利益を回収できない!?ピンチに役立つ減損会計
減損会計とは
減損会計とは、会社が保有する収益性の下がった固定資産について、その回収可能価額まで帳簿価額を減額する会計処理のことです。言い換えると、将来のキャッシュが減った状況を固定資産の簿価に反映させることを示します。
会社が建物や機械設備、器具備品などの固定資産を高いお金を支払ってまで購入する理由は、その固定資産から生み出される収益があるからです。つまり固定資産の価値は、将来の収益に対応しています。
しかしその後、ライバル社の出現や代わりの製品が流通した場合、その固定資産から購入時に見込んでいたほどの収益を回収できなくなるでしょう。そうするとその固定資産の価値は、当初見込まれていた価値より減少します。このとき、その固定資産の価値を本当に回収できる価額までに切り下げるのが減損会計です。つまり、企業が抱える含み損を帳簿に適正に反映させる会計処理になります。
減損会計には固定資産の価値を適正化することの他に、企業間の統一ルールを作る目的もあります。いくら収益が下がったからといって、各企業が独自の基準で固定資産から損失を計上してしまうと、企業の比較可能性が失われてしまうでしょう。そこで減損会計というルールを定めることにより、全ての企業が同じ基準で固定資産から損失を計上することができるようになったのです。
減損会計の対象となる固定資産
減損会計の運用について定める「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の第68項では、減損会計の対象となる資産について「有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる」としています。具体的には、以下のようなものです。
- 建物
- 機械装置
- 建設仮勘定
- 土地
- のれん
- 特許権
- 長期前払費用 など
なお、対象外になるものとしては次のものが挙げられます。
- 「金融商品に関する会計基準」における金融資産
- 繰延税金資産
- 市場販売目的のソフトウェア
(参考)固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準委員会)
減損会計の手順
減損会計は次の手順に沿って行います。
- 手順1:減損会計の要件に該当するか確認する
- 手順2:回収可能価額を算定する
- 手順3:回収可能価額まで減損する
それぞれ、詳しい内容を見ていきましょう。
手順1:減損会計の要件に該当するか確認する
減損会計を行うには、その対象となる固定資産が以下2つの要件に該当することを確認します。
- 減損の兆候があること
「減損の兆候があること」とは、収益性が下がっている状況として次のような状況があることを指します。
- 営業活動から生ずる損益またはキャッシュフローが継続して赤字である、またその見込みがあること
- その資産の使用されている範囲や方法について、回収可能額を著しく低下させる変化が生じたこと、またはその見込みがあること
- 経営環境が著しく悪化したこと、またはその見込みがあること
- 市場価額が著しく下落したこと
- 減損損失が相当程度に確実であること
「減損損失が相当程度に確実であること」とは、割引前の将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回ることをいいます。この割引前の将来キャッシュフローとは、将来の収益を現在価値に割り引いていないもののことです。
たとえば1年に100万円ずつ、3年間にわたって収益を生み出す器具備品があった場合。その割引前の将来キャッシュフローの総額は、100万円×3年間で300万円になります。もしこの器具備品の簿価が400万円だったとすると、割引前の将来キャッシュフロー総額の方が少ないため、減損損失が認められるのです。
ちなみに、通常キャッシュフローで価値を判断する際は、金利等を元に現在価値に割り引いた後の金額(割引前より少額な金額)を使います。では、なぜ減損会計では「割引前」の将来キャッシュフローを使うのでしょうか。その理由は、その減損がより確実なものであることを裏付けるためです。
「割引後」よりも高額になるはずの「割引前」の将来キャッシュフローでさえ固定資産の簿価を下回るようであれば、より減損が確実なものであるということができます。したがって、減損損失が確実かどうかの判断においては、あえて「割引前」の将来キャッシュフローを使用するのです。
手順2:回収可能価額を算定する
回収可能価額とは、以下のうちいずれか大きい方の価額です。
- 正味売却価額
- 使用価値
正味売却価額とは、資産の時価(市場価格、自社算定額、鑑定評価額など)から処分費用見込額を控除した額を示します。これに対して使用価値とは、その資産が生み出す「割引後」の将来キャッシュフローの価額です。
たとえば、先ほどの1年に100万円ずつ、3年間にわたって収益を生み出す器具備品の場合。割引率が年3%とすると、それぞれの割引後の価値は以下のように算出されます。
1年後・・・100万円÷1.03
2年後・・・100万円÷(1.03の2乗)
3年後・・・100万円÷(1.03の3乗)
この3年間分を合計し、282万8,611円となるわけです。なお、もし器具備品の正味売却価額が290万円だった場合、正味売却価額>使用価値で回収可能価額は290万円となります。
手順3:回収可能価額まで減損する
固定資産の帳簿価額を、仕訳によって回収可能価額まで減損します。たとえば帳簿価額400万円、回収可能価額290万円の器具備品の場合、減損する帳簿価額は400万円-290万円=110万円です。勘定科目は「減損損失」を使い、仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減損損失 | 110万円 | 器具備品 | 110万円 |
なお、減損損失は損益計算上の特別損失に表示されます。
資産のグルーピングとは
減損会計の手順1で、将来キャッシュフローを使って減損損失の有無を判断しました。しかし固定資産の中には、単独でキャッシュフローを生み出せないものがあります。たとえば賃貸物件の場合、土地と建物の2つの固定資産で賃貸収入を生み出すでしょう。このような場合は手順1に入る前に、建物と土地を「グルーピング」して「資産グループ」を作り、グループ単位で減損会計の判断に入ります。
グルーピングを行う基準は、「他の資産又は資産グループのキャッシュフローからおおむね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位で行う」と定められています。
(引用)財務会計基準機構 固定資産の減損に係る会計基準
資産をグルーピングした場合、ポイントは手順3における固定資産の減損処理です。この際、手順2で認識された減損損失は、各固定資産の帳簿価額に基づき比例配分などで計上されます。
例:回収可能価額360万円の資産グループ(土地600万円、建物300万円、合計900万円)を減損する場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | |
---|---|---|---|---|
減損損失 | 540万円※1 | 土地 | 360万円※2 | |
― | ― | 建物 | 180万円※3 |
※1 資産グループ900万円-回収可能価額360万円=540万円
※2 540万円×土地600万円/資産グループ900万円=360万円
※3 540万円×建物300万円/資産グループ900万円=180万円
まとめ
減損会計とは、将来のキャッシュが減少したことを固定資産に反映させる会計処理のことです。減損会計の対象や手順について確認をしました。上記を参考に会社の資産に、こうした状況が発生していないか適宜チェックしましょう。
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