固定資産回転率の基本 3つの具体例から見る財務分析方法

固定資産回転率の基本 3つの具体例から見る財務分析方法

固定資産回転率は、財務分析をする上でよく必要とされる指標のひとつです。この指標によって具体的にどのようなことが分かるのか、またはどれくらいの数値であれば理想的なのか、ご存知でしょうか。
今回は、固定資産回転率の概要をはじめ、計算式や分析の方法ついて詳しく見ていきましょう。
 

固定資産回転率の概要

固定資産回転率とは、保有する固定資産が会社の運営において、どれくらい有効に利用されているかを示すものです。
固定資産には、一般的にイメージされる不動産ばかりではなく、機械や社用車なども含まれます。
有効に利用されているかどうかは、主に回転率が高いほど固定資産の運営が安定しており、回転率が低いほど、固定資産が有効利用されていない可能性があるとされています。回転率が低い場合は、固定資産が有効利用されていないことを示していますので、固定資産の運営とのバランスを考えたときに、固定資産への投資が過大である可能性があります。
つまり、回転率を把握することで、固定資産が不良資産になっていないかを見極めることができます。

たとえば、製造業や建設業などは、大規模な設備投資を行っていることがあります。また、業種によっては会員権など投資的な要素を持つ固定資産を保有することもあるでしょう。これらの投資が大きければ、回収できるまでに長い期間が必要になり、気付かぬうちに利益を生み出すことのない不良資産になっている可能性も考えられます。

仮に利益を生み出さない不良資産を抱えてしまった場合、業績低下を招く恐れがありますので、綿密にチェックを行う必要があります。また、やむを得ず早期処分などを判断する場合にも固定資産回転率が指標となるでしょう。

固定資産回転率の計算方法

固定資産は、主に「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他資産」の3つに分類されます。

有形固定資産の一例

保有する土地建物などの不動産
機械設備
什器などを含む車両や備品

無形固定資産の一例

ソフトウェア

投資その他資産の一例

株式
会員権

これら3つの固定資産を合算して固定資産回転率を算出するのが一般的ですが、その計算式は次のとおりです。 固定資産回転率=純売上高÷固定資産

この計算式によって、算出された数値をどのように判断すべきかについては、後ほど説明しますが、算出方法としては複雑ではないでしょう。しかし、業種によって同じ数値でも判断が異なります。
仮に純売上高が3億円、固定資産が5,000万円とすると、計算式は下記の通りになります。 3億円÷5,000万円=6(回)

この場合の固定資産回転率は6回と算出されましたが、たとえば流通業の場合は、5回転以上が理想的な数値といわれています。そのため、それぞれの業種に応じた目安の固定資産回転率も知っておく必要があるでしょう。

固定資産回転率で分かる財務分析

先にも述べましたが、固定資産回転率は保有している固定資産が適切であるか、無駄がないかを判断する指標となります。
固定資産回転率が高い場合は固定資産が収益に効率よく利用できていると判断でき、逆に低い場合は収益に対して固定資産を上手く利用できていないと判断することができます。

たとえば製造業の場合において回転率が低いなら固定資産に対して売上高が少なく、設備の稼働ができていないと判断できます。また、回転率が高すぎるなら、受注に対して生産が追い付かず、在庫が不足している可能性があります。

また、収益に結びつかない固定資産は、不良資産となる可能性が高く、保有していても業績向上に貢献できないと判断することがあります。そのため、収益につながるような活用方法を検討する、または早期の処分をするなど何らかの対応策を考えていかなければなりません。

固定資産回転率の分析注意点

固定資産回転率を分析する際には、次の点に注意しながら見ていくことが大切です。

同業、同規模で比較する場合

固定資産回転率を分析する上で、他社との比較を行うときには、業種が同じ企業と比較することも大切ですが、自社と同規模の企業を比較対象とすることも重要です。 なぜなら、業種が同じでも、企業としての規模があまりにも違う場合、本当の意味での目安とはいえないことがあります。

一時的に大規模な設備投資がある場合

作業の効率化などのために、一時的に大規模な機械を導入した場合は、数年単位で見たときに、固定資回転率が大幅に変動する可能性があります。このような事例では、単純な数値で判断することができないため、数年単位で著しく変動があった場合は、現況をしっかりと判断して分析することが大切です。

利益が出たときの投資

業績が良好で、大きく利益が出たときには、投資として不動産や設備を購入することがあります。大きな投資であればあるほど、回収には期間がかかり、その間に業績が低迷することも考えられます。
このような投資は、後に経営を圧迫する恐れがありますので、一時的な目先の利益で投資した固定資産に関しては、企業の収益に貢献できるものかどうかを、客観的に判断する必要があるでしょう。

財務分析の手法やその他の指標については、以下の記事でまとめておりますので、ぜひ参考にしてください。

経理プラス:財務分析をするうえで押さえておくべき5つのポイントと重要指標

まとめ

今回は、財務分析で使われている固定資産回転率について、計算方法や分析においての重要性、分析での注意点などについてお伝えしました。
業種によっても大きく判断が違うため、数値だけで自社の財務状況を判断することはできません。しかし、固定資産という長期にわたる資産が活かされているかどうかを分析するのは、新たに設備をする上でも大いに役立つでしょう。
また、単年度だけではなく、将来的な設備計画も見据えてしっかりと分析していくことが重要です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 渡部 彩子

渡部さんお写真w240h240

大学卒業後、自動車関連の社団法人にて10年以上に渡り管理部門に在籍。経理・総務・人事の実務を経験し、同法人在籍中に日商簿記2級を取得。その後、保険・金融業界での経理業務の経験を経て、ライターとして独立。これまでの実務経験を元に経理業務をテーマとしたコンテンツ制作を中心に執筆。