調整対象固定資産で必要な対応とは ポイントは消費税計算にあり

調整対象固定資産で必要な対応とは ポイントは消費税計算にあり

消費税額の計算は、基本的には単年度ごとに計算が行われます。しかし、一部の設備投資については、複数年度に渡って納税額に影響を及ぼすものがあります。今回は調整対象固定資産について確認をします。

 

調整対象固定資産とは

まず調整対象固定資産の定義について確認します。

「調整対象固定資産」とは、棚卸資産以外の資産で、建物及びその附属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位の価額(消費税及び地方消費税に相当する額を除いた価額)が100万円以上のものをいいます。

(引用)国税庁「No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整」

調整対象固定資産の取得をしている場合、消費税の計算にさまざまな影響を及ぼすことになります。

 

消費税額計算の基礎

消費税の納税額計算について、基礎を確認します。各事業者が納税する消費税は、以下の式で計算されます。

納税額 = 売上から預かった消費税 - 費用計上時に支払った消費税(仕入税額控除)

預かった消費税をそのまま納税するのではなく、仕入税額控除の分だけ控除されるというのが大きなポイントです。仕入税額控除については、注意すべき点がいくつかあります。

(参考)国税庁「No.6351 納付税額の計算のしかた」

(参考)国税庁「No.6401 仕入控除税額の計算方法」

 

納税義務の免除や簡易課税適用についての特例

消費税では、小規模事業者のための免税制度があります。一方で、自ら課税事業者を選択する制度も用意されています。
自ら課税事業者を選択した事業者が、所定の時期に調整対象固定資産の取得をしている場合には、免税事業者の判定で特例的な取扱いがされます。

消費税課税事業者選択届出書を提出し、その届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日から2年を経過するまでの間に開始した各課税期間(簡易課税制度の適用を受ける課税期間は除きます。)中に国内において調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合には、その調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ消費税課税事業者選択不適用届出書を提出することができず、簡易課税制度を選択することもできません

(引用)国税庁「No.6501 納税義務の免除」2 課税事業者を選択する旨の届出

(参考)国税庁「消費税法改正のお知らせ」

 

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課税売上割合が著しく変動した場合

仕入税額控除を計算するときに重要な指標のひとつが、課税売上割合です。

課税売上割合

消費税法では課税売上、非課税売上、不課税売上など、売上についていくつかの分類がされています。各事業者は、売上内に「消費税の課税売上がどれくらいあるのか」について、割合計算をします。この割合が高ければ高いほど、仕入税額控除は大きく計算されます。つまり、納税額が減るということです。

調整対象固定資産を取得した事業者の課税売上割合が大きく変動した場合、仕入税額控除に影響を及ぼすことがあります。
調整対象固定資産について、比例配分法を用いて仕入税額控除を計算している場合、以後3年間において課税売上割合が大きく変動している場合には、第3年度の課税期間において仕入税額控除について調整を行います。

「比例配分法」とは、個別対応方式において課税資産の譲渡等とその他の資産に共通して要するものについて、課税売上割合を乗じて仕入控除税額を計算する方法又は一括比例配分方式により仕入控除税額を計算する方法をいいます。
なお、課税期間中の課税売上高が5億円以下、かつ、課税売上割合が95%以上であるためその課税期間の課税仕入れ等の税額の全額が控除される場合を含みます。

(引用)国税庁「No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整」

(参考)国税庁「課税売上割合の計算」

 

転用をした場合

調整対象固定資産に係る仕入税額控除の計算において、個別対応方式を採用し「課税業務用」または「非課税業務用」として処理をした場合において、その調整対象固定資産について

「3年以内に課税業務用から非課税業務用へ転用した。または非課税業務用から課税業務用へ転用した。」

この条件に該当した時点で、その転用をした日の属する課税期間において仕入税額控除を控除(納税額の増加)または加算(納税額の減少)する処理を行います。

1年以内に転用  調整対象税額の全額
1年超2年以内   調整対象税額×2/3
2年超3年以内   調整対象税額×1/3

課税非課税共通業務用として処理していた分については、基本的には適用がありません。

(参考)国税庁「第4節 課税業務用から非課税業務用に転用した場合の調整」

(参考)国税庁「第5節 非課税業務用から課税業務用に転用した場合の調整」

 

なぜ調整対象固定資産に関するこのような規定ができたのか

調整対象固定資産に関する各規定が用意されたのは、仕入税額控除の制度を使った「過剰な租税回避行為」が理由とされています。
居住用マンションの建設現場で自動販売機を設置して課税売上割合を調整し、マンション建設に係る消費税の還付を受ける、といった手法が一部で流行していました。
このような「一般的とは思われない取引形態による租税回避」を防ぐために、調整対象固定資産に関する規定ができたのです。

これらの規定を読み解く場合には「仕入税額控除を受けるだけ受けて、その後の消費税納税は避けたい、ということを防止しようとしている」という制度の狙いを念頭においておくことで、理解がしやすいのではないかと思われます。

 

まとめ

調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合、その後の消費税計算においてさまざまな影響が発生します。課税事業者選択届出書を提出している状態で調整対象固定資産の取得をしている場合、その後の納税義務判定や簡易課税適用に影響を及ぼします。
また一定の期間内において、課税売上割合が大きく変動していたり、調整対象固定資産の転用を行っていたりする場合には、仕入税額控除に一定の調整が発生します。
制度全体を理解するためには「仕入税額控除の受け逃げは許されない」という狙いを把握しておくことが重要です。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 高橋 昌也

税理士 高橋 昌也

高橋昌也税理士・FP事務所 税理士 1978年神奈川県生まれ。2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。

高橋昌也税理士・FP事務所