分かりやすく説明できるようにしましょう。

株主総会は時間が限られていますので、議事をスムーズに進めるためにシナリオを作成したり、リハーサルを行ったりします。質疑への応答は、担当役員がリハーサルで実際に回答し、顧問弁護士にアドバイスをもらうなどすると良いでしょう。

株主総会後にやること(株主総会翌日以降)

定時株主総会の翌日以降に、官報による公告、日刊新聞紙による公告、電子公告のうちいずれかの方法で決算を発表する必要があります。この貸借対照表などの計算書類を世間一般に発表することを、決算公告といいます。

決算公告の準備

株式会社は、定時株主総会後すみやかに決算公告を行うこととしています。大会社(資本金5億円以上または負債の合計が200億円以上)は、貸借対照表と損益計算書を開示し、大会社以外は貸借対照表のみの開示となります。決算公告が会社法で義務とされているのは、会社の債権者へ財政状況を開示し損害を回避するためです。

計算書の公告は義務とされていますが、上場企業など金融商品取引法で有価証券報告書の提出する会社は決算公告を行う必要はありません。有価証券報告書は、事業の概要や設備投資の状況、財務諸表などの情報が記載されており、広く開示されますので、決算公告の代替とされます。具体的には、金融庁が管理する「EDINET」に有価証券報告書をアップロードし、自社のホームページにリンクを貼るなどの対応を行います。

株主総会で発生した費用の会計処理

株主総会は規模によってさまざまな費用が発生します。具体的な経理処理の方法について解説します。

会場費、お弁当代、お茶代、懇親会費用、手土産・ノベルティ等…

会場を借りた場合の費用、会場設置の費用、株主へのお弁当代やお茶代、プロジェクター使用料などは「会議費」として処理します。会議費は、会社の事業に関連して行われる社内外の会議や打ち合わせにかかる費用のことです。

例:株主への昼食代合計5万円を現金で支払った(消費税は考慮しません、以下同じ)

借方金額貸方金額
会議費50,000現金50,000

株主総会後に株主と懇親会を開催する場合、基本的には「交際費」として処理します。交際費は、会社が仕入先など事業に関係がある者を接待、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用で、税務上は損金算入に一定の制限が設けられています。

ただし例外として、飲食等に要する費用のうち一人あたりの金額が5千円以下の場合には税務上の交際費から除かれる点に注意しましょう(専ら自社の役職員や親族の接待等に要する費用は一人あたりの金額が5千円以下であっても税務上の交際費等の額に該当します)。

例:株主総会後、株主に対して懇親会を開催した

借方金額貸方金額
交際費200,000現金200,000

株主に対して、菓子折りなどの手土産を渡すこともあるでしょう。手土産は贈答品に該当するので「交際費」として処理します。

例外として、自社製品等のサンプルを渡す場合は事業の宣伝にあたるため「広告宣伝費」となります。ただし、あまりにも高額な場合は交際費に該当しないか検討が必要です。

例:株主への手土産として自社製品のサンプルを手渡した

借方金額貸方金額
広告宣伝費100,000現金100,000

まとめ

株主総会の開催はスケジュールが決まっていますので、全体のスケジュールに則って準備を進めることが重要です。経理担当者は、計算書類の準備と想定問答集の作成を行います。決算書類から質問されそうな項目をピックアップして、説明する担当役員へ内容を理解してもらいます。株主総会で経理が担う役割を把握し、スムーズに進むよう事前準備をしっかり行いましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

監修 税理士 川口 拓哉

著者

税理士(近畿税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。個人の税金から法人の税金までの幅広い税目について知識と実務経験を有する。川口拓哉税理士事務所所属。

川口拓哉税理士事務所