【公認会計士執筆】のれんって何?会計初心者が知っておきたいポイントを解説
新聞やニュース番組などを見ていると「のれん減損による大幅赤字」、「大型M&Aによる巨額ののれん計上」などの文字が目に入ってきますよね。さて、この「のれん」という言葉は皆さんご存知でしょうか?「のれん」は会計の学習をしていないとあまり馴染みのない言葉ですが、会計的に非常に重要であり、奥の深い論点かと思います。今回はこの論点について会計初心者の方でも分かりやすいように噛み砕いてわかりやすく解説しようと思います。
※文字が読むのが苦手な方はこちらの動画もおすすめです。
のれんを一言で言うと?
のれんを端的に表現すると「買収された企業の貸借対照表に計上されていない価値のある見えない資産」です。これだけだとまだピンとこないと思いますので順番に説明していきます。
企業の貸借対照表の資産部には企業が将来お金を稼ぐための源泉たる”建物”や”機械”などの価値のある資産が計上されています。貸借対照表を見れば企業の財政状態だけでなく、企業が将来どれだけ稼ぐ力を保有しているのかが分かるとも言えます。
しかし、企業の保有する稼ぐ力がこの貸借対照表にすべて載っているわけではありません。たとえば、契約をたくさんとってくる優秀な営業マンを企業が雇っていたとすると、この営業マンは企業にとって非常に価値があるといえます。さて、企業の貸借対照表を見るとこの営業マンは資産の部に計上されているでしょうか?答えはNOです。なぜなら、優秀な従業員の価値に値段をつけることはできないからです。優秀な従業員の他にも企業のネームブランドや業務の仕組みなども値段はつけられないですが価値のあるものです。もし企業が自由に値段をつけていいことになると無法地帯と化し、企業は皆、見栄を張ってたくさん計上すると予想されます。よって、会計上は値段のつけられないこのような「見えない資産」に対して貸借対照表に計上することを禁止しています。
見えない資産が貸借対照表に計上される瞬間
しかし、この「見えない資産」が貸借対照表に計上して良いとされる瞬間があります。その瞬間とはいつかというと「企業買収」です。
たとえば、当社は業績が良好な他社A社を買収しようと考えて、いくらで買収しようと検討していたとします。このとき、他社A社の貸借対照表を調べると資産100億円、負債70億円、純資産30億円だったとします。よって、当社はA社資産100億円から負債70億円をすべて返済し終わったら正味の資産は30億円(純資産額)だから、A社の資産30億円すべて買い取るからA社を買収させてくださいとA社に提案します。そうすると業績良好なA社は「嫌です。我々の企業はもっと価値があります」と断られるはずです。
そのため、当社はA社の価値を検討し直し、50億円ではどうか?とA社に提案し直すとA社は「OKです!」と買収を承諾し、買収が成立したとします。このとき両社は何を考えていたのかというと、当社は「A社の純資産額30億円だが、それ以上の価値(プラス20億円分)があるため50億円が妥当な金額だ」と考えて、A社もそれに納得したから買収されることを承諾したのです。つまり、当社はA社には貸借対照表に載っていない「見えない資産」が20億円分あると判断し、そこにお金を払ったわけです。この「見えない資産」20億円こそが「のれん」の正体であり、買収によって初めて「見えない資産」に正式に値段がつけられ、当社がA社の見えない資産を購入したとして当社の貸借対照表に計上されることになります。
この20億円の中には先ほどもお伝えしたようなA社の優秀な社員、ブランド価値、消費者の良い口コミ、効率的な業務設計などの見えない資産が入っています。それらをまとめて「のれん」と呼称しているのです。
ちなみに余談ですが、のれんの語源は居酒屋などの入り口に垂れ下がっている布などの「暖簾」からきていると言われています。これは、暖簾は居酒屋の看板であり、人気の居酒屋の暖簾(看板)には見えない価値があると言われていたことに由来すると言われています。
のれんの会計処理(日本基準)
さて、当社の貸借対照表に「のれん」が資産として計上されたわけですが、どのように会計処理するのでしょうか?日本の会計基準では、20年以内の一定の期間内に均等に償却することが求められています。たとえば、A社ののれん20億円は20年間効果が続きますとすれば、20億円÷20年で、毎年1億円が当社の損益計算書の「販売費及び一般管理費」に「のれん償却費」として費用計上されます。なお、のれんの金額に重要性がない場合(たとえばのれんの金額が100円だけでしたなど)、その買収した年の費用として計上しても良いとされています。
のれんの会計処理(IFRS)
国際的な会計基準である国際財務報告基準(IFRS)では「のれん」は償却しないとされており、日本の会計処理と異なります。日本の会計基準を採用している企業はのれんを毎年償却する必要があるため、その分営業利益が下がってしまい負担となりますが、IFRSを適用している企業はのれんを償却する必要がないので、日本の会計基準を採用している会社に比べて営業利益への負担は軽くなります。そのため、多数の買収を実施したり、大型の買収を実施した企業は、貸借対照表に巨額ののれんを計上することになり、日本基準を採用している場合は「のれん償却費」が毎年負担となってきます。それを回避するために巨額ののれんを計上している企業はIFRSを採用している企業が多い傾向にあります。
経理プラス勉強会動画:IFRSの基礎知識
経理プラス:IFRS(国際会計基準・国際財務報告基準)とは?導入のポイントとメリット・デメリットを解説!
まとめ
新聞やニュースで「のれん」という言葉は頻出しますが、正しく理解することによってその企業に何が起こっているのかを把握しやすくなります。企業の貸借対照表に「のれん」が多額に計上されている場合、それは買収を多数実施したか大型の買収を実施した結果であり、稼ぐ源泉たる見えない資産が多額に計上されているということを意味します。また、企業が採用する会計基準によってその会計処理も変わってきて、企業の業績に大きな影響を及ぼします。この機会に貸借対照表の1項目である「のれん」に注目し、その企業の状況や影響について考えてみましょう。
経理プラス:収益認識基準とは 2021年から適用の基本ルールと導入のポイントをわかりやすく解説!
この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。