コロナ禍で経理に求められること 固定費見直しのポイントを解説

コロナ禍で経理に求められること 固定費見直しのポイントを解説

令和2年6月中旬の今(※執筆時点)、日本国内では新型コロナウィルス感染症の第1波は収束に向かっています。ただ、4月・5月の外出自粛による景気の冷え込みは想像を大きく超えるものがありました。多くの中小企業では資金繰りが困難となり、助成金・給付金・緊急融資が必須になりました。しかし、助成金や給付金はこの先何度も実施されるとは考えにくく、融資は据え置き期間ののちには返済をしていかなければなりません。

今後起こるかもしれない第2波・第3波も考えると経費は極力抑えたいところです。特に毎月発生する固定費を抑えていくことは重要です。

ただし、経費は抑えればいいというわけではなく、先々への影響を考えていかないとかえってお金がかかってしまうことにもなりかねません。ここでは、景気回復時の影響も踏まえて固定費の見直しについて説明します。

固定費とは、変動費とは

経費は勘定科目で固定費や変動費に分けることができます。この区分けは、一般的には売上金額や販売数量によって変動するかどうかで行います。売上によって変動するものを変動費、変動しないものを固定費と呼びます。

最近は国をあげて生産性の向上を目指しており、少ない投資でいかに大きな利益を得るか、少ない労働量でいかに大きな利益を得るかが重要になっています。
生産性向上は、固定費と変動費を軸に主に3つの視点で検討をします。

  • 売上に対する変動費の割合を下げる
  • 固定費を減らさずに多くの売上(利益)を上げる
  • 固定費を減らして売上(利益)を維持する

できることなら固定費を減らさずに多くの売上を得たいところではありますが、現実にはそうも言っていられません。無駄を省いていかに売上を伸ばすか。そのあたりを踏まえて個別に解説しましょう。

固定費削減と生産性の向上

人件費

人件費をただ削減するのではいい会社とは言えません。現在の一般的な考え方として、残業を前提にしない勤務が生産性の向上につながると考えられています。決められた時間内に多くの業務を完了させることで生産性が上がるということです。
まず、事務面の生産性を上げるためにシステムの活用が必須になるでしょう。 たとえば、これまで人手によってこなしていた経理作業はシステムの活用によって効率化することが可能です。経理の様々な業務を以下のように変えることができます。

たとえば交通費の精算は、交通費精算システムを活用することで、交通系ICカードなどの履歴をインターネット経由で取得して、システム上でチェック、精算し、結果を会計ソフト等に取り込むことができます。

小口の経費も、経費精算システムを使えば、領収書をスマートフォンやスキャナーで読み込んでデータ化、システム上で処理することが可能です。
銀行取引は、インターネットバンクからデータを取得し、会計ソフトに取り込むことが可能です。

給与計算は、タイムカードのWebシステム導入で残業時間や手当の計算を自動化し、振込データをネットバンクへ送信することで、振込金額の入力作業がなくなります。また、有給休暇管理、社会保険の手続き、年末調整の管理も自動化が可能で、結果を会計ソフトに取り込むことも可能です。

売上の請求は、Web請求書発行サービスで作成し、メールでの送信や郵送依頼サービスを使えば、これもペーパーレス化も進み、社内の作業も削減できます。また、ネットバンクからの取り込んだデータと照合することで、面倒な売掛金の消込も自動化が可能です。

このように経理システムの導入は、手作業では起きやすかったミスを削減するとともに相当な作業量の削減につながります。

地代家賃

家賃は安いに越したことはありません。しかし、ただ家賃交渉をして下げてもらえばいいというわけではありません。家賃は需要と供給によって決まっていくものであり、大家さんは建築ローンの返済や固定資産税などの経費を家賃収入でやりくりしています。そのバランスを崩してまで家賃交渉をすることはいいこととは言えません。
考えなければならないのは、今借りているオフィスが会社の必要としている広さに合っているのか、事業内容が広さや場所に合っているか、在宅勤務の定着による面積の縮小は可能か、などを検討して、移転することにより家賃が下がり、事業内容に合ったオフィスになるのであればいい経費節減になります。

水道光熱費

水道光熱費は省エネ設備の導入や電気の供給会社の変更によって経費を削減することが可能です。省エネ設備の導入は自治体から助成金を受けることができる場合もあるので積極的に検討してみましょう。

リース料

リース料は意外にあまり気にされないことが多く、実はすでにどの機器のリース料を払っているのかわからなくなっているケースが少なくありません。最初に組んだ機器のリースの支払いが終わらないうちに次の機器のリースを組み直すことを繰り返していると、リース残高が多額になり終わりが見えない状態になっていることがあります。リースの明細をもう一度見直し、買取りが可能な場合には買取りも検討してみましょう。

広告宣伝費

定額で支払っている広告費がどれだけ目的に貢献しているかを検討してみましょう。どのような媒体・サービスで広告を出すか、またそれぞれどのような効果があるか、費用が適正かをあらためて検討することが必要です。

諸会費など

会費も検討の余地がある固定費の一つです。使っていない福利厚生費用や参加していない会の会費がある場合には解約も検討する必要があるでしょう。

保険料

保険は契約年数が経過すると環境が変わったり、新しい商品が発売されたりと、ある程度の期間で見直しをすることが必要です。新しい保険は以前より補償内容がよかったり、保険料が下がっていたりする場合もあります。また、補償内容や保険金額は会社にとって適正かどうかの検討も必要です。

まとめ

これまでに経験のないコロナショックにある現在、できる限り経費を抑え、売上の減少を埋めていきたいと考えてしまうでしょう。ただ、必要な経費を削減することによって会社が必要以上に小さくなってしまうことに十分注意しなければなりません。生産性の向上を念頭において、売上増加につながる意味のある経費削減を進めましょう。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 税理士 須栗 一浩

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税理士法人エムエスオフィス 代表税理士 平成7年税理士登録・開業。平成27年より税理士法人へ合流。現在に至る。会社税務から個人の確定申告、相続税に至るまで活動範囲は広い。 固くない、いつでも話せる税理士としてクライアントからの信頼は厚い。ファルクラム租税法研究会研究員