決算書の見方のポイントをおさえて財務分析に活用しよう

決算書の見方のポイントをおさえて財務分析に活用しよう

企業にお勤めの方であれば、決算書を見たことがない方は極めて少ないでしょう。
決算書とは、狭義には損益計算書を指し、広義には財務諸表を指すと考えられます。
今回は、決算書を見るにあたっての効果的な視点について、代表的なものをご紹介していきます。

決算書は会社の通信簿

決算書とは、先ほど説明した通り、狭義には損益計算書のみを指し、広義には財務諸表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書等)を指すと考えるのが一般的です。

狭義の決算書である損益計算書は、一定の期間における企業活動の成績を表す、いわば通信簿のようなものといえるでしょう。
一定期間における企業活動の中で、収益を得て支出を行った結果、残る利益をもって企業活動の成績を推し測ろうとするわけです。

学校の通信簿は学校の先生の一存で決められますが、企業の通信簿は基本的に自己申告方式です。
企業は経営状況に応じて、通信簿をより良いものに見せたい場合もあれば、より悪いものに見せたい場合もあります。

決算書内容をより良いものに見せたい場合とは…

株主に対して企業経営がうまく行っていることをアピールしたい場合

企業経営を株主から委任されている経営陣は、企業の所有者である株主の期待に応えなければなりません。
株主の期待とは、企業の経営が安定的に成長することを通じた株価上昇、受取配当の増額です。株主の期待に応えられない状態が続くと、株主の権限による経営陣交代の事態も想定されます。
したがって、企業の経営陣としては、株主に対して企業経営がうまく行っていること、期待に応えることをわかりやすく示すために、通信簿である決算内容を良く見せたいインセンティブを持っています。

融資者に対して企業経営がうまく行っていることをアピールしたい場合

銀行等から融資を受けている企業、または近い将来、新たに融資を受けたいと考えている企業は、融資モニタリング・融資審査に耐え得る通信簿を備えたいと考えます。
融資者側に対して経営の安定性、財務体質の健全性を認めてもらうことは、融資審査の判断、利子率の高低に関わる重要な要素です。
したがって、融資を受けている(受けたいと考えている)企業は、融資者に対して企業経営がうまく行っていることや借入金の返済を問題なく行えるだけの財務体質にあることを示すために、通信簿である決算内容を良く見せたいインセンティブを持っています。

取引先に対して企業経営がうまく行っていることをアピールしたい場合

取引先に対して経営の安定性、財務体質の健全性を認めてもらうことは、安定的な取引、より自社に有利な取引条件(価格・支払期限)に関わる重要な要素です。
したがって、取引先に対して安定的な取引を行う財務体質にあることを示すために、通信簿である決算内容を良く見せたいインセンティブを持っています。

従業員に対して企業経営がうまく行っていることをアピールしたい場合

従業員に対して、経営の安定性、事業の成長性を示し、安心感やモチベーションを付加したい場合があります。
たとえば、中小企業の場合、経営が行き詰まると、そうした負の空気感が従業員に対しても伝わってしまうことが少なくなりません。根拠のない「大丈夫」の言葉をいくらかけても、従業員の不安は消えず、場合によっては転職したり、支払われる確証のない残業を拒んだりするかもしれません。こうした状況に陥るのを防ぐため、比較的客観性を示しやすい決算書の内容を以て、経営基盤の強靭性をアピールしたいインセンティブを持っています。

決算書内容をより悪いものに見せたい場合とは…

節税を目的として課税所得を小さく見せたい場合

会計上の利益と課税所得は完全には一致しませんが、互いに強い相関関係にあります。会計上の利益が小さければ、課税所得も小さくなり、納税額も小さくなるため、現金流出が抑えられるのです。
ルールを明確に犯した場合は「脱税」ですが、税務的にルールの運用には一定の選択の幅がありますので、その幅の中で自社にとってより有利な選択を行うことは「節税」と呼ばれ、合法行為です。
したがって、企業は利益最大化・キャッシュフロー改善のために、節税を目的として決算書内容を控えめな数字に抑えようとするインセンティブを持っています。

市場の期待値をコントロールしたい場合

上場企業の場合、決算報告と同時に翌期の事業計画を公表しており、市場はその情報を参考に株価を形成しています。
計画値に対して実績値が上下にぶれることは市場に対してサプライズを与えることとなり、結果として株価が大きく変動することにつながる場合があります。株価が大きく変動することは、企業経営にとってややマイナスと解釈されます。株価の先行き不透明感からリスクを嫌った投資家が株を売れば、株価下落につながりますし、株価下落は時価総額低下を通じて、融資者や取引先との交渉力低下にもつながりかねないからです。
したがって、企業は市場の期待値を適切にコントロールし、株価を安定させたいと考えており、市場の期待を大きく上回るような利益が出そうな場合には、それを極力小さく抑えようとするインセンティブを持っています。

決算書の見方のポイント

ここまでは、決算書に潜む恣意性について考えてきました。ここからは、決算書を見るときの代表的な視点についてご紹介していきます。決算書の見方の参考にしてください。

1. 単独期の決算書を見るときのポイント

  • 効率性を見る
    効率性分析とは、事業の元手である投下資本(資産・負債)をどのくらい効率的に活用して、売上高や利益を生み出しているかを分析する手法の総称です。小さな投下資本で大きな利益を生む事業の効率性は高く、大きな投下資本で小さな利益しか生まない事業の効率性は低いと評価します。

     

     効率性分析の代表的な指標を挙げます。
     ・総資本回転率
     ・売上債権回転率
     ・有形固定資産回転率
     ・棚卸資産回転率
     ・仕入債務回転率

  • 安全性を見る
    安全性分析とは、企業の倒産リスクを評価する手法の総称です。狭義には、企業の支払能力(solvency)の分析と言い換えることができ、短期支払能力と長期支払能力に分類されます。

     

    安全性分析の代表的な指標を挙げます。
    ・自己資本比率
    ・流動比率
    ・当座比率
    ・固定比率
    ・固定長期適合率

  • 収益性を見る
    収益性分析とは、企業の総合的な利益創出力を評価する手法の総称です。管理会計の代表的な分析手法には、安全性分析や効率性分析などが挙げられますが、ある意味、これらの分析よりも重要なのが収益性分析といえるでしょう。なぜなら、どれほど安全性が高く、効率性が高い経営を行っても、利益を上げられなければ継続的な事業運営は不可能だからです。

     

    収益性分析の代表的な指標を挙げます。
    ・売上高利益率
    ・総資本利益率
    ・自己資本利益率
    ・財務レバレッジ効果

2. 複数期の決算書を見るときのポイント

  • 成長率を見る
    売上高、利益等の成長率に注目すると、事業が伸びているのか、停滞しているのかが見えてきます。
    たとえば、売上高・利益ともに成長しているが、利益の成長率より売上高の成長率が高い場合には、「事業規模拡大に成功している一方、固定費が重いためか規模の経済のメリットを享受できていないのかもしれない」などの推測が展開できます。
  • キャッシュフローを見る
    決算書を見るときは、どうしても利益金額に目が行きがちですが、一歩踏み込んで企業経営の状態を見るためには、キャッシュを創出する能力に注目する必要があります。利益金額に対してキャッシュフローの黒字幅が小さい場合、投資が先行していたり、運転資本が増加していたりするかもしれません。

まとめ

今回は、決算書に潜む恣意的な側面と、決算書の見方について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
決算書を注意深く見ると、企業経営の実態が見えてくることがあります。また、より正確な実態を把握するためには、さまざまな角度から光を当てる必要があるのです。決算書一式には、そのための情報が掲載されていることを感じて頂けたかと思います。

この内容は更新日時点の情報となります。掲載の情報は法改正などにより変更になっている可能性があります。

著 者 田中 仁

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大手総合商社にて10年間勤務し、新規事業開発を中心に資金調達、財務・会計等を担当。 東京のほか、アメリカのベンチャーキャピタルやイギリスの金融機関等にて勤務経験もあり。