おさえておきたい連結納税制度の基本と特定同族会社の目的

おさえておきたい連結納税制度の基本と特定同族会社の目的

「特定同族会社」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
連結納税制度の下で、いわゆるファミリー経営の企業が特定同族会社の要件を満たす場合、特別の税制の適用対象となります。

ファミリー経営で事業を運営しておられる方や、そうした企業にお勤めの方、ファミリー経営の企業と取引のある企業の方は、特定同族会社に関する課税制度を理解しておくと何かと便利かもしれません。

今回は、連結納税制度についての基本的理解を確認した上で、特定同族会社についてご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。

連結納税制度とは何か

連結納税制度とは、簡単に言えば「グループ会社の法人税を親会社がまとめて申告して納税する制度」のことです。

連結納税制度は、2002年に企業の経済活動の活性化を目的として新設されました。しかし、連結納税を開始する際や、連結納税を行っている企業グループに加入する際などは、子会社の繰越欠損金については引継ぎが制限され、制度活用に際しての足かせとなる部分があり、活発に利用されているとは言い難い状況でした。

これを正すべく、2010年の税制改正等を経て、徐々に連結納税制度に関するデメリットが軽減され、グループ内の損益を通算した上で納税できるメリットが一層活かしやすい制度に変化してきました。

今日では、大企業はもちろん、中小企業であっても会社の財務戦略を考える上でのオプションとして欠かせない要素となっており、連結納税制度の導入企業数は逓増傾向にあるのです。

連結納税制度利用の5つのメリット

連結納税制度利用のメリットは、大きく分けて5つあります。

1. 連結グループ内の損益通算

連結納税制度活用の最大のメリットと言えるのが、連結グループ内の会社間で損益通算ができる点です。
連結納税制度を採用すると、100%内国法人グループにおいて黒字会社と赤字会社の所得金額を相殺することができます。当初、赤字が予想される新規事業を営む子会社や持株会社を運営するケースでは、この損益通算によって節税効果が生まれます。

2. 繰越欠損金の早期解消

連結納税制度を考えるにあたって、繰越欠損金というキーワードは外すことができません。
繰越欠損金とは、ある決算期で発生した赤字(マイナスの所得)のことです。繰越欠損金は最長7年間繰り越され、翌期以降に生じた黒字と相殺することが認められています。
繰越欠損金は、会社のキャッシュフローに対して大きな影響を与える可能性があります。たとえば、黒字期に発生する可能性がある税金コストの抑制を図ることが、過去の赤字額である繰越欠損金の役割になります。
連結納税制度の適用にあたり、親会社の繰越欠損金は連結納税グループ全体で利用できます。たとえば、親会社に多額の繰越欠損金があり、黒字の子会社が存在しているとき、親会社の繰越欠損金を子会社の所得金額の黒字額に充当できます。そのため、親会社の繰越欠損金の早期解消とグループ全体での節税効果が実現するのです。

3. 連結納税ベースで算定することにより税額控除の拡大の可能性

連結納税制度を選択適用すると、試験研究費や外国税額控除における控除限度額の計算が連結ベースになります。そのためケースバイケースですが、研究開発型の企業グループ等で同制度を選択適用することにより、税額控除額の拡大等のメリットを活かすことが可能になります。

4. 所得調整(受取配当、交際費等)の点から連結納税ベースの算定で有利になる可能性

連結納税制度を選択したケースだけではなく、100%の親会社では、子会社法人からの受取配当金などは負債利子が控除不要になり、全額が損金不算入となります。また、交際費や寄付金の損金不算入額の計算も連結ベースで行うため、有利となるケースもあるでしょう。

5. 繰延税金資産の計上も連結納税ベースで判断可能

連結納税制度を選択すると、連結グループ内での所得及び連結欠損金の通算ができます。そのため、繰延税金資産の回収可能性の判断においても、対象法人の将来所得額に加えて、グループ法人の将来所得金額との通算も考慮しなければなりません。単体では欠損金を解消できないケースでも、グループ全体で解消できると判断できれば、その欠損金に対する繰延税金資産を計上することも期待できます。

ここまでで連結納税制度の概要がお分かりいただけたかと思います。次に、特にファミリー経営を行っている企業に関連して、特定同族会社について見ていきましょう。

特定同族会社とは何か

まず、同族会社の定義をご説明します。
同族会社とは、上位大株主3人の持ち株比率を合わせて50%を超える会社を指します。

同族会社の中で以下の要件を満たす企業を、特に特定同族会社といい、特別の税制である留保金課税制度の適用対象となります。

  1. 被支配会社(株主等1人が50%超の株式を所有する会社)であること
  2. 被支配会社でない法人以外の株主のみで判定した場合に被支配会社となること
  3. 資本金が1億円超であること、または資本金5億円以上の法人の100%子会社であること

特定同族会社の留保金課税制度の目的

特定同族会社の留保金課税制度とは、少数の株主によって支配される会社が、会社の獲得した利益について配当などを実施せずに社内に留保することによって、個人株主としての所得を回避することを防止するための制度です。
具体的には、所得金額から、配当などによる社外流出額と当期の所得に対する法人税及び住民税を控除した額が留保控除額を上回った場合に、通常の法人税とは別に、その上回った額に対して、特別税率を適用して追加的な法人税を課す制度です。

本来、株主は出席先企業からの配当金の受取、あるいは株式価値の上昇を通じて、利益を追求します。しかし、両者が同一グループ内の会社で支配・被支配の関係にある場合、連結会計、及び連結納税制度の存在によって、被支配会社側の利益を支配会社が吸い上げるインセンティブを持たない場合があるどころか、個人としての課税所得を小さく見せるため、意図的に配当を控えて節税効果を得ようとする場合があります。現在の税制は、こうした節税対策を許しておらず、それがこの留保金課税制度の背景となります。

まとめ

今回は、連結納税制度と特定同族会社の留保金課税制度について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
連結納税制度は、連結グループ経営の浸透に合わせて、活用による節税メリットがあり得る制度ですが、特定同族会社の要件を満たす場合には、一部節税を認めずに留保金に対しても課税する制度が併用されていることがお分かりいただけたと思います。
だからこそ、制度を正しく理解して、自社の発展のために有効な選択と適切な運用を行いたいものです。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。